第113話【相棒を失ったのは、元Fランクの闇使い】
宇宙船の防衛を続けていた聡羅達は、
簡易結界を放棄して衝角ブロックまで下がった。
「虎影灯襖虚、起動!」
『『グォォオッ!?』』
先頭のサイカが手にしたガジェットテイル先端の懐中電灯から光の刃を伸ばして振り、鉢合わせとなったマグナム級硼岩棄晶の群れを切り伏せる。
「お見事! 出会い頭にバッサリだと、俺ちゃん達の出番が無いな」
「ああ、もう少しこっちにも……くっ!」
後ろで称賛したピンゾロが複雑な笑みを浮かべ、同じく頷こうとした翔星は突然左手で口を押さえて小さく唸った。
「どうした、翔星!?」
「何でも無い、出て来たくしゃみを強引に押さえ込んだだけだ」
大慌てでピンゾロが聞き返し、落ち着いて首を横に振った翔星は自嘲気味に頭を掻く。
「驚いたぜ~。それにしても、くしゃみと来たか」
「案外誰かが噂してたりね」
「そんなガラじゃないと言いたいが、たぶん虎の姫さんがせっついたんだろ」
心底安堵したピンゾロの隣で斑辺恵が悪戯じみた笑みを浮かべ、鼻で笑いかけた翔星は思い当たる人物を浮かべて肩をすくめた。
「わしらの方は遭遇が数える程じゃからの」
「宇宙船はデカくて目立つからな」
「聡羅達の負担が大きくなってる訳か」
手のひらに遭遇履歴を浮かべたコチョウに頷いたピンゾロが元来た道を見詰め、続いて頷いた斑辺恵は小さくため息をつく。
「今から加勢にでも行くか?」
「いや、俺がすべきは早くコアを見付ける事だけだ」
おどけるように聞き返したピンゾロに翔星が首を振り、一行はUFO級の奥へと進んで行った。
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「前方に動く影、警戒を強化」
「影ね……そこらの雑魚よりは期待出来そうだ」
しばらくして足を止めたサイカが腕を広げて制止し、サングラス型のバイザーを掛けた翔星は腰からRガンを抜く。
「ここに来るまで全部サイカ先生に獲られっぱなしだものな」
「言うなよ……来るぞ」
「新種か? ヒト型のようだが?」
肩を大きく震わせて笑ったピンゾロは、軽くため息をついてから身構えた翔星の視線を追って自分の背丈に近い直立した硼岩棄晶を視界に捉えた。
『レイガン、ダブルファイア!』
「おっと、翔星先生の物真似か?」
滑るように近付いて来たヒト型硼岩棄晶が左手を前へと出し、飛んで来た2本の光線を後ろに跳んで躱したピンゾロは手のひらに空気を集めながら身構える。
「ならば本物を見せてやる! Rガン、ダブルファイア!」
『ハッ!』
死角へと回り込んだ翔星がRガンの引き金を素早く2回引き、ヒト型硼岩棄晶は右手を振って2本の熱線の軌道を逸らした。
「熱線を弾いた!?」
「なんだ、ありゃ!? まるで剃刀の化け物だ」
新たに出来た死角からRガンを構えていた斑辺恵が思わず手を止め、ピンゾロはヒト型硼岩棄晶が右手に生えた鉈のような巨大剃刀を指差す。
『ハッ!』
「チッ! いい反応しやがる」
突然立ち止まって振り向いた硼岩棄晶が巨大剃刀を横に薙ぎ、背後に回り込んだはずが向かい合わせになった翔星はRガンを撃った反動で大きく後ろに跳んだ。
「負傷の確認を開始」
「外套だけだ。踏み込みが足りてたら、肩から上が真っ平らになってたぜ」
光の刃を構えながら駆け寄ったサイカが左の手甲に嵌めた球体に青い光を灯し、翔星は咄嗟に脱ぐと同時に横半分に裂かれた外套を指差す。
「まるで、斑辺恵様の鎌鼬のような動きです」
「俺達のデータから作ったのか、ますます面白くなって来た」
観測と分析を終えた焔巳が比較用の立体映像を手のひらで再生し、翔星は不敵な笑みを浮かべてRガンを足元に向けた。
「まさか、ひとりで行くつもりかよ」
「俺ひとりなら勝機はある、奴は俺の闇を知らない」
「Rガンの方を真似てたからな……って、ここで駄弁って大丈夫なのん?」
進路を塞ぐように肩を回したピンゾロは、涼しい顔で頷いた翔星の言葉に一応の納得を示しながらヒト型硼岩棄晶を警戒する。
「そういえば、こちらに来る気配が全くしませんね」
「まるで道を塞ぐ感じだ」
同じくヒト型硼岩棄晶に警戒を続けていた焔巳が同意するように頷き、斑辺恵も周囲を哨戒するような不自然な行動を指摘する。
「ひとまず後退を具申」
「闇よ!……作戦を練り直すぞ!」
前へと躍り出て振り向いたサイカに頷きを返した翔星が前方に闇を広げ、一行はヒト型硼岩棄晶の塞ぐ通路から後退した。
