15-魔女エマ
「だっははー! ブランク? っていうのかー、つまりはブラちんって事だね! シクヨロぉー!」
中指と薬指を畳んだハンドサインを作り、アホみたいなテンションで、はしゃぐ現代最強の魔術師。
傍目にはとても最強の魔術師とは思えない風貌をしていたが。
「ねぇ、これはどんな効果があるの?」
「えっとねー、敵目掛けて撃つと絶対に当たる弾だねー。ただし、機嫌を損ねると自分に向かって飛んでくるよ! 名付けてジコッチューダン!」
「こっちは?」
「それはねー身につけると透明になるマントだねー。ただし、魔力の燃費が半端なくて次の日お腹壊しちゃう! 名付けてポンポンペイン!」
「デメリットに乗っ取られてるわね……」
微笑しながらも尊敬の念を感じる対応をしていた。
迷っちゃうわね、なんて言いながら魔術道具を吟味している。
真剣にそれぞれの魔術道具を見ながら、魔女の説明を受けている。
ファレーナが魔女の腕を信頼している証拠だった。
そうしてファレーナが何かに迷ったあたりで魔女はブランクの方を振り向いて、
「そいえば、あーちの紹介してなかったねー! どもっす! 世界最強の魔術師、魔女やらせてもらってやす、エマ・テルマ・アルマだよー! よろしくぴー!」
またしても、中指と薬指を織り込んだハンドサインで挨拶をしている、陽気な人だった。
困惑しつつブランクも、同じサインを返した。
「よ、よろしくぴー」
「なーに、ブラちんノリ良ー!! あっはは!」
愉快に腹を抱えて笑って、背中をバンバン叩かれるブランクは抵抗する様子はなく、既に疲れている様子だった。
そうして、一通り見たファレーナは頷く。
「やっぱりブランクに合いそうな魔術道具はないか。まぁ、装備品はおいおいでいいでしょ。下手に道具に頼ると基礎が疎かになるからね」
「僕目的で来てもらってたんですか」
「そうよ。あんたは特殊だからね、私も育てた前例がないタイプだし……もしかしたらって思ってきたのよ。本命はこっちだけどね」
そう言いながら指を指した先は、舌を出しておちゃらけるエマだった。
「魔女、様ですか?」
「あっはー! そんな畏まらんでいいって! 気軽にエマって呼んでよ!」
あはあは笑うエマだったが、ブランクにはファレーナの真の意図は汲み取れなかった。
最強の魔術師にしか出来ない何かがあるということだろうか。
「最強の魔術師、というより私のコネがこれしかないのよ。幸運なんだか、不運なんだか……」
「たはー! 不運て、ファっちゃん! あーちのサポ受けられる人なんて中々いないんだよー! というか、あーちの友達、ファっちゃんしかいないし、お外出るとドキドキしちゃって人と話せないしで……ふぇんぴぇん」
「ま、コイツは置いておいて……」
突然テンションが下がるエマを置いて、ファレーナは説明を始める。
「彼女が“魔女”を継承した理由は、魔術界の深淵と呼ばれる一つの魔術に精通しているからよ。それは“魂”。彼女は人の魂を見ることができるの」
その言葉にブランクはハッとした。
この異様な魔術道具の店、喋り出すカンテラ、勝手に動く魔術道具達。これらは皆、各々が意思を持っているようで、正しく“魂”を持って動いていた。
「この規格外の魔術を持って、貴方の魂の鑑定を行うわ。記憶の専門家も一応いるんだけど、この国にはいないし、コネもないからね。とはいえ、妥協点としては最高よ。彼女以上の適任者はいないわ」
「突然褒めるじゃん、思わず胸がドキ胸だよ……」
「知らない言葉を使うなっ」
いてっ、とファレーナの軽いデコピンに額をさするエマ。
しかしファレーナのフォローに元気を取り戻したのか、身体の周りに光が溢れるような明るさでブランクの手を掴む。
「したら、あーちが魂見たげるよ! 現代最強の魔術師の魔術なんてそうそう受けられないよぉー!」
そう言って、ブランクを無理やり椅子に座らせ、散らかった机の上を両腕で薙ぎ払い、正面に座るエマ。
明るかった彼女の顔は一転、真剣な眼差しがブランクを貫く。
「魂・解」
彼女の目の奥が煌めいたと思えば、ブランクは闇の中を泳いでいた。
無重力の黒の中を浮かぶ不快感。
そしてその黒の奥には自分を覗き見る巨大な瞳の姿があり、心の奥の更に底。細胞の一つ一つまで盗み見られているような、感覚に思わず胃が収縮して──
「う、ぷ」
「終わり! よく耐えたねー! はい、お水飲みなー!」
「あ、ありがとうございま、んくんく」
スイッチを押すように様子が切り替わったエマは、懐から水の入った革袋を取り出してブランクに手渡す。
その勢いのままに飲み干すブランク。
あの心地悪さは形容出来るものではなく、出来れば二度と味わいたくない不快感であった。
そんなブランクを横目にファレーナは冷静に訊く。
「それで、どう?」
「うーん、ファっちゃんが事前に教えてくれたようなことは何もなかったかなぁ。呪いとか魔術による影響は見られないよ。至って健康な魂の色かな。特に異常もなかったしね。ただね、普通の魂と違うってことだけは分かったよ」
少しだけ真面目に頭にぐりぐりと、人差し指の関節を当てて考えるエマ。
何とか絞り出した言葉はファレーナを苛立たせた。
「勿体ぶるわね、結論を言いなさい」
ぐりぐり、ぐりぐり、ぐりぐりと。
それこそ血が出るまで捻って、目の中の闇が広がって、青白い炎が瞳の中に灯る。
それは彼女の魂の色なのか、それとも。
普段ファレーナに見る、ブランクだけが見える煌めきは──彼女の瞳の中にあるのか。
そうして、捻り出された血と共に吐き出される言葉は、恍惚な表情のエマから語られる。
「彼の魂は、既に最強の魔女やエリュシテの六勇者に匹敵する力がある」
2話投稿厳しそうでした……
ただ明日の昼は余裕がありそうなので、頑張って2話書きたいと思います。
投稿時間は15-18の間を予定しています。




