探剣
ミザリーさんは京光刀を元の神器の姿へと戻した。
「…………」
「……どうかしたんですか?ミザリーさん?」
「いや、本当になんも来ねぇなって思ってよ。ほら、灯りを消して武器も納めたこの瞬間が一番の隙だろ?敵が潜んでるんだったらここが一番の仕掛どころじゃねぇか」
「なるほど……たしかに」
イメトレでもしているのだろうか?
とか思ったが、そういう考えがあっての間だったようだ。
「アタシも一応警戒はしてたけど、それが分かってて仕掛けて来ないなら相当の手練れか、ただのチキンだな」
「まあ本当に何も居ない可能性も高いですけどね」
敵の本拠地だと思ってた場所に何も居ないっていうのも結構不気味だが、僕たちがやろうとしている事に支障が無いなら良しとしよう。
そんなこんなで目が暗さに慣れてきたところで、ミザリーさんは神器を手のひらの上に乗せ、能力を発動させる。
「瘴気の方向を指す短剣……瘴気の方向を指す短剣……。こんな感じか?」
神器は徐々にその姿を変え、神器よりもさらに小さい短剣に変化した。
本体より小さくもなるのか……。
武器でさえあれば本当に何でもありなのだろう。
「うおっ!動いた!」
短剣は手のひらの上でその切っ先の方向を変え始める。
しかし、それは一周しても二周しても止まる事は無く、だんだんと速度は増し、宙に浮き始めた。
水平方向以外にも回転をし始め、もはや手を付けられなくなってしまう……。
「おいおいおい!どうすりゃいいんだこれ!?」
「もう止められそうにないですね……。でも手から離れたって事は、もうすぐ能力が解除されるんじゃないですか?」
「……そういやそうだな、忘れてたぜ」
「自分の能力なんですから……。ていうか自分で解除もできるんじゃないですか?」
自分で解除したのか時間切れなのかは分からないが短剣は元の神器に戻り、ミザリーさんは鋭利な部分の無いそれをキャッチした。
10秒以上手元を離れていたように感じたが、神器を使うとその制限時間も伸びるのだろう。
「ふう、なんとかなったな。見たろ?やっぱ上手くいかなかったぜ」
「そうですね……。でも僕、多分ですけど、原因は分かると思います」
「原因?何だってんだよ?」
「探知する瘴気の下限みたいなのを決めてなかったからじゃないですかね?瘴気って大気中にも薄く存在してるらしいですし、それら全てを感知しちゃってあんな狂ったように回転してたんじゃないかと」
「具体的にはどうすりゃいいんだ?」
「そこはミザリーさんの感覚頼りになっちゃいますが、もっと強い瘴気にだけ反応するようにするとか」
「分かったような分かんねーような……。とりあえずもっかいやってみっか」
ミザリーさんはもう一度手のひらの上で短剣を作った。
今度は一定方向を指し示し、間を置いてヒュンと飛んで行き、部屋の壁に突き刺さってから元の神器に戻った。
この方向はおそらく皇帝が戦っている場所への方角だ。
最も強い瘴気に引き寄せられたのだろう、つまり二度目も失敗。
範囲を狭めて三度目、今度は一切動かずおそらく失敗。
四度目も動かず失敗。
僕がやっているわけでは無いが、タルタロスさんが探知魔術は難しいと言っていたのがなんとなく分かった気がする。
五度目六度目と試行錯誤し、何度目か数えるのも止めたところでようやく……。
「お……?おっ!」
宙に浮く短剣がある方向を示し、その方向へと飛んでいく。
その切っ先は斜め下、地面を指し、刺さっていた。
「こりゃ成功って事でいいんだよな!?」
「地面……地下ですか。地下があるなら下り階段を見つけない事には判定しにくいですけど、暫定的に成功って事でいいんじゃないですか?」
「はあああ疲れたぜ!成功の記念に技名つけてやる!武曲・探剣だ!」
「ダジャレじゃないですか」
「何回も試行錯誤しながらずっと考えてたんだよなぁ」
「……もしかして、それで集中できなくて何度も失敗してたんじゃ……」
一番好きなパンは塩バターパンです。
パン屋に行ったら毎度必ず買ってます。




