プロローグ
「あそこの神社、ときどき神隠しが起きるんだって」
そんな噂を信じていなかったけど、事実だと身をもって知ることになった。
夕暮れ空、どこかで鳥が鳴いていて、背の高い木々に囲まれたさびれた神社。
だったはずなのに、今は真っ黒な空間にいる。
さらに光をまとった美しい女性が現れた。
「おお。迷える人の子、大山穣太郎よ。あなたはこれから、異世界に飛ばされます」
ネットで見かけた女神のイメージに近く、今まで見たことがないくらいの美人だ。
いきなり名前を言い当てられたショックはあったが、それ以上に後半部分が引っかかる。
「はい? 異世界?」
でも訳の分からないことをいきなり言われて、ポカーンとしてしまう。
「私は女神ポンティクルス。これからあなたに加護を授けましょう」
どうやらおかまいなしに進行していくつもりらしい。
「……女神様なら、まずは俺を元の世界に戻してくれませんか?」
誰の記憶にも残らないモブみたいな人生だったけど、それでも未知の世界に飛ばされるよりは、まだマシなはずだった。
それに母さんもいる。
母子家庭で必死に俺のためにがんばってくれているんだ。
「この状況でそれをやると、あなたの肉体が耐えられません。世界間の移動には絶大な負荷がかかるからです」
「マジか」
女神ポンティクルスを名乗った女性は、本当に悲しそうな顔で目を伏せる。
「まずあなたには加護を授けます。言語を理解し、適性にあった技能を獲得できます。病気などに耐性も得るでしょう」
「……それはすごそう」
女神の説明にあっけにとられた。
どんな技能を獲得できるのか気になるが、他は便利かもしれない。
「ふむ。あなたが目覚めた技能は魔法ですね。運がいい」
「運がいいんですか?」
女神の言葉に疑問をぶつけると、美しい微笑が返ってくる。
「ええ。魔法が非常に盛んな世界なのです。魔法技能を鍛えていけば、自力で元の世界に帰還できるでしょう。望めば二つの世界を行き来できるかもしれません」
女神の説明をすべてわかった自信はない。
だが、どうやら当たりを引いたらしい、ということは理解できた。
「もともとあなたの中で眠っていたもの。あなたの素質ですし、鍛えて損はないですよ?」
女神の言葉をどこまで信じるべきかわからない。
でも、試しにやってみようと思う。
「これはサービスの魔導書です」
女神に黒い表紙の一冊の本を渡された。
「あなたがそのとき覚えられる魔法の名前と詠唱が、自動的に登録されていくので、なくさないでくださいね」
「ありがとうございます」
けっこういいサービスだと思う。
新しい魔法を覚えるために、あっちこっちさ迷う必要がなさそうだ。
「あともう一つ。これもサービスです」
女神は黒い指輪を渡してくる。
「収納用の魔道具──魔法の力を宿した道具ですね。指にはめて収納と唱えるだけで、効果を発揮します。重宝するでしょう」
すごい便利そうなアイテムだ。
「ありがとうございます」
これまたいいサービスだったので、もう一度礼を言って右の人さし指に指輪をはめる。
「本当に帰れるんですよね?」
すくなくとも母さんのところには帰りたいぞ。
「女神の名において誓いましょう。では、グッドラック♪」
女神は軽く言って、俺の意識は途絶えた。




