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第76話 竜、家でまったり過ごす

  ――ロイヤード国 近隣の森


 国王ギリアムが統治するロイヤード国。

 東側に位置する近隣の森は深く、暗い。

 魔物が闊歩する場所ではあるものの、奥深くへ立ち入ると迷ってしまうことから浅い場所での狩りを推奨されているのだ。

 そんな場所に石造りの一軒家が建っており、一人の男が住んでいた。


「概ね、実験は成功といっていいか。後はいつ、どうやって蔓延させるかだが――」


 その男は黒いローブを羽織り、うす暗い室内で通常の人間には分からない内容の情報を書き込んでいく。理論は合っており実験も行った。

 後は実践という状況をひとり呟く。


「この国の王に接触し、もう一度……ん?」


 プランを練っていると玄関でノックの音が聞こえて来た。この家に誰が尋ねてくるのか? 一瞬、顔を顰めたが男は玄関へと向かう。


「誰だ」


 何度も鳴るノックに苛立ちを覚えながら声をかけた。するとノック音が止み、外から声が聞こえて来た。


「俺だ、ウェリスだ。開けてくれコレル」

「お前か」


 男の声でウェリスだと名乗る。

 コレルと呼ばれたローブの男は嘆息しながら玄関の鍵を外す。カチャリと乾いた金属の音がすると同時に、玄関が開け放たれた。


「よう、久しぶりだな」

「一年と八か月というところか。どうしたのだ?」


 コレルはウェリスをリビングに招き入れてからテーブルに着く。

 対面で顔を見合わせてから、優男風な顔とは似つかわしくない、神経質な年月を口にして用件を尋ねる。

 するとウェリスは背負っていたリュックを床に降ろし、中から瓶を取り出した。


「ま、ひとまず一杯といこうや」

「ふん、お前にしては気が利くじゃないか」


 コレルはニヤリと笑みを浮かべてコップを用意する。

 サッと酒を注ぎ、軽くグラスを合わせてから口をつけた。三分の一ほど飲んだところでウェリスがカバンからつまみのチーズを出しながら話を続ける。


「ちと頼みたいことがあってな」

「……そのチーズ、食えるんだろうな? 頼みたいこととはなんだ」


 表面がカピカピになっているチーズに眉根をひそめながら返事をするコレル。

 ナイフで切り分けた後、適当に渡してから頷いた。


「実は二十日ほど前、ここから東へ行った国でドラゴンを見つけてな」

「倒したのか?」

「いや、逃げられた。少し交戦したんだが、流石のドラゴン、俺の攻撃を掻い潜り逃げちまった」

「お前から逃げるとはそいつ、やるな」


 ウェリスは冒険者でもAランクの上の方だということを知っているコレルは、驚きと賞賛を口にする。

 そこでウェリスはニヤリと笑みを浮かべてグラスを傾けた。


「そこでお前の開発している魔法とやらの力を借りたい。あの、正気を失わせるってやつだ」

「ふむ<コンフュージョナー>か」


 視線を外さずに酒を飲んでから魔法名を呟く。ウェリスは頷いてから酒をグラスに追加した。


「そんなだっけか? そいつがありゃ、ドラゴンを大人しくさせることができるんじゃねえかと思ってよ」

「……確かにコンフュージョナーは強めにかけることで正気を失わせることができる。まだ試したことはないが」

「なんだよまだ完成していなかったのか?」


 ウェリスは口を尖らせてまだなのかと問うと、コレルはふうと息を吐いてから言う。


「人間には実験しているよ。そこは想定通りでほぼ完成と言ってもいい」

「魔物には? そっちが本命だろ」

「それは毎日やっている。でなければこんな森に住んだりしない」

「なるほどね。魔法石にはできるか?」

「強力なものであれば少し魔力を込めなければならないが……そのドラゴンの行方が分かっているなら私が手伝ってもいいが」


 ドラゴンともなれば最高の実験材料だと思い進言する。だが、ウェリスの返答は少々残念なものであった。


