141本目 恋愛パワースポットに行ってみた!あ、プライベートでね!
「ん〜! すごくキレイだね!」
1月2日。
危険等級D級、香川県丸亀市にあるマルガメダンジョンに訪れた。
ここまで送迎してくれた来海たちは近くのタカマツダンジョンへと撮影に。また夕方に迎えに来てくれるとずっと世話になってばかりである。
「大きな声出すな。その声だけで気付く人はいるんだ」
今回俺たちはここに撮影に来たわけではない。
D級がゆえ、周囲には探索者でもない観光客が大勢いる。中には非公式マイマイグッズを身に付ける人もチラホラと。
そんなファンたちにバレないよう、舞梨には黒いマスクにニット帽を深く被らせた上、サングラスもかけさせる。
「マイマイ、亮くん。逆に目立たない?」
「ふんすぅー」
オーデュイにツッコまれた……確かに。不審者すぎたか。
舞梨も息苦しそうだ。
とりあえずキャップと度がある黒縁眼鏡をかけさせる。彼女は意外と視力が悪い。真冬なので黒マスクも違和感なく周りに溶け込んでいる。
オーデュイもニンゲンの姿へと変身して、同じように少しばかり変装している。もちろん俺も。三人がよくいる地元の高校生グループになるように。
水平線に囲まれた(実際は程よい距離に白い壁がある)湖が両側から迫る砂浜の道──シナモンロードを歩き、奥へと進む。
今回ここへ来たのは吾妻の要望があってのことだ。
「この先の階段をのぼったところがずっと行きたかったとこ! どんなとこかは行ってからのお楽しみ!」
「へ〜恋人の聖地があるんだー」
「わわっ! 何でパンフレット見てるのー!」
インヌタ映えするようなD級ダンジョンだと地域活性化のための観光地になることが多い。
山の頂上にある教会。崖に沿って四方を覆う柵に南京錠をかけることで生涯愛する人と離れることがないとか……というのを浦山好奇のチャンネルで知った。
あまりにも効果は絶大らしく一種の催眠、怨呪なのでは? と、D級のままでいいのかと議論されることがしばしばある。
まぁ、自治体としてはそれでカップルや新婚夫婦が観光で来てくれるわけなので、簡単に規制へと乗り出せないが……。
「あれ、恋人の聖地なのにワタシいていいの?」
「万が一、マイマイがいるとバレては厄介だからな。兄だと言っても信じてくれるか分からないし」
「オーデュイとも一緒に楽しみたいもん!」
「マイマイ、亮くん……。うん! ワタシが二人のツーショットをバッチリ押さえるからね! ……ん?」
何か違和感を感じたオーデュイに、「どーしたの?」と舞梨が心配する。
「いや、なんかまたチクッとしたような〜。まだ瓦礫刺さってるのかな?」
「無理はしない方がいい。一気に色々と吸収したんだろ?」
オーデュイのスライムは何でも身体の中に入れ込めてしまう優れものだが、当然危険物は体調に影響が出るし、一度に大量に入れ込むのも危険だ。
「マイマイ、亮くんありがと〜。でも、問題ないよ!」
「わかった! でもしんどくなったらちゃんと言うんだよ?」
そうこうしてる内に、登るべき金平牛蒡山の千切り階段が差し掛かる。
幅広い階段の左右には店も建ち並び、人の往来は激しい。
なお一層のこと身バレしないよう気をつけなければ。
「よぉし、レッツ──!」
「──あのー、マイマイさんこと吾妻舞梨さんですよねー?」
歩き出そうとした最中、ハンチング帽を被った女性が声をかけてきた。
即刻マイマイだとバレた……だけでなく、本名まで……!?
「よしっ、正解ですよね。あぁ、ワタシ怪しいものではないですよ。こういうものでして〜。週刊文秋の坪倉芳子と申します」
渡された名刺と自己紹介の通り、こいつは週刊誌の人間。しかも最大手の週刊文秋の……!
