50本目 質問来てた!ダンジョンの外でレリクスを使用するのは犯罪ですか?
「お母さん、このレリクスすごいね!」
「それはお父さんがシンジュクダンジョンで見つけて持ち帰ったものよ」
「シンジュクダンジョン! わたしも行ったよ〜って、えぇっ!? お父さんも探索者だったの!?」
吾妻は父のことを何も知らない。
それは母親が敢えて語らなかったから。彼女の性格もあってか、話題にすら上ってこなかったのだろう。
ちょっとだけ大悟を気の毒に思った。
「へー、そっかー。じゃあ、もしかしてまだどこかで冒険してるのかもね! 会えたらちゃんとお礼言わないと〜」
「そうね。いつか会えるわよ」
那緒子さんは現状を把握しているから、これ以上は何も言わなかった。
「えっへへ〜、メガちゃんをこれからよろしくね〜。あ、フランちゃんももちろん忘れてないよ!」
部屋からふわふわと飛んで出てきた宝具:ファイヤーフランタンが吾妻の周りを嫉妬するかのように回る。
水を操る宝具が相手だと相性が悪いので、自ら避難してたみたいだ。
「とりあえず宝具はしまっておけ。本来、ダンジョンの外で使ったら駄目だからな」
「あっ、そっか! 証拠滅亡、滅亡……」
「隠滅な。跡形もなく消してどうする」
近隣住民がいないのでバレないと思ったが、近くに人の気配は感じた。
さっきまで訪れていた探究省の人間だ。
「おい、迷宮管理法第7章第2条の2、宝具の使用について。迷宮外での許可なき宝具使用は禁止だと知らないのか。犯した者は十万円以下の罰金及び宝具の一時没収だ」
はぁ、やはり見られていたか。
スーツを着た少年がこちらを見上げながら、軽蔑の目で見下していた。
俺は彼と何度か会っている。
今川駿介。模倣者管理官の一人。
俺たちの存在をかなり毛嫌いする人物で、常に部署の異動を願う排斥的な人物だ。
「話には聞いていたがまさかお前もいるとはな。どうだ、人間の真似事は楽しいか?」
「えー、あの男の子スーツ着ててかわいい〜」
「男の子とか可愛いとか言うな!!」
皮肉など吾妻に通じるはずもなく、むしろ今川の方が馬鹿にされていた。
「オレは38だぞっ!! ほらっ!」
探究省の人間もダンジョンに入ることがあるので免許証を義務として持っている。
今川が顔写真部分を指差し、証拠を見せるも「お父さんの借りたの?」とプククと吾妻は笑った。
彼女は信じていなさそうだが、彼は立派な成人男性だ。
数年前にとあるダンジョンで子供の姿のまま時が止まる怨呪をかけられた。
羨ましがる人もいるかもしれないが、プライドの高い今川は舐めた態度を取られるのが気に食わないらしい。
と、現在の彼は子供らしくムキーッと怒っている。
「とにかく言い訳は後で聞いてやる。大人しく連行に従え。さもないと一時のみならず永久的に没収になるからな。逮捕もあり得るんだぞ!」
「まぁまぁ、怖い顔しなくてもいいんだよ今川管理官」
「なっ!? 怖がってませんよ!」
「相手を知らないから恐怖で差別するんだよ。人間ってのはね」
「し、しかし模倣者であれ、人間の法律には従ってもらわないとですね」
「これくらい広い心で許してやるのよ。彼らはS級の模倣者に襲われていたのだから。緊急事態だったのよねぇ?」
「全部見てましたか。石狩管理官」
今川を宥めた石狩博衣は、模倣者に好意的に接してくれる管理官。
「遠くからだけどね。わたしにはもうヤンチャなことできないから。今川管理官、もし彼らが戦ってくれなかったら、地域住民に被害が出ていたかもしれない。それは分かるよね?」
「……はい」と反省する今川に、「おばあちゃんに怒られちゃったね」と悪気なく言う吾妻に、彼はキッと睨みつける。
