第6話 呪いの遺伝
「魔術は本来、術式がないと発動することはできない。でも、霜月香代の祖先が別の人物に魔術をかけられ、その術式が体内に焼きつけられてしまったみたい」
「焼きつけられた?」
「あい。火傷の痕が肌に残るみたいに、術式が霜月香代の祖先の体に刻み込まれた。それがそのまま遺伝して、術式を描かなくても魔術が発動できるようになった」
……それってもう、魔術じゃなくて呪いだろ。他人の意思が、そのまま身体に刻まれているなんて。
背筋がぞわっとした。
魔力の量は遺伝しないが――魔力を持つ親から生まれる子どもは、魔力を持つ確率が非常に高い。数百年前のものとは言っても、魔法と魔術はそれほど違いがなさそうだから、魔力持ちに遺伝していったのかも。
……死亡した霜月香代の魔術を、お嬢ちゃんかお兄さんが受け継いでいたとしたら、あの金色の炎を発動できたのも納得がいく。
……けど、暴発だったらまだいい。もし、誰かが意図的に発動させたのだとしたら?
あるいは、自分の意思で使ったのか……?
背中を冷たい汗が伝った。
だが……この程度の話で済むなら、神屋大臣がわざわざ春日井先生に、調査の禁止を言い渡すなんて大げさすぎる。
つまり、何か――もっと重大な、彼にとって不都合な真実があると考えていい。
……ああ、めんどくさ。
手のひらに乗るカラスには、卒業生の名簿を見てもらっただけだから、お嬢ちゃんのことはわからないようだ。
お兄さんが、お嬢ちゃんと五歳差なら、今年二十一歳になるはず。けど、名簿に名前がないってことは……この学校の卒業生ではない。
ということは、魔法は使えないのか。
……なんだ、そうか。兄の方を怪しいと思いたかったのに、そうじゃないのか。
肩透かしをくらったような、複雑な気分だった。
と、なると……霜月優香が魔術――金の炎を発動した確率が高い。
「この、香代さんの祖先がかけられたっていう魔術について……内容はわからないのかい?」
春日井先生がカラスを覗き込むように質問していた。
「かけられた魔術の内容は『二十歳まで生きられる』というもの。霜月香代はなんらかの手段で多少延命できたみたい。それを行った人物を見ないことには説明できないけど」
「その魔術、解除はできなかったのか?」
しばらく何もない空間を見つめたあと、再び話し始めた。
「過去を覗いても、見えない人物ばかり出てくるから確実なことは言えないけど……自分の子どもに“魔力の移植”をしたみたいだね。それが魔術の解除あるいは緩和に繋がるのかもしれない」
見えない人物とやらのせいで、せっかく召喚した優秀な魔法獣からの意見がもらえない。
お嬢ちゃんの情報は渡せるとして、お兄さんの写真を探さないと。
霜月先生が見つかればてっとり早いのに。
火災があった日から行方不明らしいし……あの人どこ行ったんだ。
急にバサバサと手のひらの中で暴れ回り、カラスにくちばしで軽く突かれる。
「これ以上実体化するのは難しい。名前をつけてくれないと、二度とぼくを召喚できなくなる」
うわ、そうなのか。知らなかった。
えっと……どこかの国で、カラスは“コルネイユ”って言うらしいけど……この子を“カラス”って呼ぶのもな。
「……間をとって……ルネ、でどうかな?」
いや、もうそれでいいや。今さらかっこいい名前とか思いつかないし。
「これからよろしく、ルネ」
名前をつけた瞬間、ルネは風とともに消え……同時に視界が暗転し、俺は気を失った――。




