73本目 人生の99%は思い込み!あ〜、みんなマイマイチャンネルを登録しないといけない気がする〜
「──生野奏と松實幸はお互いに守らないと植え付けられている……。すみません、どういうことですか、石狩管理官」
「そのままの意味だよ。佐藤管理官。幸ちゃんは幼児退行、奏ちゃんは不眠症と記憶障害がある。だから守ってあげないといけないわよね?」
数年前、異動の指示が下された佐藤は探求省内に隠された研究所へと呼ばれ、真実を聞かされていた。
「……うぅー、マジであれは大作だったぁ……はぁ、金ないー……」
部屋にあるベッドには奥垣柿枝が勝手に寝ていた。
彼女も関係するので、呼ばれたわけだが。
「あの二人は奥垣管理官の宝具で記憶を上書きされてるわけですね」
宝具:オーバーコートタブレット。
奥垣はオバタブと略して呼ぶ、ペンタブ型の宝具。
対象を登場人物として漫画を描くことで、描かれた内容があたかも存在していた記憶として上書きすることができる能力を持つ。
規模や、現実と乖離するほどに求められるクオリティやページ数が増えていき、縛りとして締切が短くなるなど、連発することはできないが、完成すれば強力な効果を発揮する。
ダンジョンが各地で発見された頃、早々に政府がこの宝具を押収できたことで、今日まで情報操作が思い通りであった。
「そういうことよ。あの二人は失うわけにはいかない。最高傑作と呼ばれたままでいるのは可哀想だけどねぇ……」
「……人の手で生み出された模倣者、ですか」
松實と生野はそれぞれ天涯孤独の身だった。
17年前、まだ守衛も探索者もいなかった時代。ダンジョンの外に飛び出た魔物に近隣住民が襲われる事件が多発した。
両親が亡くなり、取り残されてしまった子供を政府が引き取り、そして──
「子供たちに魔晶石を埋め込み、どのような影響を及ぼすかを実験した」
「ええ、その通りよ。ビワダンジョンで模倣者の存在が確認されて以降、運動能力や回復力の高い者、優れた第六感の持ち主など。模倣者が確認されては捕縛され、人類に仇なす者を対象に実験と拷問が繰り返された」
「この資料に書いてあることですね。本当に国がそんなことを……」
「みんな記憶にはないけれど記録にはある。拷問した模倣者の出身ダンジョンは政府主導でプロモーションがかけられ完全攻略させたからねぇ。それにさらに罪深いことに、模倣者を自分たちで作り出せないか……好奇心は倫理観を凌駕するねぇ」
引き取り手のいない子供たち。他にも死刑囚や家族と連絡付かずの意識不明の患者など、多くの人が模倣者化の実験に巻き込まれた結果、残ったのはたったの三人だった。
松實と生野。もう一人男の子がいたらしいが、彼は脱走して行方をくらませている。
先述した後遺症は残ったものの、一般人よりは高い頑丈さを持つようになった。
だから、松實が骨折した時も、寝れば3日ほどで完治した。
「それが探求省が抱える闇……」
「勘違いしているかもだけれど私たちは関係ない、とは言えないねぇ……引き継ぎされた時点で同罪だねぇ」
「ぐがー!」と、奥垣は騒音級の寝言を立てて寝る。
模倣者や宝具を悪用し、金や権力などを総取りして支配しようとしていた害なす者は、途中入省した武崎によって一掃された。
しかし、この人権侵害にあたる問題に、国内外から批判され、体制が整う前に各所から隙をつかれて国民にさらなる被害がもたらされるのを防ぐため。
武崎は宝具を使って闇を丸ごと奥底にしまい込むことを命じた。
「いい? 佐藤管理官。彼女たちは自分たちのことを何も知らない。無理に真実を伝えても、記憶と違う現実におかしくなってしまうのはあの子達……。まぁ、元々変わった子たちだけれどねぇ。ただ、二人はこの世界を変える要になる、探求省の財産。くれぐれも壊れぬよう、世話をしてあげて」
そして、二人の管理を任された佐藤には宝具:回線遅延が渡された。
何かあれば、これで動きを制限しろとのことだ。
彼は松實たちをとても不憫に感じた。
大切な思春期を奪われて、記憶を上書きされて、身体は成長するのにいつまでも大人にはなれずに、探求省内に縛られる。
「──やおくんこれ見てみてー! この動画ー! ダンジョンってのがあってねー、配信してるんだってー!」
普段勉強しない松實のために、NewTubeで勉強できる動画を見せていたはずだが、いつの間にかよそ見をしていたみたいだ。
生き生きと佐藤に見せてきたのは今は過去の探索者。吾妻大悟のサバイバル動画だ。
「ワタシも冒険してみたいな〜。ねー、しょーのちゃん!」
「……まぁ、松實がいなければ」
「うぇ〜、本当は一緒がいいくせに〜」
「うるせぇ!」
四六時中、何年もの間、自由も成長もない彼女たちを心を殺して管理・戦闘訓練をしていた佐藤。
だが、情が湧かないわけがなく、ある日彼は上司の元へと向かった。




