第1章 第9話 『魔法使い』
第1章 第9話 『魔法使い』
ヴァニシウス暦601年2月18日10時45分
王都ラズシーマ南大通り
「やばいやばい‼︎さっきより増えてるよ‼︎」
現在ミズキとカヤは検問を無視し、無断で街の中に侵入している。そのおかげで後ろから迫る、馬に乗っている騎士たちからの逃走を続けていた。
はぁ…。このまま捕まって刑務所生活なのかなぁ〜。
ミズキは既に諦めムードで完全にテンションが下がっていた。
「イアサヅケテモト‼︎オワヤサボノス‼︎オヤタナド‼︎」
すると、後ろから追いかけている騎士が突然大声で話しかけていた。
だから何言ってんのかわからないんだって‼︎と言ってやりたいところだったが、よく見ると視線が自分を向いていない。後ろを振り返るとミズキたちの進行方向に1人の騎士が佇んでいた。この騎士に喋っていたのだろう。一見気怠げな雰囲気を出しているが、眼力は鋭く剣に手を置き、今にも抜刀しそうだった。
「カヤさん‼︎危ない‼︎」
キンッ‼︎
気づいた時には馬の手綱と荷台の車輪だけが見事に切り刻まれており、ミズキたちはどこにも進めなくなっていた。カヤは顔色を悪くし、ミズキは状況を理解するのに必死だった。
たった一振りで俺たちを逃走不能にしたの⁉︎この人絶対強い‼︎とんでもないなと鉢合わせしちゃったぞ‼︎
門からずっと追いかけていた騎士たちがやばい騎士に駆け寄り、話を始めた。自分たちの事情を説明しているのだろう。しばらく会話を続けて馬に乗ってきた騎士たちはミズキたちを置いて退散していった。どうやらこのやばい騎士に後始末を引き継いだのだろう。
騎士たちが会話をしている最中に逃走しようかとも思ったが、カヤが特に逃げる仕草をしなかったため、ミズキも腹を括った。
先程一瞬で馬車を無力化させたその騎士はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。見たところ身長は大きめ、歳は30歳くらいだろうか。髭を多少生やし、何故か少しやつれているというかしんどそうな顔色をしている。だが、ワイルドなイケメンといった感じで不潔感は一切ない。不思議な男である。
「ウセドナヌツブナス、クハヘラカ、エッタム。」
唐突に、今度はカヤが騎士に向かって話し始めた。ミズキの方を指差しながら、何やら必死に話している。どうやら自分のことについてカヤは騎士に説得してくれているようらしい。ミズキは下手なことを言わず、黙ってその様子を見ていた。
すると騎士が一瞬ニヤリと笑い、ついて来いというように手招きしてみせた。
……⁇なんの笑いだよ今の………。
若干怯えながらもミズキは騎士に従い荷台を降りた。それと同時に荷台の上で気絶していた新人騎士くんが目覚めた。周囲を見渡し混乱していたがミズキとカヤの奥にいる騎士と目があい一瞬で顔が真っ青になった。
「ウ、オヤタナダ、エロドナ‼︎⁉︎」
新人騎士の慌てふためくその様子から、やはりこの騎士、見かけによらずかなりの大物のようだ。
騎士は新人騎士の意外な登場に唖然としながらも、一緒に来るように指示した。果たしてどこに連れて行かれるのだろうか。
王都ラズシーマ中央通りヴァニシウス聖堂
ミズキたちは何やら教会のような場所に連れてこられた。中には祈りを捧げている者。談笑している者。そして列を作っている者など様々だったが、騎士とカヤは迷わずその列に並んだ。ミズキと新人騎士もそれに続く。どうやらこの列の先に自分たちは用があるようだ。
列の先で青い光が出たり消えたりを繰り返している。一体この列の先には何があるのだろうか。
数分してようやく自分たちの番になった。そこは受付のような場所で窓口の中には受付嬢のお姉さんが座っていた。
「ウモナトウチオク‼︎」
