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ダンジョンストリーマー!! 〜人気急上昇中のJK配信者はチート級に強い──なぜなら裏方の俺が暗躍しているから〜  作者: 杜 一樹
第3章 ハコネダンジョン

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9本目 ティータイム〜マイマイは優雅な時間を過ごします〜


 ハコネダンジョンへ挑む権利を得るには、執事の猪俣凌聞を相手に闘わねばなるまい。

 年齢はおよそ50代。決して若くはないが、執事服越しにでも分かる体格の良さから、筋肉量は20代にも引けを取らないだろう。


「勝利条件は?」

「──そうですね、貴殿の実力が見れるまで立ち上がっていれば、でしょうか。どんな手を使ってもらっても構いませんよ。勝てるとは思えませんから」

「……分かりました」


 猪俣は拳を構え、戦闘態勢を取った。

 一応、見様見真似で俺も同じ形を取るか。


「東くん……! わたしがいないからってムリしちゃダメだよ! さぁ、たおして!!」


 どっちだよ。


 正直なところ──無理せずにとも彼は倒せる。

 ただ圧倒してはいけないし、かといって油断すれば重い一撃をお見舞いされてしまう。そうなれば実力を証明できないだろうし、俺もタダでは済まないだろう。

 周囲に、特に吾妻にバレないよう適切な闘いを繰り広げるためには、やはり少々無理しなきゃいけなさそうだ。


「それでは参ります」

「わたしの決め台詞とられた!?」


 猪俣が一歩踏み込めば、一気に寸前まで間合いを詰めてきた。

 来海のお付きは皆、素早さが異常だ。これも全てお嬢様の要望を速やかに応えるためだろうか。

 容赦なく顔面を殴ろうとしてくるので、滑ったように見せながら避けた。

 すかさず蹴りが飛んでくるが、それもギリギリで避ける。


「おぉ、いける、いけてるよ東くん!」


 続く攻撃──特技は拳闘だろうが、体術であれば全てこなせるのか。

 やはりこの人も普通の探索者《シーカー》じゃない。武具《ギア》も宝具《レリクス》もまだ使っていない。

 地力が強いんだ、この人は。俺が避ける先々を読んで次の手を入れてくる。

 このままでは、油断せずともやられる……!



「くっ……!」


 一度、距離を置き体勢を整える。

 頬に猪俣の拳が掠ったようで、切れた傷から血が流れ出す。


 周りに見物人が集まってきた。

 探索者《シーカー》同士の争いごとはダンジョン周辺では珍しくないから、ちょっとしたショー程度に見られている。

 もちろん公には禁止されているわけなので、取り締まる側が来る前には終わらせないと、普通にダンジョンに入れなくなる。

 視線が増えれば誤魔化しは効きにくいし、これ以上は長引かせられない。


「やっぱりA級ともなると強いですね。敵わないや。どうでしょう、一度でも僕が猪俣さんに攻撃を当てられたら、勝ちで許してくれませんか?」

「────えぇ、構いませんよ」


 返事までの微妙な間──この人、やはり音が聴こえていないな。

 会話が滞りなく行えているのは読唇術のおかげか。聴力がない代わりに目がかなり良い。


「……腹を狙います」

「──分かりました」


 俺は人類平均の速度で駆け出しては、少し弱めのパンチを予告通り腹に入れた。


「……ぐっ!?」

「爺や! 貴方どこを守ってるの!?」


 猪俣はボクシングで見られるファイティングポーズで──顔面を守ったのだった。

 片膝が地につく猪俣の元にメイドの鈴鹿が駆け寄る。


「僕の勝ちでよろしいですか?」

「えぇ、さすがでございます。探索者《シーカー》及び配信者《ストリーマー》には嘘は付きものですから。見事に騙(・)さ(・)れ(・)ま(・)し(・)た(・)よ(・)」


 俺は猪俣にだけは〝顔〟を狙うと伝えた。

 読唇術で相手と会話できるのならば、音と唇の動きをズラし、周囲と彼とで違う情報を伝えた。

 あとはギリギリまで顔を狙う素振りを見せておけばいい。

 その結果、猪俣が間違えた、あるいは勝利を譲ってあげたように周りには見えるだろう。


「やはり、勝(・)て(・)る(・)と(・)は(・)思(・)え(・)ま(・)せ(・)ん(・)でした。武具《ギア》でも付けていたらきっと壊されていたでしょうね」


 鈴鹿に補助されながら、猪俣はゆっくりと立ち上がる。

 この人は間違いなく強い──相手との力量の差を瞬時に理解できる。それに反射的に腹も守れただろうに。

 他のお付きも猪俣が敗北することを分かっていたようだし、能力はとっくに見抜かれていたか。

 やはり三人共、侮れない実力を持っている。


「やったぁ! さっすが東くん、わたしのバディなだけあるよ!」


 ただ、そのことについて何だか黙ってくれるらしいし、吾妻にさえバレなければいいか。

 


「これで連れてってもらえるよね!?」

「……そうですわね。わたくしはゆとりがありますので、素直に彼のことを認めましょう。いいですわよ、連れて行ってあげます」

「やったぁ!」

「それではティータイムを挟んでからダンジョンに向かいますので、吾妻様たちはその間に準備なさってください」

「あのあの! わたしからもう一つお願いがあります!」

「何でしょう? ゆとりがありますから、一つくらいでしたら聞きましてよ」


「えっとぉ〜、葵《あおい》ちゃんって呼んでいい? おともだちになりたいなー、なんて……えへへ」

「あらまぁ……。ふふっ、貴女もゆとりがあるようですわね。お安い御用ですわ、マ(・)イ(・)マ(・)イ(・)さん」


 こうして年上の友達ができた吾妻は、ティータイムにも一緒に参加させていただくことになった。

 吾妻にNewTuberの繋がりができるのは、こちら側にとってかなり得だ。

 コラボという形で動画内容にも幅ができるだけでなく、高難易度ダンジョンもいずれは攻略する時に味方となる。

 ……そんな損得を抜きにしても、純粋に吾妻が嬉しいようなら、俺も彼女たちに知り合えて良かったと思う。



『えへへー、どんな美味しい紅茶が出てくるのかな〜』


 来海たちの許可を得て、カメラを回すことにした。

 即席ではあるが、こういう本格的なお茶会に参加する機会はなかなかな──あ。


『こちら京都宇治のお抹茶、緑鳳《りょくほう》にございます』

『和っ!?』

『また、こちらも京都の老舗、曙庵《あけぼのあん》の桜餅でございます』

『和和っ!?』


 そうだ。なぜか外面は洋風なのに、中身は和風だった。

 よくよく見れば、鋳物のガーデンテーブルやチェアのデザインは鶴や菊などの和モダンにあしらわれ、パラソルも和傘である。



『──大変美味しゅうございました。それでは心にゆとりが生まれたことですし、ダンジョンへと向かいましょうか』


 来海は出会った時のままその場を一歩たりとも動かず、周りが完璧に場を片付けて行く。

 ガーデンセットは折り畳み式、さらには荷物入れにもなる優れた機能性。

 この中に全ての舞台セットを入れ、シェフの蝶野が背負う。

 そして、洋椅子に敷かれた座布団に正座して座る来海を、猪俣と鈴鹿が左右から座布団ごと彼女を抱え上げ、そのままお嬢様の足として駆けて行った。


『和和和っ!?』


 実力はあるが、側から見ればとても変わった探索者《シーカー》たちだ。

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