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「敵個体が所定の範囲から移動する兆候は認められない」
「本当にガーディアンだったとはね」
「それだけ本丸が近い証拠だ」
バイザーを通してヒト型硼岩棄晶を計測したサイカが手のひらに結果を浮かべ、大きく伸びをしたピンゾロに翔星は不敵な笑みを浮かべる。
「でもまさか、異能輝士隊の技術まで流出してるとはね」
「いや、Rガンモドキはバイソン級の稲妻だ」
腰のRガンに手を当てた斑辺恵がため息をつき、静かに首を振った翔星はLバングルに牛型硼岩棄晶の立体映像を浮かべる。
「でもって、鎌鼬のパチモンはリザード級の円盤からだろうな」
「持ってる手札だけで作ったのか、敵ながら見事なものだよ」
続けてピンゾロがトカゲ型硼岩棄晶の映像をLバングルに浮かべ、斑辺恵は呆れ気味に肩をすくめた。
「俺ちゃんだけ真似されてないのね」
「おそらくピンゾロは、怪力を真似た全体的な動きだろう」
「自慢の首捻りも警戒した方がいいね、それにしても趣味が悪い」
冗談めかして肩を落としたピンゾロに翔星が腕を振り回す仕草をし、力強く握りしめる仕草をした斑辺恵は懐から竹とんぼの羽を取り出して忌々しそうに呟く。
「ヒトのゲノムを再現出来るとでもアピールしてるつもりなんだろうさ」
「敵新型個体をゲノム級と申請」
「あらら、確かに『ドッペル』はもう使えないけどさ」
腕を軽く数回振った翔星が鼻で笑い、即座に天井を見上げてから手のひらに立体映像を浮かべたサイカにピンゾロは複雑な笑みを浮かべる。
「名前なんて異能輝士隊の共通認識さえあればいい」
「結構ドライなのね~」
「それより作戦会議だ、手短に済ませるぞ」
事も無げにRガンへと手を当てた翔星は、肩を大きく震わせて笑ったピンゾロの言葉を軽く受け流してLバングルの操作を始めた。
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「まず新種で厄介なのは、コアがどこにあるかなんだよね~」
「コアは首にあった、闇で逃げるついでに確認しといたぜ」
「さすがは翔星ちゃん、硼岩棄晶が最優先で狙う気持ちもわかるね~」
腕組みをして大袈裟に首を捻ったピンゾロは、Lバングルに浮かべたゲノム級の映像の首に光球の画像を加えた翔星に手放しの賛辞を向ける。
「次の課題は相手の攻撃か、遠近どちらも隙が無い感じだね」
「Rガンモドキにパチモン鎌鼬、裁判なら勝てたんだろうけどね~」
「どちらも人間に当たれば一瞬で終わるのは確かだよ」
Lバングルでゲノム級の攻撃映像を再生した斑辺恵は、肩をすくめたピンゾロの仕草に頬を緩ませながらも真剣な目付きで映像を睨んだ。
「斑辺恵殿、輝士械儕がおる事を忘れてもらっては困るの」
「お気になさらず、斑辺恵様」
「あ……ゴメン、なかなか癖が抜けなくて。それにマグナム級の事もあるし」
咳払いをしたコチョウが親指を向けて視線を誘導し、視線の先で佇む焔巳に頭を下げた斑辺恵はカニ型硼岩棄晶の映像をLバングルに浮かべた。
「ゲノム級が使用した雷の集束率は、コネクトカバーで防御可能と判断」
「あの一瞬で計測してたのか、さすがはサイカだ」
「つまり、さっきの集束率がブラフでない限りは問題無い訳か」
手のひらに浮かべたゲノム級の映像に計測結果の追加をしたサイカの頭を翔星が撫で、斑辺恵は顎に手を当てて慎重に頷く。
「次に巨大剃刀による切断攻撃はコネクトカバーを貫通」
「実際に斬られたからな、長年の外套を失っちまったぜ」
「ゲノム級の本命は、あの剃刀のようじゃの」
続けて巨大剃刀の計測結果をサイカが淡々と報告し、落ち着きの無い様子で肩を回した翔星眺めていたコチョウは静かに頷いた。
「あのゲノム級は自分が引き付ける、翔星はUFO級のコアを見つけ出してくれ」
「斑辺恵様!?」
考えを纏め終えた斑辺恵が覚悟の表情を浮かべ、焔巳は思わず大声を上げる。
「焔巳さん、頼ってもいいかな?」
「当然です、斑辺恵様を守るのが私の使命ですから」
気まずそうに頭を掻いた斑辺恵が慎重に聞き返し、口元を綻ばせた焔巳は丁寧な仕草でお辞儀を返す。
「分かった、無茶すんなよ」
「もちろんだ」
「そうと決まれば、さっそく乗り込むぞ」
緩めた頬を隠すように親指を立てて返した翔星は、力強く頷いた斑辺恵の覚悟を汲んでゲノム級を遮った闇を指差した。




