夢を叶える為夢を繰り返す少年のお話
「目覚めろ、タイガ。」
僕は目を覚ます。明るいロンドンの街の中に居た。ドロフォノスと何回も会った、懐かしい夢の中。夢の中で僕は目を覚ます。目の前には、アンドレイオスが居た。
「僕、明晰夢ばっかり見てる気がするよ…だって、ドロフォノスと会う時は、毎回毎回夢の中だって分かってたもん。」
「だろうな。ここは夢であり、現実でもある世界だ。」
「…どういう事?」
「夢は夢だと思うから夢なんだ。そう考えた事は無いか?夢は『魂に刻まれた記憶』を一時的に呼び覚ましているのだ。」
「…確か、カルディアも『魂の叫び』で具現化するんだよね?」
「そうだ。私は、君の『人を助けたい心の声』と『先祖がどうあれ自分は自分である魂の叫び』が重なり合い、生まれた存在だ。」
「…僕は死んじゃったの?」
「あぁ、君は一度死んだ。だが、それを『夢』にする事ができる。」
「…え?」
「コスモスは慈愛の能力を持つ。今は私はコスモスとは対となる力を持つ。だからといって、人を傷付ける能力は持たない。なぜなら、私は君のカルディアだから。私の能力は…『夢』を司る力だ。」
「…もしかして、僕の夢に何度も現れたのって…」
「あぁ、ドロフォノス時代の私にも能力がある。だが、あれは所謂、私の弱体化のような物だ。君と夢の中で出会うのがやっとだった。だが、今は違う。私はもう弱くない。君に迷いがないからだ。
その時、白い空間にスクリーンで映し出したように、アンドレイオス目線と光景が映る。
そこに僕が映っていた。腹部に穴が空き、口から血が流れ、目が虚だった。
「これは夢か?夢ではないか?選べ、タイガ。」
「これが夢だとしたら…もう一度、やり直せるの?」
「そうだ。だが、未来がどうなるかは分からない。これは予知夢という事にはなるが、正夢にはならない。私の能力は万能ではない。良い未来に向かう事もあれば、悪い未来に向かう事もある。それでも、これを夢にするか?」
「…何度もできるの?」
「あぁ。何度もできる。ただし…私が出現していない時には、その効果は現れない。また、君以外は、今が『現実』となり、君がやり直す事には気付かない。君が何度苦しもうと、その苦しみはその時の分でしか分かってもらえない。それでも、するのか?」
「…これは『夢』だよ。」
これは、僕の『夢』の話だ。皆と一緒に生きたい。そんな『夢』が見れるまで、そんな『夢』を叶えるまで、何度も何度も『悪夢』を乗り越える話だ。これ以上、僕は何も失いたくない。仲間も、居場所も、僕自身も…それを手に入れるまで、何度だって『悪夢』を見てやる。何度だって『悪夢』に喰らわれてやる。だって…最後に悪夢を喰らうのは、僕達なんだから。
「カゲトさんが好き勝手してるんだ。僕だって、好き勝手させてもらいますよ。ズルいなんて言わせない。」
その時、目の前の光景がテレビの逆再生のようになる。僕はその光景の中へと引っ張られる。
「どうした?来ないのか?折角、改めて教育をしてやろうと思ったのに…残念だよ…」
ミスズさんとミウちゃんは動きを止めていた。そして、アンドレイオスは蹴りの連打を繰り出す。オプタルモスは負けじと拳の連打を繰り出してきた。だが、アンドレイオスの脚は肘打ちで折られ、再び僕の腹部に穴が開く。これも『悪夢』の一つだ。僕はやり直す。
アンドレイオスは今度は大きく振りかぶり、重い一撃を繰り出した。オプタルモスは回し蹴りを繰り出した。蹴りが拳に当たり、拳が砕ける。そして、腹部に穴が開く。これも『悪夢』の一つだ。僕はやり直す。
アンドレイオスは今度は遠距離攻撃として石を投げた。オプタルモスはそれを殴り砕き、逆に石の破片を拳を振った時の風で飛ばしてきた。僕は咄嗟に目を塞ぐ。その刹那、オプタルモスの手刀がアンドレイオスの右肩に入り、僕は膝を地面に付ける。そして、オプタルモスの回し蹴りをアンドレイオスは顔にくらい、僕は気絶した。
