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SETSUー炎の姫と接続者《リンクメイカー》  作者: UMA20
第一章 満天を切り裂く陽炎星
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最終話-星断ち

 

 理解が出来ないことが起きている。


「な、なぜだぁぁぁぁぁぁっっっ!!?」


 確かにLG(ライフゲージ)はゼロになった。

 気絶していた。

 誰の目から見ても、プーサーの勝利は揺るがないはずだ。

 そのはずなのに──倒したはずの敵が起き上がって、迫り来る。


 星弾を生み出し、手当たり次第に飛ばす。

 光速を持って爆発をもたらす星弾は、今度こそ、掠りでもすればそのまま気絶へと持っていけるはずだ。

 なんなら絶命する可能性だってあるだろう。


 あと一撃。あと一撃当てることができれば──


 –


 黒い泥へと沈み込む。

 意識が断たれた瞬間というのは、沈みゆく泥の中から現実世界の水面を眺めているような、そんな意識の浮遊感をもたらしている。

 泥に沈み切ってしまえば、完全に気絶し、勝敗は決まる。

 その前に、ブランクは告げる。


接続(リンク)開始(スタート)!」


 身体が黒い闇に包まれる。

 重力より重い、意識を包み込み眠りへと誘う強制力の高い泥だ。

 身体から伸びてゆく光の線だけが泥から露出し、水面へと向かっていく。

 光の線すら黒い泥に侵食されていく。

 じわじわと蝕んでゆく黒い闇は光の線を包み込み、水面に到達する前に意識を刈り取らんとするが──水面に接続した。


 光の線を包んでいた闇は剥がれ、泥の中から押し出されるようにブランクは水の中を上がってゆく。

 そうして──現実世界へと帰還を果たした。


 –


「なぜだ!! 今更!! なぜ!!」


 プーサーの怒りは尤もだ。

 決闘は既に決着している。

 プーサーの勝利で、幕を閉じたはずなのだ。

 そのはずなのに敵はそこまで迫っている。


「なぜボクに勝てると思った!! 勝てるわけがないだろう!! 諦めちまえよ!!!」


 だが、ブランクは既に死に体だ。

 プーサーが作ったミルキーウェイに乗って、近づいて来ているだけ。

 最早歩く力さえ残っていない。


 プーサーの作り出す星の魔術には、一種のポーズが発動の鍵となっている。

 夜の帳であれば、腕をあげ十字のポーズに。

 ミルキーウェイであれば船長が発進を指示するように、指を指す必要がある。


 今は動かない右腕で。


 途方もない準備と、多くの幸運が積み重なり、今の現状を生み出した。

 それでも、絶望的状況なのは未だ変わらない。


「諦めろ諦めろ諦めろ!」


 プーサーの無限の魔力かは生み出される星の魔術の攻撃が、一回当たるだけで充分決着がつくほどの疲弊度合いだ。

 正に虫の息。

 負ける要素などどこにもない。


「諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ!!」


 なのになぜか心には嫌な闇が溜まっていく。

 ポタポタと。ポタポタと。

 それはこめかみに流れる冷や汗か。

 それとも。


「諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ!!!」


 直感ではない。

 予感でもない。

 これは経験則の()である。


 未だ体験したことのない事態が起きている。

 それがプーサーの心を、不安という感情に走らせる。


 ピンチなど至ったことのないプーサーからすれば加速度的に。

 不安の感情は増大していく。


「皆──勘違いしてるよな」


「あぁっ!?」


 不安に駆られたプーサーのその五感は、人生で最も洗練されていた。

 力なく呟いたブランクの言葉を聞き逃さない。


「ボクが、一体、何の勘違いをしているってぇっ!?」


「してるだろ!! 僕が、貴方に勝てると思って立ってるわけがないじゃあないですか!!!」


「な────」


 それは、意外な告白だった。

 プーサーを貫く眼差しは真に迫っており、彼が嘘をついていないことなど明白だ。

 であれば、何故にそんな言葉を口にしたのか。

 プーサーが思案を巡らせる前に、ブランクは答えを口にする。


勝たなきゃ行けない(・・・・・・・・・)からここに来たんだ!!!」


「────」


 その決意は正に。

 相手を軽んじることなく、

 自身を増長させていたわけではない。


 誰もがいうこの決闘の結末を理解してからの言葉だった。


 勝てる決闘ではない。

 勝てるわけがない。

 だからどうした、と。


 勝てないなら、諦めるのか。

 可能性がゼロなら辞めるのか。


 違う。

 この戦いは、勝つか負けるかじゃなく。


 勝たなきゃ──行けない。

 戦いなのだ。


「ファレーナさんの横に立つ男になるためにぃぃっ!!!」


「それがどうした!! ボクは、星だぞォォォォッッ!!!」


 ブランクは星の速度を持って肉薄する。

 プーサーの放つ星弾の弾幕を全て切り伏せ、回避して、ついにその手を伸ばせば届くところまでやって来た。

 左手で振り回すショートソードを速度に乗せて、プーサーへと走らせる。


「天上の夜闇を切り裂く一番星! 地上を徘徊する虫ケラ程度では到底触れることすらできない気高き存在だ!! お前程度に、負ける道理はないんだぁッ!!!」


 その剣撃を星の剣で受け止める。

 エクスターカリバー。プーサーが有する、最強の剣だ。

 しかし彼が使用したのは、不慣れな左腕での防御だった。


(クソ!! 右腕がぁぁぁあっっ!!)