「いやあ、今そいつを追っているんだが目撃情報が途切れちまってな。二つ前の国でピンク色のドラゴンを見たというのが最後だ」

「なら絶望的だな。なら、私の計画に付き合ってくれないか?」

「ん? あれか、名声を得るためのってやつ?」


 ドラゴンに興味はあるが、行方がわからないならどうでもいいと話題を変える。

 ウェリスがその内容を口にすると、小さく頷いてから酒を飲み干す。


「ああ。私を認めなかった国に復讐だ」

「大丈夫なんだろうな? ヤバくなったら俺は逃げるぜ」

「問題ない。まずはこの国の信頼から得るとしようか。……見ていろヴァール――」


◆ ◇ ◆


「ふむ、悪くない場所ができたわい」

「あー♪」

「広くて高いですねえ」

「わんわん!」

「うぉふ♪」


 リヒトとペット達が構えとねだるのでディランは予定していた期間を二日ほど遅れて遊戯室を完成させた。

 幸い岸壁に建てた家の前は、山の中でもそれなりに横に広い土地が広がっているので、少し拡張したくらいでは庭は狭さを感じない。

 

「外からは入れんが、窓は作っておいた。どれ入ってみるか」

「こけー♪」


 一家が中へ入ると、一部だけ絨毯が敷き詰められた箇所と木板だけになっている床が目に入った。

 そこにはボールやガラガラ、つかまり立ちができるよう階段上のオブジェといった王都での購入品が置かれていた。


「ぴよー!」

「ぴよぴー!」

「うぉふ♪」


 早速、レイタとソオン、ヤクトが室内へ駆け出していく。アッシュウルフ達にはやや狭いかもしれないが十メートル×十メートルという広さなのでボール遊びくらいは余裕である。


「あー♪」

「硬いところは気を付けるのよ」


 もちろんヤクト達につられてリヒトもハイハイでダッシュする。絨毯があるところは手や膝に優しいが、板の部分は硬くて痛い。

 全部を絨毯にすればいいと考えるが、夫婦は痛いこともあるという経験もあった方がいいと思ってこのスタイルにした。

 隅にはペット用のおトイレも設置済みである。


「わん」

「わほぉん……」

「ダルは動かないの? あら、これが欲しいの?」

「わほぉん」


 ダルは尻尾を立てたまま、動こうとせず、ルミナスがダルの背中を前足で押した後この場を立ち去った。

 するとダルはトワイトがこの後で置こうとしたお昼寝用のクッションを引っ張っていた。昨日は少しボール遊びをしていたが、今日は疲れたのか寝転がる予定のようだ。


「ふむ、目が覚めておらんようじゃな? どれ」

「わほぉん!?」


 そこでディランがダルをわしっと抱えると、そのまま高い高いをした。わっと上空へ飛んで行ったダルは珍しく大きな声を上げる。


「どうじゃ目が覚めたか。む」

「わほぉん……」

「拗ねちゃいましたね」


 キャッチしたダルが投げたディランの腕を甘噛みして拗ねていた。いきなりはまずかったですよとトワイトに窘められた。


「すまんすまん」

「はい、あなたのクッションよ」

「わほぉん」


 ダルはトワイトからクッションを受け取ると絨毯の区域ではないところに置いてその上に寝そべった。

 リヒトやひよこ達が全体を見れるような位置に鎮座しているなとディランは分析していた。


「さて、ワシらはなにを……おや?」

「わん♪」

「うぉふ♪」

「こけー!」

「あら、さっきの飛ばすのをやって欲しいのかしら?」


 トワイトが微笑みながら尋ねると、元気よく鳴いた。

 ディランはそれを聞いて、不適な笑みを浮かべた。その瞬間、ヤクトが宙を舞った。


「うぉふぉぉん♪」

「ひよこはともかく、アッシュウルフ達でも楽しいのか。面白いのう」


 キャッチしたヤクトが目を輝かせているのを見てディランは呆れるやら苦笑するやらであった。

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