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俎板

「あやつは耳が良すぎての、喧しいのが苦手なんじゃ。その轡を付けられたのもどうせ大声でも出したからじゃろう?せっかくあやつには外してもらったんじゃし、取ってやろう。何も反応が無いのもつまらんしのう」



 メメントは僕の横を通り過ぎ、カノンの口いっぱいに詰められた布を取り除く。



「げほっ……ごほっ……おえっ」

「はてさて、こうなれば俎板の鯉じゃな。煮てよし焼いてよしじゃ」

「ぐ、うう……、ヴアルを返せ……!ヴアルは病気なんだ!こんなところに居たら死んじゃう!人質なら私がやる!」

「……は?馬鹿かおぬしは?やるやらないの問題ではないわ」



 ……カノンは至って真面目に言ってるんだろうけど、多分人質が何故人質なのか分かってない。



「……そうじゃ、せっかくじゃしひとつ面白い話をしてやろう。皇帝の気に入りの妃の誘拐は前々から画策はされておったんじゃが、決行するにはひとつどうにもならん壁があっての」

「壁……?」

「言っておくが塀の事ではないぞ。そして皇帝の張っていた結界でもない。それとは別にもう一つ、わしらを阻む障壁があった。……瘴気の結界じゃ。触れれば魔族のわしらでも飲み込まれそうな程高密度の瘴気の層じゃ。当然人間でもひとたまりもないはずじゃが、皇帝だけはそれを素通りできておった。妃はそんな事知らんような素振りじゃったが、おそらく妃自身が無意識に張っていた結界じゃろうな」

「ヴアルも魔法が使えたのか」

「魔法ではない。要するに、わしらと同じ能力のようなもので妃は外敵を阻む瘴気の結界を自らの力で纏っておった。おそらく病でさえも通さぬ絶対防御じゃ。わしらも手を焼いておったそれが突然綻び始めてのう。……何故か分かるか?」



 ……僕は、なんとなく話の顛末が見えてしまった。



「結論から言うとじゃ、全ておぬしの仕業じゃ」

「え……?」

「おぬしはしばらく妃のところへ通っていたそうではないか。そしてどうやらおぬしもこの小僧と同じく、わしら魔族の能力が効かんようじゃ。侵食した瘴気が綺麗さっぱり消え去っておる。しかも自分での制御ができておらん。つまりおぬしが居ると常に瘴気の穴が発生し、徐々にその場の瘴気を減らしていってしまうわけじゃ。瘴気が減れば結界も維持できんくなる。おかげで妃に接触できるようになったわしらが皇帝の結界の穴を突き誘拐できたというわけじゃ」



 ここまで来てようやく話の意味を理解したのだろう、カノンの表情が険しくなる。



「わ、私が……、私がヴアルと一緒に居たから……?」

「そういう事じゃの。アルケーの話と、わしが今日ここで得た情報をすり合わせた結果の答えじゃ。まったく皇帝も馬鹿な事をしてもうたのう」

「…………」



 カノンは黙りこくってしまう。


 真偽はどうあれ、ヴアルさんが攫われたのも病を患ったのも自分のせいだと言われたカノンの心情は察せられる。


 菌やウイルスさえ遮断する結界というのがもし幼児期からのものだったのならば、その頃に得られるはずだった免疫が全く無いわけだ。


 普通なら軽い病気でさえ重篤な症状になりかねない。



「……だったら、……私はヴアルに謝らなきゃいけない。だから絶対に助ける!」

「……折れんのう。だからといって誰も助けることなぞできんがな。人質も、この小僧も」

「おい……まて!やめろ!」



 メメントはおもむろに僕の方へ近づき、右足で僕の腹を踏みつけ体重を掛けた。


 抵抗のできない僕の口からは嗚咽だけが押し出される。

ご飯を食べたらすぐ眠くなって寝てしまい睡眠時間がしっちゃかめっちゃかだもんで、不摂生の極みみたいな生活をしております。

食べてすぐ寝ると牛に成ってしまうなんて言いますが、当方丑年生まれなので成るまでもなく既に牛です。

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