 ダラリと下がった右腕さえ生きていれば、限りなく少ない膂力を持って、両腕で防御することができた。

 それであればエクスターカリバーの絶対的な攻撃力を持って、ブランクの迎撃を行えた。


 しかし今は防ぐので精一杯だった。


「星星星星星星星星星星ぃっ!!! 雑魚虫程度にぃぃっ!!! まけなぁぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃ!!!!」


 拮抗する力と力。

 両者とも左腕での剣撃が始まる。

 だがプーサーの方が慣れていない分、少しずつその差は埋まってゆく。

 少しずつ少しずつ。


「星程度で!!」


「あ!?」


 苛立つ、プーサーの感情は限界値に達していた。

 不敬なブランクの言葉にしかし、続く言葉にプーサーは目を開く。


「見える。見ることができる。でも太陽は、見ることすら困難だ」


 燃え盛る灼熱の星。

 空を見上げれば、誰もを照らす星がある。

 全生命を優しく温める、夜の闇に寂しく細々と光る星などよりよっぽどそれは──。


「僕が目指す星は──太陽の隣だ」


 瞬間、プーサーの瞳には無いはずのブランクの左腕を見た。

 黒に染まった、まるで地面から精製していた武器と同じ素材のその義手が、ショートソードの柄を掴む。


 剣気は炎のような揺めきを放ち、白い光に包まれる。


「白光剣──」

(これはあの時見た──ファレーナさんの技)


 速度を持って熱を上げ、

 炎はその姿を赤から白へと変える。


 灰すら残さない破壊の一撃のその名は、


星断(ほしだ)ち」


 星すら両断する、一撃である。



 —



 深い闇の世界の中で、自分の弟子がひたすら懸命に戦っている姿を見ていた。

 とても擁護できない怪我の具合であり、今すぐに代わりに戦って、敵を葬り去る。

 その意識で戦いの行末を見て、気が変わる。


 弟子の顔は──いつの間にか男の顔をしていた。


「……ん」


 そよ風が頬を撫でる。

 暖かい空気は、目覚めには適していた。

 肌をくすぐる踊る葉に、熱をじんわり与えてくれる土の温かさ。

 何もかもが、最高の目覚めを提供してくれる。


 ただ一つ、瞼の裏を焼く太陽だけが厄介だったが。


「ここは……」


 そこは小さな丘だった。

 エリュシオン王国の首都、エリュシテがよく見える丘だった。

 頭痛が酷い。朧げな記憶を遡り、最新の記憶を閲覧しようと試みるが、いつからここに自分がいて、何をしていたのか覚えていない。


「起きましたか」


 優しい声が鼓膜を揺らす。

 その声の方を見ると、一本の木に寄りかかる弟子──ブランクがいた。


「ブランク……」


「おや。驚かないんですね、だいぶ、変わったと思うんですけど」


「夢を、見ていた。貴方が戦う夢を」


「ネタバレですか、楽しみを取られちゃいましたね」


 たはは、と笑ってみせるブランク。

 だが彼の姿はとても笑って過ごせるような状態では無い。

 右目右腕は無くなり、身体中は傷だらけだ。


 恐らく、夢で見た決闘からそう時間は経っていないのだろう。


「はい。これ」


「……何よ、突然」


「プレゼントですよ。プーサーさんに買った報酬でもらいました」


 ブランクの手には赤い宝石のペンダントが握られていた。

 それはいつかの日、ブランクと初めて魔女を訪ねた帰りの市場で見た偽物のペンダントだった。


「本当は奴隷契約だったんですけど、あれってそもそもエマさんが取り付けた条件ですし、別に僕は奴隷のプーサーさんは要らないですからね。奴隷契約を破棄する代わりに、それを買ってもらいました」


「こんなものを……、もっと良いもの買えたでしょうに」


「魔剣、聖剣、聖遺物、色々ありましたよ。でも、それが欲しかったんです」


「それを私に上げてどうするのよ」


 深い溜息を吐く。

 自分の身体を痛め付けて得たものがこんな安物では割に合わない。

 今後の人生で腕と眼を引き換えに得るものでは決して無いはずだ。

 だが、


「でもファレーナさんが笑ってくれました」


 そう、ブランクに言われてハッとする。

 口角が若干上がっていた。


「ま、まぁ、くれるっていうならもらっとくわ」


「ええ、是非に。今回の初試合勝利の賞品ってことで」


「え! 貴方、ブラックナイトに勝ったの!?」


 身を乗り出すファレーナにブランクは眼を丸くした。


「ええ……そこ知らないんですか?」


「当たり前でしょ! 夢見ただけなんだから、全部知ってるわけじゃ無いわよ!!」


 プンスカ怒るファレーナの様子を見て苦笑するブランク。

 日常が帰って来たことがこんなに嬉しいことはない。


「お二人とも、お茶が入りました」


 後ろから、リベリカが声をかける。

 小さな椅子とパラソルを用意した、完璧な休日の洒落てるお茶セットを組み立てたリベリカはご満悦だった。

 その様子を見て、二人とも吹き出した。


「とりあえずまぁ、そこで色々聞かせてもらうわよ」


「もちろん、幾らでも時間はあります」


 丘を駆け上がる風に、草花は踊る。

 二人は今まであったことを、ある時は大袈裟にある時は誇張して、劇的に語り出す。

 小さな丘で、テーブルを囲みお茶を飲む様子は──まるでありし日の家族の団欒のようで。


 陽が落ちるまで、三人の談笑は続いたという。

 


こちらで完結となります!

ご愛読ありがとうございました。


Twitterをやっております。

https://x.com/mto_sasao2807

次作は、カクヨムとなろうでのダブル更新を予定しています。

よろしくお願いします!



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