騎士が受付嬢と会話を始めた。相変わらず言語が全く理解できないが、手を合わせて謝るような仕草も騎士は見せていた。この騎士も自分のことを守ってくれているのだろうか。少なくとも敵意はないようでミズキは安心した。すると騎士はミズキの方に戻ってくると隣のスペースを指さした。そこにはミズキには到底理解することができなそうな謎の物体が置いてあった。それは円の形をしており、無数の歯車が組み込まれていた。よく見ると青い光を放っていたのはこの物体だったようでそこには青い液体が溜められていた。そして空中に見たこともない文字が浮かび上がり、さらにはぐるぐると回っているではないか。
「……………。プロジェクションマッピング⁇ってそんなわけないよね。なんじゃこれは⁇」
唖然としてしまったミズキだが、騎士がミズキの腕を勢いよく掴み、その物体に触れさせた。その後、目の前にいる黒いフードを被り、顔を隠している人に話しかけると、その人が何かを唱え始めた。
ーーーエラキフ、オヨトマニモナズネク。エリサフ………。ーーー
言われた通り謎の物体に手をかざし、その謎の詠唱を聞いていると、その物体が青く光り始めた。
「な、何が起きてんの⁇これ⁇」
次の瞬間、ミズキの右手の甲から腕にかけて青い光が走り、謎の模様を浮き出させた。
「おいおい‼︎なにこれ⁉︎何かの模様⁉︎」
そして今度は、全身に静電気に触れたような痛みが、まるで血流が身体全体を回っているように身体全体に駆け巡った。
「ひいっ‼︎なに今の感じ⁉︎」
するといつのまにか詠唱は終わっており、青い光も消えていた。そして自分の後ろの列で待っていた男が、またその儀式を始めだした。色々と聞きたいことが山積みだが、取り敢えず邪魔そうなのでこの場から離れることにした。騎士やカヤも手招きをして、テーブルとイスが並んでいる休憩所のようなところに座らせようとしている。ミズキもそれに従い、騎士とカヤの2人とテーブルを挟む席に座った。ミズキの隣には新人騎士くんが腰を下ろした。
「ウカヤノフ、ウオハマクオク。」
ここへ来てまた、意味不明な言語でカヤが話しかけてきた。この言語を理解しない限り、話が前に進まない。英語が得意ではないミズキにとって、理解できない言語を覚えることはとても辛いものがあった。正直こうして話しかけられるだけでも多少のストレスになっているというものである。異世界にいるという事実を突きつけられているような、自分だけがアウェーなんだというような、そんな嫌悪感がある。
そうして完全に落ち込んでいたミズキだったが、
「ミズキ‼︎ウカヤノフ‼︎ウオハマクオク‼︎」
「うぉ‼︎はい‼︎なんですか‼︎」
ミズキは自分の名前を叫ばれ、ようやく考え込むのをやめた。どうやら先ほどから同じ言葉を繰り返しているようだ。さらにカヤは手招きのようなジェスチャーをしている。
「その言葉を俺に言ってほしい⁇とか⁇」
カヤは笑顔になって正解‼︎オッケー‼︎というようなジェスチャーをしてみせた。
なんだろう。なんというかその。可愛いです。カヤさん。
「ウカヤノフ〜、なんだっけ⁇」
「ウカヤノフ‼︎ウオハマクオク‼︎」
「おっけ〜おっけ〜。え〜と。ウカヤノフ、ウオハマクオク⁇」
刹那。ミズキの手の甲の模様がまた浮かび上がり青い光が放たれた。
「うぉ⁉︎これで何が起きたんすか⁇」
「ふぅ。これでやっと会話のキャッチボールができるわね。ミズキくん‼︎」
「………へ⁇」
なんと間抜けな返事だろうか。2週間ぶりに日本語が耳に入ってきたことで、ミズキは完全に思考停止してしまった。
「騎士さんとそこの見習いくんも会話してくれませんか⁇」
「「強化魔法ー翻訳ー。」」
すると2人は同時にそう唱えると、
「よぉ。俺の言葉が理解できるかい⁇少年。」
「ぼ、僕のいってることもわかりますか⁇」
「……。これは…急に何が起きたんですか⁇」
「そうだなぁ。めちゃくちゃ端折っていうと…………。」
「キミは魔法使いになったのさ。」




