裏表
「──って訳で、私の目的はミラと一緒にあいつらから逃げて、どこかに隠れて暮らす事だ。そのためにあんたのご主人様を借りてる」
「はぁ、まあ、ボクの体の事を知らなかったとはいえ、仲間に成りすまし欺こうとして本当に仲間にされてしまうとはね」
「結果ウィンウィンなんだから別にいいだろ。今こうやって私の能力有効活用してるんだから」
「実際かなり便利な能力ではあるな。細かい部分で気になるところはあるがそれは後にしよう」
ミラの能力によって見た目も声もタルタロスさんになっているスピネと、本物のタルタロスさん同士が対話しているというシュールな絵面だった。
二人とも何も喋らずに居たら本当にどっちがどっちだか分からなくなるだろう。
後々ここにミラも加わってタルタロスさんの姿になるって事を考えると変な笑いが込み上げてきそうになる。
「さてレイ君、具合はどうかね。おそらくだが、この空間へ来たのもただ逃げるためという訳では無いのだろう?」
「具合はかなり良くないですけど……、とりあえず喋るくらいはできます」
僕は寝転がりながら応答する。
タルタロスさんもメメントの前でなければ、あらかたいつもの調子を取り戻せているようだ。
「結論から言うとスピネの能力を使ってヴアルさんを助けに行きます。部屋を塞ぐのに使った大岩の組成は把握してますよね?」
「ああ」
「ならまた魔術で消せるので、スピネの能力で作ったこの空間を通ってあの部屋を通過します。……一々修飾語付けた呼び方だと長いので、便宜上この空間の事を裏世界、元の空間の事を表世界って呼びますね。裏世界で何かを壊しても表世界には影響無いらしいので、裏世界で大岩を消しても表世界では大岩で塞がったままって事になります」
「裏世界か。私たちはあっちとかこっちとかって呼んでたけどな。まあ言い得て妙ではあるか」
ゲーム由来の名付けだが、共感を得られたようで良かった。
「たしか裏世界を作る時に決めた範囲は一旦表世界に戻らないと再設定できないんですよね?」
「そうだな。一応今回は咄嗟に作った裏世界だけど、あの部屋の先の通路くらいなら余裕で範囲内だ」
「良かった。メメントを本気で殺すつもりで戦ったのも、メメントの意識をこっち側の通路に向けるためだったので。多分そんなにすぐにはヴアルさんの方には戻ってこないんじゃないかと」
「そう上手くいくといいがね……」
「一応あの部屋を通過した後も基本的には裏世界を通って行くつもりです。能力の再使用までのインターバルとかって……?」
「1秒未満だ」
「なら特に問題無さそうですね」
さて、順調に行ったとして、残る問題はヴアルさんをどう連れ出すかだ。
スピネと一緒に裏世界に入る方法はスピネの視界に入っている事……。
逆に視界に入った生物は否応にも裏世界に全て連れて行ってしまうらしいが、そのあたりはひとまずは些事だ。
という訳でスピネの能力でヴアルさんごと裏世界に来るのは簡単だが、ヴアルさんと接触できるのはカノンしかいない。
ヴアルさんの体調はおそらくまだ良くはなっていないはずだし、介護は必須。
二人とはある程度距離を空けながら裏世界を通る事になるだろう。
暑っちい!




