部活見学に行こう!①
「どう? 昨日は楽しかった?」
「……」
「それは楽しかったよね? だって、今日はまた、放課後に二人で部活を見て回ることになったんだもんね?」
「それはそう……だけど」
翌日学校に行くと、大路がスマホ片手にニヤッと笑って俺に話しかけてきた。
実はあの連絡のあと、俺は大路に高嶺さんと部活見学に行くことになったことを話していたのだ。
「瀬崎は、本当に高峰さんと仲がいいね……? うん。羨ましいなあ。羨ましい。本当だよ?」
「……大路」
気遣ってくれたのはありがたかったが、教室でからかわれるのは違う! 俺が恨みがましく名前を呼ぶと、大路は「あははっ」と声を上げて笑った。
「ごめんごめん。お詫びに、瀬崎にはこれをあげる。入れる部活と部活の場所、一応メモしておいたから」
「助かる」
明らかに大路にからかわれている、とは思うものの、その気遣いはありがたかった。
俺は、大路から渡された紙を確認した。どうやらわざわざ手書きして用意してくれたらしい。
「これ、大路が用意したのか?」
「うん。ヒメが、二人の役に立つかもしれないって言ってたから」
なんで俺と高峰さんのことを、大路が姫野さんと話してるんだ……?
大路は女子からモテてはいそうだが、個人的に一人一人の女子と特別仲良くしているようには見えない。
だとしたら――まさか、大路は姫野さんと付き合ってるとか?!
「『ヒメ』? 大路は、姫野さんと仲がいいのか?」
いつもはこちらがからかわれてばかりなのだ。
軽い反撃のつもりで尋ねれば、何故か王子は少し困ったような顔をして、それから俺から視線を逸らした。
その表情は憂いを含んで、どこか悲しげでさえある。
「うん。まあ……。ただ僕は、君たちとは違うから」
「???」
この反応はなんだろうーー? いつもと違う大路の反応に、俺は少し調子が狂って、それ以上追撃はできなかった。
そして俺がじっと大路を見ていたら、大路は視線が気になったのか、「この件は終わり」と言わんばかりに、ぱん! と両手を叩いた。
「僕のことはいいんだよ。とりあえず今日だけど――部活、やってないところもあるみたいだから気をつけて。みんなに部活がある日は教えてもらったのも書いてあるから。運動部と文化系沢山あるし、全部回ろうと思ったら、今日だけじゃ無理だろうね」
「なるほど……。わざわざありがとな」
メモによると、月2程度の部活もあるようだった。部活が行われている場所もばらばらで幅広い。
「感謝されるほどのことではないよ。今日は高峰さんと回るんだよね? なら案内は、スマートな方がいいかなって」
大路にぱちっと片目をつぶってウィンクされて、俺は、昨日の夜の高嶺さんの小説【仮】を思い出した。
昨日の高嶺さん――は、俺のことをベタ褒めしてくれていた。
【私はずっと、マリたちに守られて過ごして生きてきました。この学校に来て、私は毎日、自分に足らなかったものを感じています。
でも私が一人そう感じてしまう時、いつも私には、手を差し伸べてくれる人がいます。
ハルくんです。
ハルくんは、いつも困ってしまった私を助けてくれます。
だからでしょうか。
今日の放課後、男の人と二人で教室に残るのは慣れないと思っていたはずなのに、ハルくんなら、もっとお話していたいと思ってしまいます。
しんとした教室。ハルくんの声は、いつもよりはっきり、柔らかく私の耳に届きます。
最近気付きましたが、ハルくんはどうやら、オウジくんや他の男子生徒と話す際、私の時とは様子が違うようです。何が違うのかというと、おそらくハルくんは、私と話す時はいつもより少し柔らかく話してくれているようなのです。
元々強い言葉や荒い言葉を使う方ではないようですが、私と話すときは、より一層気遣ってくださっているようです。
いつもより、ゆっくりとした話し方。
言葉の最後も、どこか丁寧に話してくださっている気がします。
そして、まるで「大丈夫だよ」――と。
そう言っているかのような優しい声と瞳で話されると、私は彼に特別大事にされているような、そんな錯覚を覚えてしまうのでした。
中庭から、部活動に勤しむ声が聞こえます。
私にはその声が、今は少しだけ遠くに聞こえました。
――この時間が、終わらなければいいのに。
