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15話 襲撃開始


 オーガの町を脱出してから2日後。

 俺は真っ昼間から、人狼の城へとやって来ていた。


 城までの正確な位置や道のりまでは、フィーコも知らなかったが……。

 補給拠点として使われているのなら川の側にあるんだろうな、という俺の予想が当たり、川に沿って森を進んでいったらすぐに見つかった。


 その城は、朽ちた廃墟を思わせた。

 城門も、城壁も、塔も……どこもかしこも黒ずんだ古色が染みついている。

 むき出しになった城の壁石は、風雨にさらされて乱杭歯のようにぼろぼろになり、その上をつたや苔がびっしりと這っている。


 もしかしたら、もともと人間が使っていた城砦だったのかもしれない。

 それを魔物が奪い取って、ろくな維持管理もしないまま使い続けているといったところか。


 その城までの道はそれなりに整備されており、俺はその道の真ん中をずんずん足音を立てて進んでいった。


『なんというか……堂々と行くのね』


 フィーコが呆れ顔で言う。


『魔物の拠点に丸腰で向かってる人間とは思えないわ。まるで……“食べてください”って言ってるみたい』


「まあ、そう思わせるのが目的だからな」


『ふぇ?』


「そもそも、獣系の魔物相手にこそこそしても意味ないだろ」


 この補給拠点にいる魔物は、フィーコ情報によれば人狼とコボルトだ。

 とくにコボルト相手に隠密行動は難しい。


 コボルトはもともと真っ暗な坑道や洞窟に住んでいる魔物だから、視力が少し低い代わりに嗅覚と聴覚がかなり発達している。

 そういう面で、コボルトは犬というよりコウモリに近い魔物なのかもしれないな……思えば、顔もどこかコウモリっぽさがあるし。


 ついでに、コボルトは金属を探知する天恵ギフトを持っているから、少しでも金属を身に着けている時点で見つかってしまう。


「コボルト相手に隠密行動なんて、“これから襲撃しますよ”と伝えるようなものだ。どうせ見つかるなら、“バカな人間が食われに来た”って思わせたほうが油断させられていい。コボルトだけならともかく、ここには人狼もいるからな」


 人狼はパワータイプではなく、スタミナタイプの魔物だ。

 まともに戦えるなら簡単に勝てるが……。

 人狼は狡猾というかなんというか、分が悪いと判断すると、すぐに逃げに徹して得意の持久戦に持ち込もうとしてくるからな。おまけに再生能力も持っているから、たちが悪い。

 できれば、油断させているうちに短期決戦で仕留めたい。


『なるほどね』


 フィーコが納得したように頷きつつも、腑に落ちないという顔をした。


『でも、やけに魔物についてくわしいわね。つい3日前まで魔物の家畜だったとは思えないわ』


「あー、それはな……」


 前世の記憶があるから魔物にもくわしい……なんてことは、まだフィーコには話していなかった。

 いずれ、ふたたび敵対したときのために、できるだけ俺の情報はわたしたくはない。

 というわけで。


「もう忘れたのか? 昨日、お前が言っていたことだろ」


『あ……ああっ、そうだったわね! もちろん覚えてるわ! わたしの記憶力は魔界一だもの』


「よっ、魔界の記憶力チャンピオン」


『ふふん! そういうことは、もっと言いなさい!』


 ……誇り高き不死鳥、騙されやすかった。


 そんなこんなで道を進んでいき、城門のすぐ近くにまでたどり着いた。


 城門は戦時でもないので開け放たれているが、その周りには二足歩行の犬――コボルトが警備についている。


(ここにいるコボルトは……全部で4匹か)


 門の前には、槍をかまえたコボルトが2匹。

 城壁の上には、弓を持ったコボルトが2匹。

 どのコボルトもとっくに俺の接近に気づいていたようで、すでに身構えていた。


 コボルトのレベルは5と低いが、この集団性と感覚の鋭敏さによって、前世では多くの冒険者を困らせていたものだ。

 なんなら、もし俺のいた町を管理していたのがコボルトだったら、もっと脱出に苦戦していたかもしれない。


「さて、できるだけ油断を誘いたいところだが……」


『そんなことより見なさいよ、あのもふもふたち! うっほほぉぉ~、きゃわわわぁ~! こっち見てるぅ! えっ、やばっ! 美しくない!? ちょっと憑依させて! コボルトさわりたい!』


「よし、上出来だ。今ので完全にバカ認定された」


 コボルトたちは、『なんだ、ただのバカか』『警戒した時間返せよ』と言わんばかりに、目に見えて肩の力を抜いた。

 そのまま近づいてくる俺を、じろじろと無遠慮に眺める。

 その顔に浮かんでいたのは――食欲。

 敵ではなく獲物を見る目だ。


 フィーコの常人には真似できない誇り高きファインプレイによって、ここまで油断を誘うことができたのはうれしい誤算だった。

 コボルトたちは、すぐにでも警鐘や警笛を鳴らすべきだった。

 だが――もう遅い。


 2匹のコボルトが、間合いに入った俺へと槍を突き出してくる。

 しかし、コボルトの槍がとらえたのは――。


「残像だ」


 もうそこに、俺はいない。

 無防備な接近からの――急襲。

 すれ違いざまにコボルトの首を手刀でへし折る。

 コボルトたちは、ほとんど音もなく絶命する


「……ッ!?」


 櫓の上にいたコボルトの弓兵たちが、今さらながら危機を察知したらしい。

 慌てて弓をかまえて――ぱんッ! と、その頭を破裂させた。


 ――投石だ。


 それは冒険者の必須スキルであり、人間の最古にして最強の技のひとつ。

 人間の体というのは、投擲するのに特化した構造になっている。

 人間ほど投石がうまい種族はいない。

 武器がなくても石さえあれば、人間は戦うことができるのだ。


『……ぁ……あ……』


 フィーコがわなわなと震えだす。

 もふもふ好きには少しショックが強すぎる光景だったかもと思ったが。


『きゃあぁああ~! 首の骨折れてて可愛いぃ~! きゃあきゃあ!』


「お前、なんでもありかよ」


 とか話しながら、俺はコボルトたちが腰にさげていた剣を2本回収した。


「おお、なかなか質がいいな」


『ま、コボルトの武器は魔物の中でも有名だしね』


 さすが、金属加工に優れたコボルトの剣といったところか。

 なによりオーガサイズのナイフよりも握りやすいのがいい。

 剣は握りやすさがかなり重要で、握りにくいというだけで剣の威力も技の冴えも格段に落ちてしまう。


 なにはともあれ、これで武器も手に入った。

 それじゃあ、さっそく――。



「――――襲撃開始だ」




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