ここが捉えたスクープのせいで、一体何人のダンジョンストリーマーが葬られてしまったことか。
今までにも吾妻に寄りつこうとした記者はいたが、全て自然な形で追い返して来た。
「ちょっとお聞きしたいんですけど、こちらの男性スタッフとは一体どういう関係ですかね〜?」
だが、俺の察知を潜り抜けるだけでなく、こうやって直接突撃して来るということは既に何か証拠を掴むほどには、何度も接近に成功してきたわけだ。
「そういった取材は一切受け付けていない。何かあれば事前に質問内容と一緒に連絡を──」
「いいじゃないですか〜。こちらには知る権利があります。ファンのみんなも知りたがってますよ?」
「プライバシーの侵害だ」
「えー、ワタシはマイマイさんからの言葉も直接聞きたいなー。よしっ! ならば、もうちょっと大きい声で質問すれば答えてくれるかな?」
大声で目立たれて周囲にバレる方が厄介だ。
「きょ、兄妹だよ!」と舞梨が素早く模範回答をするも、「既に兄妹でないことは周囲に確認済みです。学校の方が教えてくれましたよ〜」と調査がすぐ側まで行われていた事実を知らされる。
「それに何ですかね〜これ」
坪倉が見せる写真には、つい先日のドウゴダンジョンにて舞梨を魔物から助けた後にあった……水着姿で抱き合う俺たちが写っていた。
こうやって外から見ると恥ずかしいな……と感じている場合かよ。盗撮に俺は気付けなかったのか。
「ワタシのカメラは魔晶石が組み込まれており、どんなに遠くても直線上に障害物がない限り撮影することができる武具:ズームカメラ! よしっ! まぁ、遠ければそれだけ狙いたいところを狙うのはかなりの微調整がいりますけどね。ワタシなら朝飯前ですよ〜」
「これは助けられただけだよ……!」
「ええ、ええ。始終見てましたよ〜。しかし! 人々が望むのは刺激的なニュース! その中で最も人々が興奮するコンテンツとは──没落ですよ。人気者が失墜する時です。真実がどうあれ、この写真の事実があればそれでよしっ!」
メディアという強大な力を手に世間を情報で翻弄していく、いや翻弄されてしまっている典型的な人だ。
だが、彼女はそれを上手く使いこなしてしまっている。だからこそ厄介なんだが。
「さぁ! 言い訳を聞かせてください! これはどういうことですかぁ?」
「う、うぅぅ……」
録音機材を突き出して、しつこく舞梨に詰める坪倉記者。
下手に口や手を出せば、何をどう切り抜かれてしまうか分からない。どうする……
「……記者さん。マイマイと亮くんは付き合ってないよ」
そんな時、口を開いたのがオーデュイだった。
「あなたもスタッフの……。ほぉ、どういうことですかね〜?」
「だって……だって付き合ってるのはワタシと亮くんだからー!!」
「「えぇぇー!?」」と坪倉と舞梨は驚嘆するが、オーデュイが必死に考えた嘘にお前も騙されたらダメだろ。
「え?」
「え? あ、うん。そうだよ。そうなんだよー! わたしはスタッフ想いだから二人に付いていってあげてるんだよー!」
すると、オーデュイは俺の腕に抱きつき「ね、ね〜? そうだよね〜?」と言ってくるので、頷いた。くっつく腕は冷たいような熱いような……。
とにかくオーデュイが作ろうとした突破口を無下にはできない。
だが、こんなことで周到に調べてきた彼女を騙すことも難しい。
「ほぉー? よしっ、その証拠を見せていただけますかね? ここに来たということは二人も他のカップルと同じようにパワースポットを巡るってことですよね?」
「うっ……うん。そうだよ?」
「う、うん。わたしは二人が上手く行きますようにって、写真撮りに来たからね……!」
「……分かりました。よしっ、ならその様子を見届けましょう! 誇大はあっても嘘まではワタシも記事には載せないです。名誉毀損として訴えられても困りますからね〜。誤っているとほぼ負けますので」
坪倉を騙すため……俺とオーデュイがカップル役。普段演者側の吾妻が撮影をするという何とも奇妙なD級ダンジョン探索になった……。




