最終話:先は長い
これにて物語は終了です。
「・・・・・ん?」
額にひんやりとした冷たい感覚がして目を覚ます。
「気が付いたか?」
私の隣で飛天様が安心したようにため息を吐いた。
「あれ?私・・・・・」
確かヘルさん夫婦とカフェに居たら爆発に巻き込まれて、それから・・・・・・
「何が遭ったんだっけ?」
途中で記憶が分からなくなってしまった。
「・・・・覚えてないなら、それで良いんだよ」
ポンポンと優しく頭を叩く飛天様。
「ヘルさん達は?」
「いま風呂に入ってる」
「私も入って来て良い?」
布団から起き上がろうとしたが飛天様に止められた。
「まだ早い」
「えー!だって何か油臭いんだもん!!」
身体から放たれる油の臭いが鼻を刺激して堪らない。
「早くお風呂に入って臭いを落としたいの」
飛天様の手を押し退けて立ち上がろうとしたが更に強い力で抑えようと飛天様は力を入れた。
「まだ早いから駄目だ」
やや硬い声で飛天様は言ってきたが、ここは譲れない。
「大丈夫よっ」
私も強い口調で言い返した。
「駄目だ」
飛天様はむっとした表情で更に力を加えてきた。
「大丈夫よ」
私も意地になって押し返そうと力を入れた。
「駄目だっ」
「大丈夫っ」
何度も同じ事を繰り返している内に互いに苛立ち始めた。
「まだ早いと言っているだろ!!」
「自分の身体だから大丈夫って言ってるでしょ!?」
「俺の言う事が聞けないのか?!」
「私だって意志があるわ!!少しは尊重してよ!!」
「俺はお前を心配してるんだよ!!」
「もう大丈夫だって言ってるでしょ!?」
押したり押されたりする押し問答と罵り合っている内にバランスを崩した。
「わぁ!!」
「きゃあ!!」
飛天様が重いせいで私が布団に押される形になった。
「これで動けないだろ?」
勝ち誇ったように笑う飛天様にむっとして力の限り抵抗した。
無駄だったけど・・・・・・・
「まだ早い、と言っている」
呆れ果てた口調で私を押し倒した状態のまま見下ろす飛天様。
「もう大丈夫だって言っているでしょ」
意固地になって私は飛天様を睨んだ。
別にどこも異常は無い。
あるとしたら油くさくて気持ち悪いだけだ。
「お風呂に入れば治るから退いて」
「嫌だね」
互いに一歩も引かず火花を散らしていると不意にドアが開き
「よぉ!!お二人さん!乳繰り合っているか?」
ダハーカさんが豪快に笑いながらセクハラ発言をして入って来た。
「あ・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「わ、悪い。取り込み中だったか」
気まずそうに頭を掻くダハーカさんに飛天様も私も何も言えなかった。
「そ、それじゃ、俺は退散するから・・・・・ジャンヌちゃん。頑張れよ」
何を頑張れば良いんですか!?
私の心の叫びを無視してダハーカさんはドアを閉めた。
「・・・・・・・・・」
恐る恐る視線を飛天様に向けると
「・・・・・・・・・」
飛天様も気難しい表情をしていた。
「さて、これ以上の我が儘を言うならダハーカの手前で抱くぞ?」
意地悪な笑みを浮かべる飛天様を見て私は諦めのため息を吐いた。
「・・・・分かった。もう少し我慢するわ」
「それが懸命だ」
一瞬だけ力を緩めたのを私は見逃さずに勢いを付けて飛天様を横に追いやった。
「甘いわよ!!」
ドアに一直線に走ろうとしたが襟首を掴まれて再び布団に押し倒された。
「・・・・お仕置きだな」
ニヤリと笑う飛天様に私は背筋を凍らせた。
私がお風呂に入るのはまだ先の長い話になりそうだ。
完
これにて物語は終わりですが、リメイク版を作成し満足のいく完結編にしたいと思っているので暫くお待ち下さい。
最後にここまで付き合ってくれた読者の皆さまには感謝します。
それでは、また別の物語でお会いするのを楽しみにしております。
ドラキュラ