第112話【遠くで急かされたのは、元Fランクの闇使い】
宇宙船の防衛に回った聡羅達は、
第一波を退けて第二波に備えた。
「今度は~、リザード級とマグナム級ね~」
「盾の影からマグナムの狙撃、定番だけに厄介ですな」
足元を通じて熱源を確認したマーダが手のひらに解析結果を浮かべ、報告を聞き終えた蔵は苦い表情を浮かべる。
「搦め手が効かないと悟って、ゴリ押しで来る気だね」
「数も考えれば、生半可な攻撃では突破されるな」
Lバングルを起動した羽士が相手の行動を予測し、聡羅は難しい表情を浮かべて周囲のバリケードを見回す。
「今こそ白い意識からもらった技の使いどころよ!」
「わかった。頼んだぜ、カーサ」
「カーサにまかせないよ! スタティックグリモアール、モードESD!」
先端の尖った黒い帽子を被り直したカーサは、決断と共に頷いて前方を指差した聡羅に力強く頷いて魔導書型の機器から複数枚のページを剥がした。
▼
『『グェッ! グェッ!』』
「来たわね! ライトニングドリル!」
直立歩行するイグアナのようなリザード級硼岩棄晶の群れが円盤状の前足を構えながら迫り、カーサは剥がしたページをドリル状に束ねて右腕に装着する。
「そのドリルが~、カーサちゃんの新しい技なの~?」
「無茶です、ここに来て近接武器など」
「オレも最初はそう思ったよ。まあ、見てろよ」
頬に指を当てて首を傾げたマーダに続いて蔵が慌てて止めようとし、手のひらを向けて首を横に振った聡羅は余裕の笑みを返す。
「聡羅がそこまで言うなら、何か仕掛けがあるんだね?」
「もちろんよ、見てなさい! ライトニングホロスコープ!」
『『グェッ!?』』『『グォッ!?』』
興味津々な表情と共に聞き返す羽士に力強く頷いたカーサがドリルを上に向け、回転に合わせて広がった暗闇にリザード級と後に続くマグナム級が歩みを止めた。
「これは星空!? プラネタリウム? いや、あの星の全てが雷なのか!」
「ああ、これがカーサの奥の手だ」
突然広がった夜空のような光景に驚く羽士が光源の正体を見抜き、聡羅は自信に満ちた笑みを浮かべる。
「星空を再現して足止めなんて見事だよ、まるで翔星……」
「ええ、サイカのマスターも参考にしたわ! これもマスターを守るためよ!」
眼鏡に手を当てて感心していた羽士が慌てて途中で言葉を呑み、カーサは力強く自分に言い聞かせるかのような大声で羽士の推測を肯定した。
「ありがとな……」
「そこまでよ! 帰ったら、たくさん撫でてちょうだい」
目を細めて伸ばした聡羅の手を振り払ったカーサは、雷で作った星空を指差して不敵な笑みを返す。
「わかった、思い切りやってくれ!」
「もちろんよ! ライトニングホロスコープ、クロスファイア!」
『『グェァァアッ!?』』『『グォォオッ!?』』
安堵と共に手を戻した聡羅の指示を合図にカーサが手を振り下ろし、雷の星から一斉に降り注いだ細い光線が足を止めていた硼岩棄晶の群れの悉くを貫いた。
「まさか、あの細い光のひとつひとつがカーサちゃんの雷なの~?」
「ああ、ライトニングブラストを集束して貫通力を高めたんだ」
硼岩棄晶のコアごと全身を灰にする光線の分析をしたマーダが聞き返し、静かに頷いた聡羅はLバングルに訓練時の記録映像を浮かべる。
「視界を遮った上で雷を全方位から一斉射か、これはひとたまりも無いな」
「ひとまず第一陣は退けましたな」
為す術も無く灰燼へと化した硼岩棄晶を眺めていた羽士が冷静に分析し、敵陣の沈黙を確認した蔵は静かに合掌した。
「やっぱり消耗が激しいわね。マーダ、壬奈、回復するまでお願い」
「はぁ~い、次はわたくしですねぇ~。モルタールート、スナイパーモード」
「狙撃銃? いったいどんな仕掛けが?」
雷の星空を解除して後ろに下がったカーサと入れ替わるように前へ出たマーダが巨大な狙撃銃をガジェットテイルから取り出し、羽士は慎重に疑問を呟く。
「ちょっと待ってねぇ~、ロープスタンプ~」
『『グェッ?』』『『グォッ?』』
手を振って返したマーダが左足を踏み鳴らし、足元から現れた赤いロープが縦横無尽に飛び交って奥から進軍して来た新手の硼岩棄晶達を囲った。
「ロープで囲った!? あれもマーダさんの能力なのかい?」
「赤い闘士の使う炎の糸、それをよりイメージしやすい形にしたものです」
思惑を読みあぐねつつも冷静に能力を分析した羽士に頷きを返した蔵は、Lバングルに浮かべた立体映像を交えて説明する。
「なるほど、象だからなんだね」
「我々は永遠に群盲なのやもしれませぬな」
得心の行った様子で羽士が頷き、蔵も応えるように合掌する。
「でぃやぁ~」
『『グェァァーッ!?』』『『グォォーッ!?』』
緩やかな掛け声と共にマーダが引き金を数回引き、硼岩棄晶の群れを撃ち抜いた弾丸は貫通した後にロープに当たってから軌道を変えて新たな敵を貫き続けた。
「ロープで弾いた? そうか、跳弾だね!」
