67本目 視力が良い人ほど見えない視力検査!ちなみに乱視のわたしは見えなかったぜっ!
違和感はない。
目では捉えられず、聞き逃しもなく、気配も感じられない。
ただ、いつもと変わらない非日常の探索をしていただけ。
しかし、実際はすぐ側に何かが存在していた。
遅くとも、オーデュイと出会った時からはずっと背後に忍んでいたわけだ。
『……もう、いったーい! なんか首切られたー!』
吾妻は首から血を出すも、傷自体はもう既に塞がっていた。
回復速度が以前よりも格段に上がっている。天原に流された力の影響か……。
『もうー、お気に入りの装備が汚れちゃったよ……』
彼女にとっては敵に命が狙われている恐怖よりも、見た目の方が大事みたいだ。
『2人とも大丈夫なのっ!?』
『もちろん! わたしたちは最強と最強だからね!』
確かに死までは至らないが、首切られて平気じゃないけれど……。
ただ、これ以上血を流して、吾妻たちを心配させるわけにもいかない。
模倣者特有の耐久力と回復量で一命は取り留めた俺は、何事も無かったかのように立ち向かう。
『し、死なない!? お、おかしい。人間じゃない。あ、人間じゃないのか』
景色の中央にフェードインしてきたのは、高身長かつ体格もしっかりしている男性。
どもった話し方をする彼だが、姿を現すまではこんな大きい奴が側にいたとは信じられない。
『あ! 悪いイミテーターでしょ! 名前を言いなさい!』
『尸戸幽鬼。あ、言わないよ……』
言ったな。
こいつの名前は佐藤から聞いた報告にはいなかった。
ただ、誰もいないはずなのに襲撃された被害があったらしく、見えない能力から察するに、犯人はおそらくこいつ。
ハザマの一味がここにいるとなれば、やはり当日何か企んでいるに違いない。
『あの、バ、バレたので帰らせてもらいます』
『あ! レリクス:メガちゃん! 〈こらぁ!〉』
記号含めた四文字の白文字が、尸戸のいた場所に放たれるが不発に終わった。
『あれ、もう帰っちゃったかな?』
『まだいるよ! そこ!』
オーデュイは俺に叫ぶので適当に避けると、カメラが壊されてしまった。
「あー! カメラが!」
「大丈夫、SDカードは無事だ」
飛び散るカメラの欠片の中から、SDカードだけを掴み取ってポケットに入れる。
カメラを回しっぱなしで良かった。こいつの姿は一瞬でも捉えられた。
「……な、なんでバレた。あれか、あのスライムだ。さ、先に殺さないと」
再び無色透明に戻った尸戸はスライムに向かっていく。
「あわわわわ……!」
「レリクス:フランちゃん! ピカーッ!」
ファイヤーフランタンも呼び出した吾妻。
辺りを一際照らすと、尸戸は「ぐわっ、ま、眩しい……!」と声をあげて姿を現した。
が、俺たちも眩い光のせいで見えないので、声を頼りに蹴りを入れた。
「わー、マイマイありがとー!」
「えへへー、それほどでも!」
視界が眩んだままなので、お互い明後日の方向に会話していた。
「いたい……こ、こんなことなら止めとけばよかった。さ、さすがに、ほんとに撤退を……」
「逃すわけないだろ」
「ひっ、行けお前ら……! ブツブツ……」
あれほどの傷では死なない吾妻だが、傷付けたのには変わりない。それに、ハザマたちの計画に関与しているならば、捕らえて詳細を聞き出さねば。
小言で喋り続ける尸戸の元へと駆け出すと、小さい魔物が邪魔してくるが瞬殺。
奴を踏み留めようとするも、地面を踏みしめただけに終わってしまう。
彼はまだここにいるというのに。
攻撃が彼に通らない。
そして、尸戸はまた完全に透明になった。
「あ! 地面に沈んでいくよ!」
オーデュイには見えているようで、尸戸の行き先が分かっていた。
だが、地面にまで潜れるとなると、いつ、また奇襲されるか分からない。
最後まで警戒をし続けたが……本当に彼は帰って来なかった。
「──何だったんだあいつ……」
「うむむー、透明になれるレリクスを使ってたのかな?」
