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サンドリヨン・コンプレクス  作者: 三浦 蝶形骨
6/6

ほのか

ほのかが髪を切った。

ストーリーに上がっていた。

美容院の鏡の前で、切った後の自分を見ている写真。

キャプションはなかった。

肩につかないくらいの長さだった。

似合っていた。

当たり前のように、似合っていた。


その週末、美容院の予約を入れた。

たまたま、切りたいと思っていたから。


担当の美容師に、どのくらい切りますかと聞かれた。

スマホを出した。

ほのかのストーリーのスクショを、

これくらい、と見せた。


「かわいいですね、この長さ」

美容師がそう言った。

私は笑って、そうですね、と言った。


切り終わった後、鏡を見た。

似ていた。

ほのかに、少し、似ていた。


似ていたけど。

違った。

同じ長さなのに。同じ形なのに。


何が違うのか考えた。


考えながら、答えを出すのをやめた。


少し、長く鏡を見た。

美容師が微笑んでいた。

「お似合いですよ」

「ありがとうございます」

笑って、返した。


---


ほのかの投稿を、また遡った。

何度も見た写真を、また見た。


一枚、気になる写真があった。

部屋らしき場所、窓から光が入っていて、机が映り込んでいた。

机の上に、小さなボトルがあった。


拡大した。

ラベルが、少し、見えた。

もっと拡大した。ぼやけた。

角度を変えて、また見た。


別の写真でも探した。

光の当たり方が違う写真で、ラベルが少し読めた。

フレグランス。たぶんフランス語。


調べた。

ほのかのフォローしているアカウントを遡った。

フレグランスブランドのアカウントに、いいねがついていた。

サイトを開いた。全種類、調べた。

ほのかが好きそうなものを、考えた。


一番売れているものを、買った。


届いた日の夜、つけた。

いい匂いだった。

ほのかの匂いかどうか、わからなかった。

わからないのに、ほのかの匂いだと思った。


---


ほのかがストーリーに定食屋を上げた。

場所タグがついていた。

「はじめて来た、おいしい」とだけ書いてあった。


次の土曜日、その定食屋に行った。

たまたま近くにいたから。


メニューを開いた。

ほのかが何を頼んだのか、投稿には料理の写真がないからわからなかった。


サバ定食にした。

なんとなく、ほのかがサバ定食を頼みそうな気がしたから。

根拠は、なかった。


サバ定食が来た。

食べた。

おいしかった。

ほのかも、おいしいと書いていたし。

同じ味を、感じているのかもしれなかった。

そう思ってから、少し、可笑しくなった。

箸をおいた。

また一口、食べた。

おいしかった。


---


ほのかがよく行くカフェに、また行った。

窓際の席が空いていた。

ほのかがよく座っている席だと、タグの投稿でわかっていた。

座った。


窓の外を見た。

ほのかがいつも見ている景色を、見た。

同じ景色だった。

当たり前だけど、同じ景色だった。


スマホを出した。

同じ角度で、窓の外を撮った。

違った。

何度撮っても、違った。


同じ席で、同じ窓で、同じ方向を向いて撮っているのに。

ほのかの写真にならなかった。


コーヒーが冷めた。

スマホを置いて、窓の外を見た。

カメラなしで、ただ見た。


ほのかはいつも、こうして見ているんだろう。

撮ろうとして見るんじゃなくて、ただ見て、撮りたいと思ったから撮る。

私には、それができない。

ただ見る、ということが、できない。

何かを見るとき、いつも構図を考えている。光を読んでいる。

ほのかみたいに、ただそこにいることが、できない。


カメラロールには二十七枚のコーヒーの写真があった。


---


帰り道、ショーウィンドウの前を通った。

ほのかと同じ長さの髪。

ほのかと同じ匂い。


違う顔が、映っていた。

足が止まった。

髪を切っても。

同じ匂いをつけても。

同じ席に座っても。

別に、ほのか鏡の前にはいなかった。


また、サバ定食を食べに行こうと思った。

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