第77話 竜、招待される
「お父さん! またダラダラ過ごして!」
「おっと、カーラか。今日の仕事は終わったからいいんだよ」
昼下がりの時間。
ロイヤード国王の私室にて、国王のギリアムが娘のカーラに文句を言われていた。
ギリアムはグラスを片手に笑いながら返すと、カーラは口を尖らせてからグラスをひょいっと持ち上げる。
「お酒ばっかり飲んで! お母さんが見たら呆れるわよ」
「はは、そうかもな。生きてりゃあいつならそうだろうなあ」
「お母さんが居ない今は私がお父さんを監視していないといけないんだから」
「頼んでないって」
「もう!」
ギリアムはカーラからグラスを奪ってからまた口をつける。カーラは腰に手を当ててから憤慨すると、ギリアムは肩を竦めて笑う。
「俺のことはいいから早く嫁にいって孫を見せてくれって。モルゲンロートのとこのヴァールとかいいだろ」
「いーえ! ギルファが大きくなるまではいきません! あなたもお父さんに言ってやりなさい」
「うう……わぁ!?」
「なんだ居たのか」
カーラが入り口を見ると、ギリアムによく似た十歳になるかどうかといった男の子が扉の隙間から覗き込んでいた。カーラがその男の子、ギルファを部屋に引っ張ると目の前に置いた。
「……」
「どうしたギルファ?」
「う、ううん……最近、怖い顔をしなくなったから良かったって思って」
「あー、ドラゴンを追っていた時か。そんなに怖かったかな……」
「そういえば私も近寄りがたいって感じだったわね」
「マジか……」
息子と娘が怯えていたらしいということを聞いて軽くショックを受けるギリアム。
「今はお父さん普通だよ? でもお酒は飲みすぎだと思う」
「うぐ」
「ほら見なさい! ギルファが立派になるまで見守らせてもらいますからね」
「行き遅れるぞー……ぐあ!?」
「うるさい!」
「うわあ!? お父さん!?」
カーラがギリアムの後頭部に拳骨を食らわし、ギルファがぎょっとして頭をさすっていた。
「まったく……こういうのになったらダメだからねギルファ」
「は、はぁい……」
「母さんに似て気が強いこと……ん?」
「陛下、お伝えしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
そこで臣下がノックをして声をかけてきた。ギリアムは今日の仕事は終わったはずだと眉をひそめながら許可をした。
「どうした?」
「おや、これは王女様に王子様。ごきげんよう。家族団らん中のところ申し訳ありません。町の状況について追加報告です」
「……なるほど」
「同席しても?」
そこでカーラが先ほどまでと違った雰囲気でこの場に居て問題ないかを確認する。
「問題ないかと」
「まあ、アレの件だろうしいいだろ」
「は。城下町の傷害事件ですが、先月を上回りました」
「やっぱそれか。で?」
「はい。今までは言い争いか喧嘩程度でしたが、今月は剣で斬られた者が出たようです。原因は相変わらず不明ですが、町の空気はあまり良くありませんね」
報告を聞いてギリアムはため息を吐いた。
この数か月、軽いいざこざから暴力沙汰が絶えず報告が上がっており辟易していたからだ。
止めれば収まるのだが、肩がぶつかった程度で殴り合いに発展するなどあまりに短気で短絡的な話が多いのも拍車をかけている。
「……なにか気づいたことは?」
「今のところは不明です。しかし喧嘩をしたものは『急にカッとなってしまった』『気が大きくなった』などと言っておりました」
「よく分からないね……」
「だなあ。……だが――」
臣下の報告はいつもと同じ。原因はわからず、さっと収まる。
しかし、ギリアムは今回、少しだけ進展があったと胸中で呟く。
「(俺もドラゴンを追っている際『気が大きくなっていた』それとドラゴンを倒したい、殺したいというような感情もあった)」
「お父さん?」
「ん、なんでもない。報告サンキュー、それだけか?」
「左様でございます。町人にはリラックスして欲しいものですね」
「ああ。下がっていいぞ」
ギリアムがそういうと臣下は頭を下げて退室をした。扉が閉まったあと、カーラが口を開く。
「なんか嫌な感じね、最近。喧嘩が多いとみんなギスギスしちゃうじゃない」
「まったくだ。ふうむ、なんかいい案がないかねえ」
「わわ……」
座ったままギルファを抱き上げて知恵を絞りながら眉を顰める。
