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第1章 第8話 『正面突破』

第1章 第8話 『正面突破』




ヴァニシウス暦601年2月18日10時



王都ラズシーマ南門前



「どうやら目的地に着いたみたいだけど…。」


 そう言ってミズキは外の様子を覗った。彼は現在、馬車の荷台の上に置いてある樽の中に居た。理由は教えてもらえなかったが、カヤの指示で無理矢理中に入れさせられたのである。一応樽には穴が開けられており、外を見られるようにはなっていた。ミズキは村を出発してからその穴を使い、何度か外の様子を覗きつつ、到着を待っていた。


「全然動かないのはどうしてよ⁇」


 2時間ほどかけて今の地点にたどり着いたのだが先ほどからやけに馬車が動かない。止まっては数メートル動き、また止まるの繰り返し。しかし樽の穴からでは真横しか見えないのでよく様子がわからない。


「なんも見えんな。仕方ない‼︎」


パカッ。


 遂に我慢できなくなったミズキは樽の蓋を開け、直接状況を確認することにした。急な眩しさに目をかすめながら正面を見ると、そこには今までの人生で初めて見るものが存在した。


「こりゃ凄いわ………。」


 思わず感嘆の声を漏らしたミズキだがそれも無理はない。とてつもなく巨大な石の壁が目の前にそびえ立っていたのである。今までの村の木の柵とは比べ物にならないスケールの大きさと存在感。まさに異世界といったらこれという壁を実際に目にしてミズキは高揚した。

 そして少し目を落とすと正面には開かれた鉄の門と騎士のような容姿をした門番たちが居た。そして他にも馬車がずらっと並んでおり、なるほど中々動かなくなったのは検問で長い列ができていたからだということをミズキは理解した。

 見れば見るほど興味深いもので溢れており、気づけば完全に身を乗り出していたミズキだが、ジト目でこちらを鋭く見ている者の存在に気づき、体が凍りついた。


「エテッチア、ホタナヤ‼︎」


「はは。ご、ごめんなさ〜い……。」


 カヤが言ってることを大体だが察したミズキは、大人しく樽の中へと戻った。

 しかし、ここまでして自分の存在を隠そうとするのは何故なのだろうか。ミズキは考えた。やはりこの国の人間ではないというのが問題なのだろうか。戸籍を証明できるものなら財布の中にある免許証が有効だろうが、流石にこの世界では使えないだろう。もし自分の存在がバレたら自分やカヤさんはどうなるのだろうか。あまり浮かれてばかりいてはダメだと気づいたミズキは身を潜めることに注力することにした。



 数分後。遂にカヤの馬車のチェックの番が来たようである。早速カヤと門番の騎士が会話を始めた。髭を生やしたベテランの風格を見せる騎士に、カヤは腕を差し出し、何かを見せているようだが、ミズキの樽の穴の角度からは上手く見ることができなかった。

 その後その騎士は荷台を指差し、何かカヤに問い詰めている。大体検討はつくが、荷台を確認させろといったところだろうか。少しずつミズキも緊張し始めていた。するとベテラン騎士の後ろから金髪の少年騎士がやってきた。どこかおどおど落ち着きがなく、新人感が否めない。


「オレマキ、アトウィアチン‼︎」


「イ……、イア………‼︎」


 上司から命令を受けた新人騎士くんが荷台へと乗り込んできた。ミズキはとにかく物音を出さないようにと呼吸を止めた。


ドクンッ‼︎ドクンッ‼︎


 しかし、バレるんじゃないかというくらい、心拍数が上昇した自分の心音がうるさい。カヤも心配そうに荷台を見つめながら息を呑んだ。


ー頼む。蓋を開けないでくれ。ー


 2人は同時にそう願った。

 新人騎士はまず木箱を一つ開け、中の野菜を確かめた。そして次に樽の方へと目をやる。荷台の上には三つの樽が置いてあり、ミズキが入っているのは1番後ろの樽である。新人騎士は1番手前にある樽を選び蓋を開けた。その蓋にはブロッコリー(に限りなく近い野菜)がぎっしり詰まっていた。


「ウ…、ウセビドニアビノン………‼︎」


 やり過ごしたぁぁぁぁぁ。

 新人騎士は問題ないとベテラン騎士に伝えたようだ。呼吸を止めていたミズキは大きく一呼吸した。しかし、


「アカチスニヌカ、ケテブソタナト…⁇」


「ネ、ネアミムスウ………。」


 ベテラン騎士が何か問いかけた後、新人騎士は再び先ほど開けていなかった木箱を開け、確認を再開させた。

 おいおいおい。マジかよ⁉︎

 どうやら全ての荷物をきっちりと確認する気のようだ。何とかやり過ごせたと思ったが、どうやらここまでのようらしい。

 くそ。どうする………⁇

 カヤもその様子を見て、感情を顔に出さないながらも、確実に顔色を悪くしていった。



 遂に残すはミズキの入った樽のみになった。

ミズキももう緊張を通り越して諦めの感情が湧いていた。そして蓋が開けられ、見事にミズキと新人騎士の目が開口一番に合わさった。


「………エ⁇」


 新人騎士は今にも驚きのあまり叫びそうな表情をした。ミズキは必死に口に人差し指を合わせ、シーーーと黙るようにジェスチャーして見せた。しかしその思いは届かず、


「ウ、ウサメッチイ‼︎アハゴチフイ‼︎」


 新人騎士は大声でそう叫んでしまった。


ちっ。


 それと同時に舌打ちをしたカヤは、大きくムチで叩き、瞬時に馬を走らせた。どうやらこの場を無理矢理くぐり抜けるつもりらしい。


「うぉい‼︎おい‼︎結構大胆に行くな⁉︎」


 ミズキは驚きを隠せない。まさか正面突破で修羅場を回避するとは思わなかった。これからどうするつもりなのだろうか。

 すっかり門から距離を取ったため、門番の騎士たちの声も、とても小さなものになっていった。

 そういえばあの新人騎士くんはどうなったのだろうか。横を見ると、そこにはショックのせいか、頭をどこかでぶつけたせいなのか知らないが、白目を剥いて倒れている新人騎士がいた。



「なんか…気の毒なやつだなぁ………。」

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