表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の武術家は、強化系魔法で異世界を無双する。  作者: 天導


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/10

第一話【修練】

天井を見つめていた。

見覚えのない薄汚れた木目。

その向こうで、窓から差し込む光が埃をぼんやりと照らしている。


(ここは……どこだ)


神崎武は、ゆっくりと身体を起こした。


違和感。


身体が軽すぎる。

伸ばした手が小さすぎた。

掌を見つめる。指の節が細く、まるで子供のものだ。


「……俺は、死んだはずだ」


呟いた声も、自分のものではなかった。

少し高い、少年の声。

頭の奥が痺れるように熱くなり、見知らぬ記憶が流れ込んでくる。


リオン・グラディウス。

落ちぶれた剣術名家、グラディウス家の末弟。


十五歳。


魔力をほとんど持たぬ、家門の恥さらし。


「……そういう、ことか」


武は、いや、今は「リオン」と呼ばれているらしいその身体の主は、ゆっくりと立ち上がった。

部屋の隅に、小さな鏡。

そこに映る顔は、黒髪の少年だった。


地球での自分とは似ても似つかない、整った貴族の面立ち。

しかし、瞳の奥にあるものは、変わらない。

求道者の眼差し。


(俺は、神崎武)


(武の極みを求めて生涯を費やし、そして死んだ)


(だが今、別の身体に、俺がいる)


リオンは深く息を吐いた。

驚きはなかった。

死を恐れぬ求道者にとって、生まれ変わりという現象は、ただの「次の段階」に過ぎない。


ならば、やるべきことは変わらない。


「……武の続きを、ここで」


        * * *


部屋の机の上に、奇妙な道具があった。

水晶のような球体が台座に乗っている。

リオンの中に流れ込んだ記憶が、その正体を教えてくれた。


鑑定の魔道具。


この世界では、人の魔力や才能を可視化するために使われる。

リオンは台座に手を伸ばした。

球体が淡く光る。


そして、宙に文字が浮かび上がった。


──リオン・グラディウス Lv.1

──魔力属性:強化系

──スキル:《身体強化》Lv.1


「……強化系か」


しばらくその文字を見つめていた。

末弟の記憶が、新たな情報を運んでくる。

この世界で「強化系」は、戦士の補助としてしか使われない、最も軽視された系統だった。


属性魔法こそが主流であり、強化系は脇役。

リオンが「魔力ゼロ同然」と嘲られてきた所以だ。


しかし。


口元に、微かな笑みが浮かんだ。


「……強化系のみ、か」


地球で五十年。


古武道の継承者として、あらゆる武術を研究し続けた男。

その男にとって、「強化」とは何を意味するか。

それは、肉体の限界を超えるための唯一の道だった。


「俺の世界では、それこそが、武の根幹だった」


リオンの体内に何かが流れ始める。

地球で「気」と呼んでいた感覚と、まったく同じ。

しかし、密度がまるで違う。


地球の数十倍──いや、数百倍はあろうかという、濃密な力。


(これが、この世界の魔力か)


