20本目 ネコちゃんを追いかけてみたらどこに行く?
「し〜んじゅく、しんじゅっく♪ じゅくじゅくしんじゅくん〜」
自作のオリジナルソングを歌いながら、街を闊歩する吾妻。
推しとこれから会うのが楽しみ過ぎて、分かりやすく上機嫌みたいだ。
待ち合わせ場所は新宿駅、東口駅前広場。
もちろん今回挑むのは、シンジュクダンジョンである。
危険等級は攻略済みのC級。
しかし、ダンジョンボスが倒された後だというのに、その難易度は詐欺レベルに難しいとされている。
なぜなら……
「元S級のダンジョンだよね! シンジュクダンジョンって! モンスターもまだ強いけど、レリクスもまだまだいっぱいあるって噂だもんね〜」
攻略難解だったS級ダンジョン。このダンジョンは出現初期から多くの探索者を葬ってきた。
ただ都心にあるためアクセスが良く、さらには政府の探求省直々に攻略推奨されたことで、大量の探索者が毎日押し寄せ、数の力で5年前には攻略された。
「それにしても、すっごいキラキラしてるんだよね!? んはー! 楽しみだな〜!」
「いいか。シンジュクダンジョンは何階層かに分かれていて、とてつもなく広い──」
「だから、わたしからぜ〜ったいに、はぐれちゃダメだからね? 東くんわかってる〜?」
「……そうだな。善処するよ」
なぜかこちらが注意されてしまった。
まぁ、俺が離れなければ吾妻が迷子になることはないか。
「それにしても、えりにゃんと生配信コラボか〜。生でするのは初めてだから、すっごくドキドキする〜!」
人気ダンジョンストリーマー、えりにゃん。
彼女からのコラボ依頼は生配信が要望だった。
えりにゃんがあげる主なジャンルは〝踊ってみた。〟と〝生配信雑談〟
踊ってみた。は古来よりある人気のジャンルだが、ダンジョンが現れて以降は現実からかけ離れた壮大な、あるいはツッコミたくなるようなシュールな場所を背景に、ダンス動画が投稿されている。
生配信雑談はその名の通りだ。部屋でもダンジョンでも行われていることが同じ。
ただ一つ特別に気をつけないといけないのは、生配信中にダンジョンの脅威に呑まれ……スプラッタ動画に陥る可能性があること。
なので、ダンジョン生配信を行うダンジョンストリーマーは相当な実力者であることが求められる。編集なしに、戦いながらファンサをするのは非常に難しい。
それと生配信というジャンルがあるからこそ不思議に思うが、なぜかダンジョン内のほとんどの場所は電波やWi-Fiが届く。この謎も一つとして解明されていない。
正直、断ろうかと思っていた。
だが、ファン層も近く、マイマイチャンネルに視聴者を呼び込める良い宣伝にはなるし、何より吾妻自身が「ぜったいコラボしたい!」と言って聞かなかった。
正直呑まないと、黙って勝手に行きそうな勢いだったので、仕方なく首を縦に振った。
「えーと、待ち合わせこの辺だよねー。うーん、えりにゃん大人気だから人だかりのところにいるのかなーと思ったけど、まだいないみたいだね」
「……にゃーん」
「あ! ネコちゃん!! ねぇねぇ東くん、ライオンの上にネコちゃんいるよ!」
東口駅前広場のシンボルでもあるライオン像。
その頭の上に黒猫が凛として座っていた。
「ん? 何か首輪に付いてる?」
ピンク色の首輪に括り付けられた紙を見つけた吾妻は刺激しないよう近付き、紙を取っては開く。
[わたしに付いてこれるかな? ──えりにゃん]
「えっ!? えりにゃん!?」
すると、黒猫は像から飛び降りて、人々の足の間をすり抜けて街中へと走り去る。
逃げていく黒猫を吾妻は「まてまてー!」と追いかけていった。
……なるほどな。
これが誰にも騒がれずに合流する方法か。
過激なファンも多いえりにゃんと繁華街のダンジョンへどう向かうかと考えていたが、問題はなさそうだ。
──余計にバレないように心掛けないといけないが。
狭い裏路地に入り、室外機の上を渡り歩き、何度も複雑に曲がり抜いた先に、ビルに囲まれた小さな空き地があった。
「あ、お待ちしてました……マイマイチャンネルの皆様……」
そこには女性が一人立っていた。
まるで触れれば壊れてしまいそうな、どこか儚さがある女性だった。
そして、彼女の隣に座る黒猫。
「こ、こんにちは! えっとぉ、えりにゃんは?」
「ここよ──ちゃんとついて来れてよかった。来にゃかったらそのまま置いてダンジョンに行くつもりだったけどね〜」
黒猫が突如言葉を喋り出すと、身体がみるみる大きくなって……黒猫耳カチューシャを付けた人間へと変貌した。
「ネ、ネコちゃんが……えりにゃんになったぁ!?」




