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この世界で俺だけが【レベルアップ】を知っている(Web版)  作者: 坂木持丸
第4章 人狼の城

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16話 城攻め


「――襲撃開始だ」


 俺は地面を勢いよく蹴って、城門をくぐり抜けた。

 両手に剣をかまえながら、全速力で城砦の中庭を駆け抜ける。


 さっそく音や匂いを察知したらしく、蟻の巣をつついたようにコボルトたちがわらわらと出てきたが……まったく臨戦態勢が取れていない。

 武器だけは持ってきたようだが、防具をつけていないものがほとんどだ。いつもは活動していない昼間だからということもあるのだろう。


「城砦のわりには、ずいぶんと無防備だな」


『……ま、城砦といっても、誰かが攻めてくるはずないものね。そんなことすれば、“王”に反逆することにもなるし。それもまさか、家畜《にんげん》が単騎で襲撃してくるなんて……誰も考えてないわよ』


「そんなものか」


 とはいえ、さすが統率力に優れたコボルトといったところか。

 しばらく進んだところで、突然――。


 かかかかか――ッ! と。

 俺に向かって矢が降り注いできた。


 とっさに矢を斬り捨てながら周囲を見まわすと、道の先に弓をかまえたコボルトたちの一団が待ちかまえていた。

 いや、正面だけではない。背後にも、側面にも、建物の屋根の上にも……どこからわいてきたのか、そこら中にコボルトの弓兵がいる。


 弓兵の数が多いだけあり、矢の雨は降り止まない。

 おそらくコボルトたちが放ってきているのは毒矢だろう。

 コボルトは力の弱さをカバーするために、毒性のある金属を武器に塗っていることが多い。できれば食らいたくはないものだ。


「……数の暴力か」


 念のため確認するが、出てきた魔物はコボルトだけ。

 レベル5のザコが数をそろえたところで、レベル53の差はくつがえらない。

 俺は走る勢いそのままに、地面の土を蹴り上げた。


「――風操(フゥゼ)」


 風属性の初級魔法を唱える。

 渦状の風を巻き起こし、飛んできた矢を吹き散らすとともに、土埃をコボルトたちに浴びせかけた。

 ぎゃんぎゃん――ッ! と吠えるコボルトの群れ。

 その隙に……。


「――風王剣(フゥゼ・ハルテ)」


 風属性の上級付与魔法を発動。

 剣から放たれた真空波が、正面のコボルトを数匹まとめて斬り捨てる。


 コボルトのような犬系や狼系の魔物は、敵を包囲するときに権力順で並ぶ習性がある。獲物の正面にいるものほど権力が高く、獲物の背後にいるものほど権力が弱い。

 つまり、正面にいるコボルトをまとめて潰せば、指示を出せるリーダー格がいなくなり、群れの統率はあっさり瓦解する。


 混乱しているコボルトたちを尻目に、俺はさらに先に進む。

 これだけの数のコボルトを相手にしている暇はない。

 ザコを蹴散らすのはあとでいい。


 俺の目当てはあくまで、このコボルトたちの首領――人狼だ。

 人狼はずる賢い魔物で、不利を悟るとすぐに逃げるからな。


 だからこそ……逃げる時間を与えない。

 人狼のもとまで一直線に向かい、短期決戦で仕留めてみせる。


「――魔力色覚《ライラ》」


 左目に手を当てて、光属性の付与魔法を発動する。

 視界内の魔力反応を色で識別することができるようになる魔法だ。

 長時間使うと魔力を消耗するが、だいたい人狼の居場所には目星がついていた。


 コボルトは地下などの真っ暗な環境を好むのに対して、人狼は月光を浴びることを好む。

 となれば、採光用の窓がある部屋は、人狼専用と見ることができる。

 それと、夜行性の人狼が昼間から活発に動き回ってるとも思えないし、この時間帯は屋内にいるとすれば……。


「……やっぱり、城の最上階か」


『見つけたの?』


「まぁ、予想通りの場所にいてくれてよかった」


 城の最上階にある部屋の中に、ひときわ大きな魔力反応が視えた。

 コボルトの反応とはあきらかに違う。

 人狼のもので間違いないだろう。


「敵の居場所がわかれば、あとは楽だな」


『……? 城の入り口はあっちよ?』


「いや、入り口ならあるだろ? あんなちょうどいいところに――窓がな」


 俺は“粘着(ディーバ)”の魔法を唱えて、足裏に粘着力を付与した。

 そのまま、城の壁を足で蹴り――駆け上がる。


 わざわざ敵のいる建物の中に入ってやる義理はない。

 錆びた鉄格子がかかった、人狼の部屋の窓。

 そこに向かって、俺は両手の剣を思いっきり振りかぶった。


「――物質強化(ミ・ベルク)!」


 剣を強靭化させると同時に、窓を鉄格子ごと十字に斬り裂く。

 けたたましい音ともに壁やガラスが砕け散り、辺りに瓦礫が飛散する。


 壁にうがたれた穴から、俺は部屋の中へと飛び込んだ。

 床を転がりながら体勢を整えて、正面を見すえると――。


 ――そこに、いた。



「…………あァン? なんだァ……さっきから、うるせェな……」



 謁見の間を思わせる広間の奥に、人骨の山が築かれていた。

 その上にどっかりと腰かけているのは、銀色の毛並みをした二足歩行の狼だ。

 その手には、串焼き肉かなにかのように――人間の腕が握られている。血のしたたる新鮮な人肉を、骨ごとばりばり食べている。

 その額には、“46”を示すレベル刻印。



 ――人狼《ワーウルフ》。



 まさにこいつこそが、この城の主だった。



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