リオンは、ゆっくりと右の拳を握った。

体内の魔力が自然と拳に集まる。

何の詠唱もなく。


何の魔法陣もなく。

ただ、武術の動きに乗せて、力が形を成していく。


「……面白い」


        * * *


扉が乱暴に開いた。


「おい、出てこい役立たず」


声と共に入ってきたのは、二十歳ほどの青年だった。

整った顔立ち、絹の上着、腰には魔剣。

リオンの記憶が告げる。


長兄、ヴィクトル・グラディウス。

家門最強の魔法剣士であり、リオンを最も嫌悪する人物。


「父上がお呼びだ。家門の試験について話があるそうだ」


ヴィクトルは座っているリオンを見下した。


「貴様には関係ない話かもしれないがな。魔力ゼロ同然のお前が、何の役に立つ」


リオンはヴィクトルの顔をじっと見た。

リオンの記憶では、何百回も繰り返されてきた光景。


侮辱。


暴力。


絶望。


しかし、今ここにいるのは、今までのリオンではない。


「……兄上」


「あ?」


「もうその手は、効きません」


ヴィクトルの眉がぴくりと動いた。


「貴様、生意気な口を……!」


腰の魔剣を抜く。

刃に青白い炎が宿る。

風属性の魔剣だ。


「躾けが必要なようだな!」


刃が振り下ろされる。

リオンは、椅子から音もなく立ち上がっていた。

体内の魔力を、右の腕に集中させる。


「《身体強化》」


呟いた瞬間。


リオンの右手が、青白い刃を──素手で、掴んでいた。


「……は?」


ヴィクトルが間抜けな声を漏らした。

刃を握ったまま、リオンは静かに首を傾けた。


「兄上、その剣は良いものですが」


「動きが、遅すぎる」


リオンの左の掌が、ヴィクトルの胸にぽんと当たった。

ただ、それだけだった。

しかし、次の瞬間。


ヴィクトルの身体は宙を舞っていた。

部屋の壁に叩きつけられ、ずるずると床に崩れ落ちる。


「ぐ……あ……」


ヴィクトルは目を見開いたまま、リオンを見上げた。


「な……んだ、それは……」


理解できないという表情。

魔力ゼロ同然のはずの末弟が、家門最強の魔法剣士をたった一動作で吹き飛ばした。

リオンは淡々と告げた。


「ただの武術ですよ。」


        * * *


ヴィクトルが床に崩れ落ちた、その瞬間。

リオンの目の前に半透明の文字が浮かんだ。

宙に直接、書かれているような感覚。


──リオン・グラディウス Lv.1

──スキル:《身体強化》Lv.2

──スキルレベル上昇


(……これは)


末弟の記憶を辿る。

家門の鑑定の魔道具がなくとも、ステータスが見える。

末弟の知る常識には、存在しない現象だった。


しかし、不思議と扱い方は分かっていた。

念じれば、見える。

ただ、それだけのこと。


(……謎は、また増えたな)


リオンはステータスに長く目を留めなかった。

倒れたヴィクトルが、震える声で問う。


「お前……いつから……動けるように……」


リオンは答えなかった。

代わりに、もう一度静かに告げた。


「兄上、父上がお呼びとのことでしたね」


「行きましょう」


その声には、もはや末弟の怯えはなかった。

ただ、淡々と、当然のことを告げる響き。

ヴィクトルは震えながら立ち上がった。


何かを言いかけて、しかし言葉が出ない。

リオンはもう兄を見ていなかった。

部屋の窓から見えるグラディウス領の風景を、静かに眺めていた。


落ちぶれた領地。

朽ちかけた屋敷。

しかし、その向こうにまだ見ぬ世界が広がっている。


(武の極み──人間の限界を超えた先)


(地球では届かなかった、その場所へ)


(この身体で、必ず辿り着く)


        * * *


執務室の扉が、開かれた。

長兄に連れられて入ってきたリオンを、父オーガスト・グラディウスは書類から顔も上げずに迎えた。


「来たか、リオン」


威厳のある声。


しかし、その口調には、明らかな侮蔑が滲んでいる。


「家門の試験が、五日後に行われる」


「全員、参加せよ。学園推薦枠を、誰が取るかを決める」


オーガストの視線がようやくリオンに向く。


「お前も、形式的に参加せよ。負けてもいい。ただ、家門の体面のためにな」


今までの記憶では、この瞬間、深く頭を下げて去るのが常だった。


しかし、リオンは。


ただ、まっすぐに父を見返した。

そして、静かに言った。


「父上」


「学園推薦枠は、私がいただきます」


執務室の空気が凍りついた。

オーガストの目が見開かれる。

長兄ヴィクトルが息を呑む。


リオンは、それ以上は何も言わず、父の言葉を待った。

長い、長い沈黙。

やがてオーガストは口を開いた。


「……五日後に、見せてもらおう」


リオンは頭を下げた。


「我が家門の試験は、お遊びではないぞ」


「承知しました」


リオンはそれだけ告げて、執務室を出る。

扉の向こうで、長兄が押し殺した声で何かを呟いた。


「……あいつ、何かが、変わったのか」


リオンには、その声は届かなかった。

ただ、廊下を歩きながら、静かに拳を握っていた。


(補助スキルの強化系か──結構)


(武の力で、世界の頂きまで、登ってみせる)


家門の試験まで、あと五日。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