8 企み
ソフィアは美しい魔石が光を放つ婚約指輪を見つめていた。
右手の薬指にはめられたそれは、アルバートとおそろいで宝石の輝きとは別にキラキラと輝いて見える。
パーティーが終わって、軽くて着やすいドレスに着替えさせてもらうとどっと疲れがやってきて、ソファーに座ってもう一歩も動けそうもないぐらい。
だから、退屈でふと目を引いたそれを眺めていた。
たくさんの人に祝われて楽しい時間だったし、実感もわいてきた。
ただ、一つ、引っかかっているのはセドリックのこと。
「まぁ、十中八九、なにかを企んでいるのでしょう」
それ以外にはあり得ない。
普通の夫を装って、問い掛けて来ていたが明らかに何らかの意図がある好意だ。
でもまだなにもしていない、何をしようとしているかもわからない。
けれどだからといって、それで様子を見てチャンスをあげるほどソフィアは彼のことをもう大切じゃない。
ソフィアの大切な婚約者はアルバートだけ。
そしてソフィアとアルバートの未来を少しでも脅かす可能性があるのなら、リスクを考えて対処するのがソフィアの役目だ。
そしてソフィアとアルバートのことはフィールディング公爵家と直結している。
「彼の企みで、パトリシアが離婚されでもしたら困りますもの」
つぶやくように言って、ソフィアは考えた。
もちろんセドリックの目的はわかる、離婚だろう。
ただし離婚するには、それなりの証拠が必要になる。例えば領地のお金を勝手に使った、とか、不倫しているとか。
そうでもなければお互いの合意がない限り離婚は成立しない。
それとパトリシアが月に一度実家で何をしているかがどうつながるのか。
(まさかパトリシアが実家で浮気をしている?)
だからセドリックはその証拠を固めるためにソフィアに情報提供を願い出たのか。
(いや、パトリシアは常識外れのことはするけれど、そんなミスをするかしら、あの執着っぷりで離婚されかねないようなことをするわけがない……)
だからセドリックには逃げ場がなかったはず。
それが今更、パトリシアが浮気や、横領などの悪事に手を染めるなんてそんなのはセドリックに取って都合が良すぎる。
ありえないに近いだろう。
でもそれだとセドリックは一生離婚できない。
(なら、離婚のためについに一線越えようとしてる……なんて筋書きはどう?)
しっくりくる。
あれこれと考え出すと可能性はたくさん出てくる。
夢中になって考えていると時間はあっという間に過ぎて、ノックの音にハッとした。
やってきたのはアルバートだ。
自室へと招くと、彼は「少し今日のことで話し合っておきたいなと思ってね」と前置きをした。
それはきっとセドリックのことだ。
彼の企みがなにか、対処についてどうするか、ちょうどソフィアも今考えていたところだ。
「……今日、私がアストン伯爵子息殿に言ったこと、彼を牽制するための冗談ではないから」
「……言っていたこと?」
しかしアルバートが切り出したのは別の話題で、ソフィアはきょとんとして彼を見て言葉をオウム返しした。
すると、こくりと頷く。
「割と、彼の態度は許せないかな」
「……」
「ただでさえ、私のかわいい妹のことを困らせ続けた男が、未だに絡んでくることに正直、堪えられない」
「……」
「父上とも話をしたんだけど、アストン伯爵家に圧力をかけて、ソフィアに絡むどころじゃなくしようか……とか真面目に考えるぐらいには、器が小さくてね」
アルバートは困ったように笑って、ソフィアはその笑みを見て腑に落ちた。
どうするか以前に、ソフィアが嫌な目に遭いそうなことを兄も父も怒ってくれている。
それは、とてもソフィアのことを大事に思ってくれているからだ。
そう思うと嬉しい気持ちがじわっと広がる。
「だから、君がまたもし嫌な目にあうなら、遠ざけたい。でももし君が自分で決着を望むなら私も手伝うよ」
「……」
「ただ、婚約者としてこのぐらいは言わせてもらおうと思って、うっとうしい愛情かもしれないけどごめんね」
「いいえ……お兄様」
「うん」
「わたくし、やりたいことがありますわ。今までみたいに婚約者だからといって嫌なことを我慢したりしないわ、ただ家と自分のために、決着をつけますわ」
「……わかった」
兄は少し残念そうに言ったけれど、守られてばかりでは公爵など務まらない。
状況に応じて被害が広がる前に解決するすべを持つべきだ。そう決意して、アルバートにソフィアの見解を話したのだった。




