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17話 人狼ゲーム


「…………あァン? なんだァ……さっきから、うるせェな……」



 謁見の間を思わせる広間の奥に、人骨の山が築かれていた。

 その上にどっかりと腰かけているのは――銀色の毛並みをした二足歩行の狼。

 その額には“46”を示すレベル刻印。


 ――人狼ワーウルフ


 まさにこいつこそが、この城の主だ。

 人狼は、俺をぎろりと睨みつける。


「オレの食事中に……なんだァ、てめェは?」


「人間だ」


 俺は短く答えて、剣をかまえた。

 しかし、人狼は完全に油断しきっているのか食事の手を止めない。


「人間……? なんだ、どっかから逃げてきたのかァ? ったく、コボルトどもはなにをしてやがる……家畜にんげんの屠殺もろくにできねェなんて、これだから低レベルはよォ」


 人狼は手にしていた人間の腕を丸呑みにすると、ばりばりと苛立たしげに噛み砕いた。

 それから、人骨の山から飛び降りる。


「まァいい……ちょうど、こんだけじゃ足りねェと思ってたところだ。わざわざ自分から食われに来てくれるなんて、近ごろの食い物はいいサービスしてんなァ」


 人狼が舌なめずりをしながら、ゆっくりと俺に歩み寄ってくる。

 その顔に浮かんでいるのは底意地の悪い笑みだ。

 人狼は人間を好んで食べる魔物の筆頭――それも、とくに人間をいたぶって狩ることを好むことで知られている。


「……おィおィおィ、美味そうな人間だなァ。オレは噛みごたえのあるオスの肉が大好物なんだよ」


 人狼が脅すように、こちらに凄みをきかせた顔を近づけてきた。

 べっとりとした生温かい吐息が、顔にまとわりつく。

 鼻をつくような血と腐肉の臭いに、俺は思わず顔をしかめた。


(不愉快だから、さっさと殺すか……)


 そう思ったところで。


『ねぇ、そこのもふもふ』


 興味なさそうに黙っていたフィーコが、なんか会話に参戦した。

 人狼はそこで初めて、フィーコの存在に気づいたらしい。


「……あァ? 下級霊ゴーストがなんでこんなとこに? 仕事の話ならコボルトを通せって……」


『下級霊なんかと一緒にしないでほしいわ。それより……そこにいる人間はわたしの獲物よ。あなたの臭い息を吹きかけないでくれるかしら』


「あァン? 誰に向かって、その口を聞いてやがる? オレは爵位持ちのガルドだぞ? ザコは引っ込んでやがれ」


『……ザコ? あなた、今……この誇り高きわたしに向かって、ザコと言ったの?』


 フィーコのまとう雰囲気が一変した。

 その目からどろりと光が抜け落ち、底のない穴のような眼窩が、人狼をじっと見つめる。


『ねぇ、あなた……誰に向かってその口を聞いてるのかしら?』


「……ッ!?」


 人狼がびくっと後ずさる。


「な……なんだァ、てめェ? どこのもんだ……? まさか、この人間の味方か……?」


『敵よ』


「……そ、そりゃそうだよなァ。人間と魔物は食うか食われるかの関係でしかねェ。だったらよォ、獲物は狩ったもん勝ちでいいだろうが」


『ふんっ……ま、やってみればいいわ。やれるものなら……ね』


 フィーコの冷たい笑みを浮かべて、こちらに目配せしてきた。


 ――やっちゃいなさい。


 その瞳はそう語っていた。

 たぶん、“ザコ”って言われて内心かなりキレているんだろう。

 俺は肩をすくめてみせてから、人狼に話しかける。


「おい、人狼……1つ、聞いてもいいか?」


「なんだァ、人間がァ? 命乞いでもするかァ?」


「お前は今日、どれだけ人間を食った?」


「あァン? 1匹まるまる食ったが……それがどうかしたかァ?」


「そうか、わかった」


 聞きたいことは聞けた。

 なら、あとは――狩るだけだ。

 俺はしばし目をつぶったあと、ふたたび人狼に向き直る。



「なぁ……ひとつ、ゲームをしないか?」



「あァン? ゲームだァ?」


「ただ狩って終わりじゃ、お前もつまらないだろ? もちろん……負けるのが怖いなら乗らなくてもいいけどな」


「……はッ!」


 人狼が大きく鼻を鳴らす。


「べつに乗ってやってもいいぜェ? どうせ、なにをしたところで、レベル1の人間がレベル46の人狼オレに勝てるわきゃねェからなァ。それに知ってるかァ? 人間の肉ってのは、絶望させればさせるほど美味くなるんだよ」


「……チョロいな」


「あァン? なんか言ったかァ?」


「べつになにも」


 まぁ、獣系の魔物は、“どっちが上か?”をかなり気にするからな。

 ちょっと挑発すれば、脊髄反射で乗ってくるのは目に見えていたが。


「でよォ、ゲームって、なにすんだ?」


「まぁ、ルールはびっくりするほど簡単だ」


 俺は両手に持った2つの剣を、人狼の眼前に掲げた。


「まず……この2つの剣のうち、片方を上に放り投げる」


 言いながら、俺は実演するように剣を真上に投げた。

 くるくると刃光の軌跡を描きながら、宙に舞う剣。

 それを人狼が目で追い――。





 ――――すぱんっ。





 と、俺はその首を剣ではねた。



「――そして、もう片方の剣で、俺がお前を狩る。以上だ」



「…………ぇ……は……?」


 一瞬遅れて、人狼の首から血が噴き上がった。

 その勢いに押されたかのように、首がぼとりと地面に落ちる。

 その首を見下ろしながら、俺はにやりと笑ってみせた。



「――ほらな、簡単だっただろう?」




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