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episode13.


わからない。

率直に思ったことはそれだけだ。


「……お前、本気で言ってるのか…」


神様から羽根を与えられた人間、それが天上人。

彼らにとって羽根というのはシンボルであり、彼らの特殊な身体を構築する要のようなもの。


羽根を無すこと。それは彼らにとって死を意味するのだ。


「うん……ごめんね。自分勝手だってわかってる。

 でも…どうしても……会いたい」


自らの生死を懸けてまで、会いたい人がいる。

そう言って少し戸惑いながら笑う幼馴染みの環に抱いた感情は"わからない"だった。


「環、その人は誰なの?僕らが知ってる人?」


潮も事態を把握しようと、真剣な表情で環に問う。

環は首を振ると「2人の知らない人…」と答えた。


「でも、、私にとって大事な人なの。」


答えをあやふやにする環。その様子は一層、結の中の不明点を強くしていく。それは途端に怒りと困惑を生み、冷静さを失わせていく。


羽根を失うことよりも、死を迎えるよりも、

会いたい人がいるーーーー?


わからない。失うものばかりなのに、それでも会いたいと思うその気持ちはなんなんだよ。


歯がゆく、理解し難い感情が結の中で渦巻いている。

ずっと一緒に生きてきた環。けれど、目の前にいる彼女は全く別人のよう。今まで触れることのなかった彼女の価値観、感情ーー。その全てが、得体の知れない人間を形作っているように見えた。


そんな結を見透かしたかのように、環は言った。


「結にもわかるよ。好きな人、愛する人ができた時に。きっとーー。」


「……愛?」


なんだそれは。

この世で1番、結にとってわからない()()を、環のまっすぐな瞳が射抜いている。愛だのなんだのという誰かを思う気持ちが、自らの危険よりも大事だというのか。


結の中の困惑と戸惑いはさらに大きな渦を巻いて、彼の心に痛みを生んでいく。


追い討ちをかけるように、

「愛か……。少なからず僕にはわかるよ。環の気持ち。」と、

潮がつぶやく。


「…は?お前…!」


「会いたい人がいたんだ。その人に会うため、環はここにきた。それで間違いない?」

「うん。そう。」

「で、会えるまで帰らない。であってるよね?」

「うん。ごめん。わがままで。」


何を、どうして、そんなに素直に受け入れられるのか。掟を破った人間の末路。それを環も潮も痛いほどわかっているはずなのに。


「どちらにせよ、今は天上に帰れないんだ。だから帰る方法が見つかるまでは地上で過ごすしかない」


「…え?帰れないってどういうこと…!?」


「雅と連絡が取れなくなったんだよ。今、地上の巫女導師に協力してもらって、ゲートを開く方法を探してる最中だ」


「……そうなんだ…。ごめん。2人まで巻き込んじゃった。」


「今更すぎるよ。起きてしまったものは仕方ない。ただ今この瞬間からは勝手な行動は慎んでほしいね」


自分の理解を超えた(あい)という得体の知れない何かを知る2人が話を進めていく。痛み感情で混乱している心とは裏腹に、話の内容を冷静に脳が処理していく。


いつも、いつもそうだった。環は俺の知らない所で悩んで、泣いて、笑って、その中で産まれた何かをずっと大事にして生きている。ずっと一緒にいるのに、どこか遠くにいるような。どこかへ飛んでいってしまいそうな。


そんな感じがする。


「どうする?結」


知らないならば、わからないならば、起こすべき行動はひとつだろう。

枢木 結という人間は、怒りに身を任せ頭ごなしに相手を否定したり、自分の無知を嘆くままで終わるような人間性を持ち合わせていなかった。

全ての疑念も否定も他人ではなく、自分の尺度で測るべきだ。


だから、


「天上には帰る。これは絶対だ。」


愛という知らないもの。

環という()()()()()()()()()だった幼馴染。


この二つを完璧に理解するのに、今必要なのはーー


「だが、ここは俺たちの知らない事が多すぎる。

 だから帰るまで。帰るまでなら好きにしたらいい」


この地上という場所に、環が焦がれるほどの何かがあるのなら俺は、それを知りたい。


「…あり……がとう。」


環が涙を流して少しだけ笑う。いつも彼女が泣きながら笑う時は、迷いなく、屈託なく太陽のような明るさを残す。けれど今は弱々しく、いつも皆んなの前を一緒懸命に走っているような彼女ではない。


自分が知らない何かが、彼女をこんな風にしている事実に、やはり結の心は痛むばかりだった。


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