次、僕は何もできなかった。また負けるかもしれない、という恐怖感が心を蝕み、脳がまともに動かなかった。すると、オプタルモスはアンドレイオスの腹部を蹴り上げ、僕は吹っ飛ぶ。ハスマとポリモルフォスが怒りで我を失い、突っ走ったが、二体の息はあっておらず、オプタルモスにボコボコにされた。僕が動かなきゃ、皆死んじゃう…
もしかしたら今度こそは…そんな事を思い、アンドレイオスは拳の連打を繰り出した。すると、予想通りオプタルモスも拳の連打を繰り出してきた。前とは違う場所を狙うが、勿論オプタルモスは拳を拳で受け止めるため意味が無かった。再び腹部に穴が空きそうになり、アンドレイオスは両腕で腹部を守る。すると、膝蹴りを顔面に喰らい、怯む。その刹那、腹部に穴が空いた。
アンドレイオスはミスズさんとミウちゃんを片腕ずつで抱え、後退する。僕は走り出す。今度は逃げる。前はミスズさんとミウちゃんのおかげで逃げれた。なら、今回は僕が逃す番だ。だが、オプタルモスの拳が背中に当たり、貫通し、僕の胸部に穴が開く。
今度はアンドレイオスは近づかず、二人と一匹で動くタイミングを再び狙う。だが、ミスズさんとミウちゃんの呼吸は全く揃っておらず、息を合わせての連携攻撃ができなかった。その隙に、オプタルモスは僕の顔に拳を近づけ、頬を殴る。そして、目を抉り取る。これも『悪夢』の一つだ。僕はやり直す。
目を抉り取る。そうか、そうだった。あの人の動きを止める方法、最初から知っているじゃないか、僕は。あの人は僕に初めて会った時、僕の目を見ながら「君、良い目をしているね」と言った。それに、前回の戦いでも僕の目を狙っていた。僕の目をくり抜こうとしていた。
僕は自分の目を抉り取った。僕は歯を食いしばり、目を摘出した。その光景に、その場にいた全員の動きが止まる。その場がシーンと静まり返る。蝉の声も、コオロギの声、車の音、電車の音、ほとんどの音がその場から無くなった。聞こえてくるのは…僕が目をくり抜いた時の音と、僕の悲鳴を我慢する声だけだった。
「欲しかったんでしょ?なら…片目ぐらい、あげるよ!」
僕は目を投げた。
「目を投げるなぁぁぁ!!!この、礼儀知らずの、価値も知らない、猫に小判のクソガキがぁぁぁ!!!」
カゲトさんが怒鳴った。そして、僕の目の方に走った。まるで恵の雨が砂漠で降った時の遭難者のような走りだった。その時だった。
「大の大人がギャーギャー喚くな。耳障りだ。」
ケビルムの剣が、カゲトさんの目を貫く。トレケインの突進が、カゲトさんの太ももに当たる。カゲトさんは吹き飛んだ。
僕達の前には…リーダーさんと、ユウヤさんが居た。
「タイガ…!」
リーダーさんが僕の方を見た。空洞になった僕の片目を見る。その目には…怒り、悲しみ、悔しみ、呆れ、混乱、驚愕、色々な感情が混ざり合った。その声からも、色々な感情が混ざり合っているのがうかがえる。
「ごめんなさい…これしか方法が無かったんです…」
「っ…!」
「リーちゃん、お説教は後にしよう。今は、目の前のこいつをぶちのめすよ!」
「何で…二人がここに…?」
「ミーちゃん、僕達は大人だよ?子供が夜中に家を飛び出したのなら、迎えに行って何としてでも無事に家に帰すのが仕事だよ?」
「そういう事だ。」
カゲトさんが立ち上がる。
「これは…夢だ。何かの悪い夢だ…!『Q』!奴らを殺せ!」
オプタルモスが僕らに迫る。僕は動こうとする。が、膝が曲がり、僕の片膝は地面につく。『夢の断定』には、体力を大きく消費するようだ。
だが、僕は心配なんてこれっぽっちもしていなかった。だって…ハスマさんが再び裂けさせた石を投げた。オプタルモスはそれを殴り飛ばす。その石にオプタルモスの意識が向いたその刹那、トレケインとポリモルフォスの突進が順々にオプタルモスの体に衝突する。オプタルモスが吹っ飛ぶ。カゲトさんも吹っ飛ぶ。
「何故だ…?何故…!私は、ジュネッスなんだ…!アンファンスのクソ雑魚どもなんかよりも…!高度な存在になったんだ…!より強い存在になったんだ…!なのに…何故…!」
カゲトさんはゆっくりと立ち上がった。体を手で押さえながら、痛々しく起き上がる。