でもそう思ってしまうのは、ただの私のわがままです。これ以上ハルくんに、お手間を取らせるわけにはいきません。
本当は明日も放課後、二人でこうしてお話できると嬉しいのに――私がそう思っていると、スマートフォンのLIMEの画面に、こんな言葉が現れました。
【もし部活決まってないなら、よかったら明日、一緒に部活見学にいかない?】
LIMEからの連絡ならば、LIMEで返すべきなのかもしれません。ただ私は嬉しくて、ついハルくんのお顔見て返事をしてしまいました。
「はい。ハルくんと一緒に、私も見学したいです!」】
勿論、高嶺さんがこんな内容を書くものだから、コメント欄は大盛り上がりしていた。
【スマホで誘うのがいい。逆に青春を感じる】
【放課後デートは人あんまり見てなくても、校内デートだとめちゃくちゃ見られる可能性高いからなあ。ハルさんも勇気出したのかな】
【付き合ってないんだ。これで??? ごめんあれ俺読み飛ばしてた? 告白両思い回どれ? 何話?】
【大丈夫。付き合ってないし告白もまだだぞ】
【メッセージもらったんだ! ならこれでいつでも見返せるね! 好きな人にもらったLIMEとか、何度でも読み返しちゃうよね】
【声で言われるのもいいけど、文字って見返せるから嬉しくなる時あるよね。悲しい時も逆もまた然りだけど】
【次回は校内デートですか!?】
【いいなあ。青春だなあ】
俺は、昨日の怒涛のコメント欄を思い出して頭を抑えた。
「瀬崎? さっきから頭を押さえてるけど、もしかして頭痛? 保健室行く?」
「……いや、大丈夫」
そういえば今回、俺にも一つ発見があった。大路はかなり字が丁寧で綺麗らしい。
なんだか、まるで女子みたいだ。モテる男っていうのはみんなこういうものなのか……?
「もし体調悪いなら教えてね。今度は僕が、瀬崎をおんぶしてあげる」
「変な噂が立つ未来しか見えないから絶対にやめろ」
■
かくして放課後、俺と高嶺さんは今日の部活見学のために居残っていた。
「瀬崎くん、今日も宜しくお願いします!」
「……うん。宜しくね」
昨日あの小説ならぬ日記を思い出した俺は、邪念を捨てろと己に言い聞かせた。
高嶺さんは天然なのだ。これは断じてデートでは……デートではない! ……はずだ。
「うーん。まずはどこに行こうか。高嶺さん、どこかいきたい所ある? 中学のときは何してた?」
「私は、学校の部活動ではなく、習い事をしていたので。お花やお茶なら……」
高嶺さんが控えめに答える。
お花やお茶。お嬢様らしい教養だが、メモを見る限り今日の見学は難しそうだった。
「華道部はないけど茶道部なら――いや、これ今日はやってないのか。ん?」
茶道部が行かないならどこに行こう? 俺が悩んでいると、ピコン!とスマホの通知音が鳴った。。
確認すると、1年A組のLIMEで、俺宛に女子から連絡が来ていた。
【瀬崎君、高嶺さんと今日部活回るんだよね? どこ行くつもりなの? 見たい部活とかある?】
【春人:俺は一応悩んでる所あるんだけど、高嶺さんが決まってないみたいで】
【そうなんだ? じゃあ、瀬崎くんは付き添いなのかな】
【春人:高嶺さん中学部活入ってなかったらしいけど、茶道は前からしてたらしくて。ただ、大路からもらったメモ確認したけど、今日茶道部はやってないんだよね】
【そっかあ。それは残念だね。でも、知ってることやらなきゃいけない決まりはないし】
【せっかくなら、色々見てほしいよね】
【そうだ! いいこと思いついた。せっかくだし、高嶺さんにうちのクラスの女子の部活に来てもらおうよ! そしたら案内しやすいし】
【高嶺さんと瀬崎くんなら来てもらっても問題ないと思うし】
【そうだね。それがいいかも!】
女子は明らかにこの状況を楽しんでいるようだ。
代わりに俺は明日男子に刺されるかもしれない。
いや、俺はおまけ。おまけだから! 女子のお目当ては高嶺さんだから! 俺に会いに来てほしくてはしゃいでいるわけじゃないから、お願いだからヘイトは俺に向けないでくれ……。
俺が心のなかで祈っていると、コメントが書き込まれた。
【内田:最初はバレー部においでよ! 体験したいならできるよう、先輩にも伝えておくからさ】
昨日は腕力で高橋を引きずっていた内田さんはバレー部らしい。
外見だけでもわかりやすい、快活そうなショート女子の彼女のイメージ通りだった。