これ以上はやめて差し上げろ。
「まぁ、一応認可のないS級模倣者が外で暴れたことはさすがに報告しないとだから、話は聞かせてくれるかな?」
こうして俺たちは順番に、石狩とは面談、今川からは尋問に近い形式で事の経緯を話した。
結果から言って、お咎めなしにはなった。
模倣者の存在を公にしていない以上、情報が漏れる可能性を少しでも減らしたいからだ。
探究省が把握している模倣者は全部で37人──内11人は既に消滅している。
ハザマなど野放しにしているものや、葬倉や今回の逝来などとっくに社会に溶け込んでいる彼らが暴露、暴走しないために、早急の捕縛と管理が探究省の一つの目的だ。
都市伝説レベルには世間に広まりつつあるが、その程度で済んでいるのは、探求省が牛耳るある能力が絡んでいると、さらなる都市伝説があるが……今回は割愛する。
「──ん〜、今日は疲れたねー!」
吾妻に駅まで送ってもらった。
吾妻家の後片付けをしないといけないが、手の付けようもないので、翌日探究省の人間が来てくれるらしい。
思ったより献身的なアフターケアだな。ありがたい。
ちなみに吾妻親子はこの後駅近のホテルに泊まれることになったらしい。
「まさか外で悪い奴に襲われるなんて、わたしも人気になってきたってことだよねー。お陰でわたしの部屋がぐちゃぐちゃだよ」
「それは元からだろ」
そろそろ日が沈む。
夏の夕暮れ、人気と知名度の如くぐんぐん伸びる彼女の影法師。
それを踏むまでに近くを通った男性が吾妻に気付く。
「おや? 吾妻さんじゃないですか」
「ん? おぉ! 藤岡先生!」
「先生?」
「うん! 藤岡辰也先生! 小学校でお世話になった先生なんだ〜」
黒縁メガネを付けた真面目そうな男。
ただ、笑顔には優しさがある。
さらには吾妻が大きな声で紹介したことで、注目を集めることになったが、それは人気急上昇中のダンジョンストリーマーにではなく、教師の藤岡に対するものだった。
老若男女問わずみんなが気さくに話しかけるのを、一つ一つ彼は丁寧に答える。
「特に三階から飛んだ時に怒られたのは今も覚えてるよ〜」
「当然です。危ないことをしたのですから。ただ、その大胆さが今の活動に活きてるんでしょうね」
「おぉ! 見てくれてるの!?」
「ええ。応援してます。これからも頑張ってくださいね」
「うん!」
相手を気遣えるとても人望のある先生──吾妻と同じ小学校だったはずなのに、俺は彼のことを全く覚えていない。
何より吾妻が跳び落ちた事件は印象的なはずなのに、あの現場に彼はいたのだろうか。それに見た目が若い気も……。
疑問は残るが──まぁ、いいか。覚えてないこともあるだろう。
吾妻に見送られて電車に乗った俺は、次はどんな企画を実行するか考えながら帰路についた。
◇ ◇ ◇
「はぁ……マイマイ♡ ワタクシを認知してくれたかしら」
遥か彼方にある小さな池に、月明かりに照らされながら仰向けで浮かぶ逝来。
一張羅の白いワンピースはボロボロになっているが、愛する推しに付けられたものなので、今後額縁に入れて飾るらしい。
「──ここにいましたか」
「あら、紫草。珍しい、お仕事終わったの?」
「ええ。ですから、あなたを回収しに」
「小学校の先生よね。ガキ相手によくやれるわ〜」
「子供の成長する姿は見ていて感動を覚えますよ。つい先程、教え子と再会しましてね。高校生となった彼女が夢に向かって邁進しているのを心から嬉しく思います」
「あなたが働き出したのは去年からでしょ」
紫草は水面を歩き、逝来に近寄る。
「教育を施すのに年齢など関係ありません。皆、平等に私の可愛い生徒ですよ」
「うっわ、きしょっ」