シブヤダンジョンの入口に向かう途中、オーデュイを抱きながら吾妻は近からず遠からずな考察をしていた。
「きっと透明化だけじゃない……。気配も完全に消し、地面に潜り込み、俺の体もすり抜けた──恐らく彼が使っている能力は〝透過〟だ」
物体は光が当たって反射することで、そこに物があると認識できる。
彼は光すらも完全に透過することで、透明人間となった。地面も攻撃も同じように透過させた。
ただ、一度は蹴りが入った。
恐らくあの時は条件外──彼が喋っていた時のみ、姿を現していたから、能力の停止条件は発声か。
黙ってさえいれば攻撃は通らないし急襲も可能。それに透過対象も選択できるとなると、かなり厄介な敵を取り逃がしてしまった。だが、その能力を持つ奴がいると認知しただけでも収穫はあったか。
一応、探求省の人間に報告して、シブヤダンジョンを細かく調べてもらわないと……。
「おー、そっかー10日ねー。それにしてもオーデュイったらよく分かったよね!」
「なんかポワポワーってうっすら輪郭が見えてたんだよね」
スライムに変えられたオーデュイの目には、見えてる世界が少し拡張されているのかもしれない。
「それなら出会った時から言って欲しかったものだな」
「いやぁ、何も喋らないし、すっごい影の薄い人がメンバーなんだぁと思ったんだよぉ」
本当に薄い人がいてたまるか。
「でも、どうしよう。オーデュイの戻し方、分からないままだよね。もうちょっと探索続けようよ!」
「ううん。いいんだ。ワタシだって色々探してたんだけど、何にもわかんないし……。探索者に頼もうと思ってたけど、討伐されるの怖くて、じゃあ逆に魔物に? と思っても何か強そうなのがうじゃうじゃいて怖いしで、もう1週間も逃げ回っててさぁ……」
「1週間も!? ごはんはだいじょーぶ!?」
「うん。この体だとお腹減らないみたいだから大丈夫だよ。それより独りのほうが寂しかったもん……」
「オーデュイ……」
「でもでも、マイマイたちに会えてよかったよ! 本当にありがとう! ──で、良かったらなんだけど、最後に一つだけ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「もちろん!」と、吾妻は元気よく返事した。
それを聞いて、オーデュイは少し躊躇いながらも話を切り出した。
「その、スライムだからさ。このまま外には出してくれないでしょ? でも、何とかしてシブヤダンジョンの外に連れ出して欲しいんだ。そして……喧嘩したお母さんに会って、謝りたいんだ」
◇ ◇ ◇
「……た、ただいま、戻りました」
「ドゥワッ!? 急に出てくんなや、ビックリさすなほんまぁ……」
アキハバラダンジョン、最深部。
背後から急に話しかけ現れた尸戸に、ハザマは腰を抜かす。
「あ、あの、言われた場所に置いて来ました……も、もちろん透過させてます」
「おぉ、そうか透過。ご苦労さん……って、どこ行った?」
「え、あ、ここです」
そして、また消えた。
「喋らな見えへんって、変な力やなぁ」
「なっ、べ、別に、へ、変、じゃ……」
「点滅すな! もう自分喋ったらあかんで、ほんまー」
「──ねぇねぇ、ハザマおにいちゃーん。まだなの〜?」
尸戸の後方から現れた中学生くらいの女の子。
アイドルのような衣装を着た、見た目は可憐な少女だが……あまりの圧に尸戸は姿を完全に消し、即刻逃げた。
「あぁ、ホタルちゃんか。まだ準備中や」
「あ、そー。そういえばさっき誰かいた?」
「まぁな。もう、おらへんけど」
「えー、おにいちゃんになってもらおうと思ったのに」
「ま、もうすぐ鬼みたいに増えるで」
「へへー、たのしみだな〜」
ホタルと呼ばれた女の子はスキップしながら、適当にどっか行った。
「あんま遠く行かずちゃんと戻って来るんやでー! ──ふぅ……あんなガキンチョにゴマするくらいなら棄権したいわ。ま、機嫌損ねて消えるんはワシらか……。ヤダねぇ、SS級ってのは危険すぎやで。いくつ命あっても相手するのは聞けんなぁ」




