第1話:魔王、絶望を知り、産声を知る
ゴールデンウイーク中、仕事が暇だったので、まとめて執筆しました。
皆様が楽しめるように、頑張っていきます。
かつて、世界は剣と魔法の輝きの中にあった。
「……ここまでか。魔王・サタン」
漆黒の玉座の間。立ち込める魔力の残滓と、鉄の匂い。その中心で、勇者・海藤誠は聖剣を構えていた 。その背後には、ボロボロになりながらも勝利を確信した仲間たちの姿がある。
対する魔王、剛。彼は玉座に深く腰掛けたまま、腹部の深い傷を右手で押さえ、不敵に笑った 。
「ガハハ! 完璧だ、勇者。貴様のその隙のない構え、まさに一分の狂いもない。俺の敗北だ」
この異世界において、魔王は「暴力」と「恐怖」の象徴だった。しかし、剛自身はどこかで飽き飽きしていたのだ。魔法の強さが全てを決め、血筋が運命を縛る。そんな予定調和な世界に。
「最後に一つ聞け、勇者よ。……もし、魔法も力も介さない『戦い』があるとしたら、貴様はどうする?」
「……何を言っている?」
「知れたこと。貴様のそのクソ真面目な正義感が、どこまで通じるか見てみたかっただけよ」
剛は残った魔力の全てを練り上げた。それは反撃のためではない。魂を異世界の理から解き放つための、禁忌の転生魔術。
「さらばだ、勇者! 次に会う時は、もっと面白い盤面で遊ぼうぞ!」
眩い光が視界を白く染め上げ、剛の意識は無限の闇へと沈んでいった。
次に目覚めた時、そこは「戦場」ではなかった。
(……温かい? それに、この妙に狭い感覚はなんだ……?)
魔王としての記憶は鮮明にある。しかし、自慢の魔力は一切感じられない。代わりに、全身を包むのは強烈な無力感。手足は驚くほど短く、自分の意志で動かすことすらままならない。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
聞き慣れぬ言語。だが、意味は直感的に理解できた。
(……赤ん坊? この俺が、赤ん坊だと!?)
視界が開ける。そこには、魔族のドロドロとした情念など微塵も感じられない、清潔で、どこか無機質なほどに白い部屋。そして、自分を覗き込む「母親」と思わしき女の、底抜けに慈愛に満ちた笑顔。
「剛……。佐藤剛。この子の名前は、剛にしましょう」
その瞬間、魔王だった男は悟った。
ここには、魔法も、魔物も、自分を崇める部下もいない。ただの人間、佐藤剛としての人生が始まったのだ。
(ガハハ……面白い。魔法が使えぬなら、この無力な体一つで、この新しい世界をどう『征服』してやろうか!)
しかし、壮大な野望を胸に抱いた魔王の第一声は、周囲にはただの元気な泣き声として響き渡った。
「おぎゃあ! おぎゃあ!!」
魔王、佐藤剛。享年五百と数歳。 現代日本という名の、最も複雑で、最も刺激的な「遊技場」に、堂々の降臨である。
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