「私はただ、純粋に平穏に生きたいだけなんだ…なのに、何故、貴様らのような群れる事でしか体を成せない、醜い凡人がぁ!」
「…なら、良いですよ。」
僕は前に出た。ゆっくりとカゲトさんに近づく。カゲトさんは「なんだこいつ」という顔をしながら、僕を見ていた。
「どうしました?貴方の意見なら、僕らは一人一人では体を成す事すらも不可能な弱い存在なんですよね?なら、一人だけなら、勝てるんですよね?早く来てください?」
僕は挑発した。手で「来いよ」とジェスチャーをした。
「舐めるなよ…私は人に見下されるのが嫌なんだ…大した力も無い癖に、イキがるんじゃない…!」
オプタルモスは拳を振る。その時、アンドレイオスはコスモスになり、その拳を受け止める。そして、慈愛の衝撃波を与える。が、オプタルモスは何の効果も現れなかった。生粋の悪、それがこの人なのだ。
「僕は今から、貴方を殴ります。でも、殺さないように『アンドレイオス』ではなく『コスモス』で殴ります。」
「調子に乗るなと言っているんだ…!」
オプタルモスが蹴ろうとしてきた。だが、コスモスはそれよりも早くオプタルモスの頬と腹部を同時に殴る。オプタルモスの蹴りが強制終了された。
「今のは、僕の分です。そして…『裁きの時間』を始めます。殺しはしませんよ。でも、刑はします…良い趣味ですね…でも、その趣味も、もう味わえないようにしてあげますよ…!」
その時だった。オプタルモスの右腕をケビルムが、左腕をハスマが押さえつける。僕はオプタルモスの横を通り過ぎ、カゲトさんに近づく。
「く、来るな…!来るなぁ!」
カゲトさんは逃げようとする。が、その背後には、既に回り込んでいたトレケインとポリモルフォスが居た。
「こ、これは…夢だ…そうだ、きっと『明晰夢』というものだ…!こんなの、現実な訳が無いんだ…!私が追い詰められているなんて…そんなの、ありえないんだ…!たかが…アンファンス如きが集まった程度で…!」
「カゲト、自分を知れ。殺人鬼相手に、死刑はこいつはしないって言っているんだ。神の恵みでも貰えたと思いな。」
「そうだよ、クソ野郎。何人殺してきたんだ?二桁で収まる数か?それとも三桁行ってるのか?お前が忘れているのなら誰にも分からない…もしかしたら四桁かもしれない。」
「それでも、タイガ君は貴方を殺そうとはしない。良かったですね…私達だったら、殺したって許せてないですもん。」
カゲトさんは僕達の方を振り向く。混乱して何をしたらいいか分かっていないようだった。そして、カゲトさんは尻餅をつく。
コスモスが僕の背後に来る。コスモスの動きが、僕の動きと合わさる。僕が拳を握れば、コスモスも拳を握る。僕が腕を挙げれば、コスモスも腕を挙げる。
よく思えば、この人が居なかったら、僕はスコルピオスに殺されていた。ミスズさんに会う事も無ければ、リーダーさんやユウヤさん、ミウちゃん、ルイさんや龍彦さん、真心先生に幽霊さん、皆と会えなかったのだろう。
殺人鬼が招いた自業自得の結末に至るまで、僕は僕の人生を大きく変えた。
友達が居なかった僕には、家族のように大切な仲間ができた。自分なんてどうでも良かった僕が、自分の事も考えられるようになった。夢なんて叶う訳無いと諦めていたのに、この人達と共に未来を歩む『夢』を信じ続けている僕がいる。
虹絶魅鈴…凛海楓…朝焼夕焼…カゲトさんのせいで、人生を狂わされた人達。僕が愛し、僕を愛し、僕が大切にし、僕を大切にし、僕に居場所をくれた、僕の仲間…
幽霊さん、テンシさん、テンシさんの彼氏さん、皆さんの両親…皆の事を思い出す。思えば思うほど、この人のした事が許せなくなった。
僕にも分かる。僕にだって親はいない。死んだのだから。あれは事故死だ。殺人と言えば殺人だが、事故と言ってしまったら事故ともなり得る、それが僕の親の死因…だが、皆さんは違う。殺されたのだ、明確に、コイツに…
お父さん、お母さん、僕、大きくなった。昔、僕は二人に守られた。だから今を生きている。だから、今度は、僕が、これからコイツのせいで殺される可能性がある人を守る。