「カーサ殿の雷然り、死角からの攻撃には自慢の円盤も役には立ちますまい」
Lバングルで映像を確認した羽士が仕掛けを見破り、蔵は合掌しながら得意気な笑みを浮かべる。
「それだけじゃないだろ、背中合わせになったリザード級の円盤を貫通してるぞ」
「いかにも、これも対処を遅らせる手段ですな」
同じく記録映像を確認していた聡羅が、弾丸の威力に舌を巻き、蔵は意に介する事無く会心の笑みを浮かべた。
「ちょっと疲れちゃったぁ~。壬奈ちゃん、あとはお願いねぇ~」
「心得たでござる。零弓凍星、起動」
囲った内側に灰だけが積もったロープを消し去ったマーダが狙撃銃を担ぎながら後ろへ下がり、前に出た壬奈はガジェットテイルから背丈ほどの大弓を取り出す。
「何か、いつも通りに見えるが?」
「いつもの零弓だからね」
見慣れた弓に聡羅が不安を覚え、羽士は事も無げに頷きを返す。
「まさか、新しい技は完成しなかったの!?」
「いや、完成したよ。試行錯誤の結果、いつもの攻撃が一番相性良かったんだ」
「左様でござる。羽士殿、よろしいか?」
思わず大声で聞き返したカーサに首を振って返した羽士がLバングルに弓の立体映像を浮かべ、大きく頷いた壬奈は背負った筒から羽状の機器を広げた。
「ああ、思い切り暴れて来てくれ!」
「心得た! 白洲両刃雪崩!」
『『グェギャーッ!?』』『『グギョォォーッ!?』』
力強く親指を立てた羽士に合わせて飛び上がった壬奈が氷の矢を弓につがえては放ち、新たに現れた硼岩棄晶の群れは砕けて降り注ぐ氷の矢に全身を貫かれた。
「うわぁ~……随分とえぐい攻撃を考えたわね……」
「いつもの矢の威力が増しただけに見えるけど、何が違うんだ?」
しばらく戦況を見詰めていたカーサが引き気味に言葉を絞り出し、理解出来ない様子で聡羅が聞き返す。
「マスターには見えないでしょうけど、至近距離でもう1回破裂してるのよ」
「しかも灰みたいに細かく砕けて加速するから、全部を防ぐなんて不可能だよ」
「盾や甲殻の隙間に入る無数の小さな氷の矢か、これは敵に回したくないな」
手のひらに解析映像を浮かべたカーサに頷いた羽士がLバングルに矢が砕け散る工程を説明する映像を浮かべ、本質を理解した聡羅は複雑な笑みを返した。
「さすがに消耗したでござる、しばし休ませてもらうでござるよ」
「おっけ~、壬奈。あたしは充分回復したわ」
「では、お任せ申す」
索敵可能範囲の硼岩棄晶の駆除を終えた壬奈は、手を振ったカーサと入れ替わるように後ろへ下がる。
「まかせなさい! ライトニングホロスコープ、クロスファイア!」
『『グェァァアッ!?』』『『グォォオッ!?』』
「ま、こんなものね」
右腕に装着したドリルを回転させて星空を作り出したカーサは、奥から迫りつつあった硼岩棄晶の群れに雷光線を浴びせて瞬時に灰にしてからひと息ついた。
「カーサちゃん、お待たせぇ~」
「さすがはマーダ、時間通りね。続けて頼んだわよ!」
後ろからマーダが手を振り、背伸びしてハイタッチしたカーサと入れ替わる。
「は~い。モルタールート・スナイパーモード、ロープスタンプ~。でぃやぁ~」
『『グェァァーッ!?』』『『グォォーッ!?』』
巨大な狙撃銃を取り出したマーダが左足を踏み鳴らして炎のロープを張り、撃ち出した何発もの貫通弾をロープで跳ね返して奥から現れた硼岩棄晶を貫いた、
「姿を見せた途端に駆除か、本格的にオレ達の出番が無くなりそうだ」
「マーダ殿が撃ち終わる頃には、某の矢も復活してるでござるよ」
折り畳んだままのスコップを構えていた聡羅が力無く笑い、マーダと入れ替わる準備をしていた壬奈は無邪気な笑顔を返す。
「むう……奥の手の三段撃ちとは」
「ちょっとだけ硼岩棄晶に同情しちゃうね」
両手でスコップを構えた蔵が顔を引きつらせ、先端を曲げたスコップの氷の弓を張っていた羽士は複雑な笑みと共に自身の輝士械儕を見送った。
▼
『『グェッ! グェッ!』』『『グォーッ!』』
「あれだけ駆除しても、まだ出て来るのかよ」
繰り返し何度も続く3人の輝士械儕の攻撃を観察していた聡羅は、絶える事無く現れる硼岩棄晶の群れに悪態をつく。
「そろそろバリケードの簡易結界が時間切れだよ」
「ここの防衛線は放棄、衝角ブロックまで後退だ」
Lバングルを通して周囲に配したバリケードの確認をした羽士が首を横に振り、即座に後退を決断した聡羅は後ろに向けて手を振った。
「委細承知」
「ポールスタンプ~、これで少しはもつわよぉ~」
合掌した蔵がバリケードをどかしてハッチまでの進路を確保し、マーダは左足を何度か踏み鳴らして炎の柱をいくつも作り出して壁を作る。
「殿軍は任せるでござる、今のうちに」
「サイカのマスターはまだなの? 早くしなさいよ……」
最後尾に回った壬奈が硼岩棄晶に向けて弓を構え、魔導書から剥がしたページを通路のように等間隔で浮かせたカーサは祈るように呟いた。