「作為的なものがあったりしないかしら……この国に混乱をもたらしたい、とか」
「あり得なくはねえと思うけど、規模が小さい。クーデターを起こすなら、こんなショーを見せずに淡々とやるべきだろう」
「まあ、それもそうか……」
「とはいえ、なにかあるのは間違いない。気をつけようぜ」
「それはお父さんだよー。この前も一人で町へ出たし、ドラゴンを追うとか言ってお姉ちゃんにだけお土産を持って帰ってた!」
ギリアムが注意すべきだと口にしたところ、ギルファが口を尖らせて先日の件を口にする。
「あ、ああ。それはその、俺もなんというか変な空気になっていてな? 気が大きくなっていたんだ」
「……そういえば様子がおかしかったものね。騎士を連れてわざわざ隣国まで行ったんだもの。このドラゴンの鱗で作った髪飾りは気にいったけど」
銀髪を翻してカーラが髪飾りを見せる。
母親が生きていれば心配せず嫁ぎ先を決めるだろうにと、ギリアムは少し娘に対して申し訳ない気持ちになった。
そこで一つ、不意にアイデアが思い浮かんだ。
「そうだ。祭りでもするか」
「え? 急にどうしたの?」
「お祭り……パーティ?」
「それもある」
ギリアムが思いついたのは祭りであった。殺伐としているなら、楽しい雰囲気があれば緩和されるのではないかというもの。それと二つ、やりたいことがあったからだ。
「ギルファの誕生日が近いからな。ついでに今年は盛大にやろう。それとこの前モルゲンロートのところに行ってすこーし迷惑をかけたからな。その人達を招待したい」
「へえ、お父さんが人を呼ぶって珍しいわね? ……本当にすこーし?」
「おう」
ギリアムが目を逸らして言うとカーラが目を細めて口をへの字にした。これは結構面倒をかけたな、と推察する。
「まあ、誕生パーティはいいと思うわ! 私もお友達を呼ぶね」
「おう。あの一家は賑やかだし、お前も楽しめると思うぜ」
「一家ごと!?」
「いい人達なのかな?」
「そうだな。赤ちゃんもペットも居るし、お前構ってやれよ」
「そうなんだ! ペットってどんなの?」
「えっと、ニワトリとひよことアッシュウルフだったかな」
「……それ、ニワトリとひよこは無事なの……?」
カーラが訝しみながらそう口にする。
それはともかく、ギリアムとしては悪く無い案だと、早速資料をまとめに入るのだった。
◆ ◇ ◆
「祭りじゃと?」
「うー?」
「こけー?」
「はい。ギリアム陛下が是非いらっしゃって欲しいとのことでした。あの冒険者達へもモルゲンロート様を通じて来ていただこうと考えています」
「ふうむ」
――ギリアムがパーティを決めてから数日後、一度来訪したことのあるロイヤードの騎士がディランの家を訪ねていた。
招待状を渡しながら説明を行うとディランは顎に手を当ててから首を傾げる。
「なにか問題がありますでしょうか……?」
「いや、長い期間家を空けることになるとペット達が心配でな。餌は置いていけるが何日の旅になるかわからん」
「そうですねえ。リヒトも寂しがるでしょうし」
「わほぉん」
「あーい」
ディランの話にトワイトが困ったように告げる。だが、そのことは予定通りだと騎士が話を続けた。
「ああ、その点は大丈夫ですよ! 陛下が全部連れてきていいと言っていました」
「なんと。アッシュウルフ達は魔物じゃがいいのか?」
「ええ。あの日、ここで泊まらせてもらった時も大人しかったし、今もお座りをして待っていますから大丈夫かと」
そこは問題ないということでウインクをしてくれた。さらにディランへ金属のプレートを渡す。
「これは特別入国証です。テイマーとして入ってもらう形になるため、問題なしです。もしなにかあった場合は我々が全力で止めます故」
「あなた、みんなで行けるならいいんじゃないかしら?」
「そうじゃな……しかし祭り……人が多いしのう」
ディランは人間が多いことを渋る。なにかあるとすればダル達よりも自分だからだ。トーニャの時は冷静でいられたが、リヒト達に危機が及べば暴れるだろうと考える。
「わん♪」
「うぉふ♪」
「こけー♪」
「「「ぴよー♪」」」
「むう」
「あー♪」
ルミナスとヤクトが立って前足をディランの腰に置いて目を輝かせて見つめ、ジェニファー達は小躍りをしていた。
楽しみにしているようでペット達と一緒にリヒトも嬉しそうに声を出す。
「あなた、折角だし行ってみましょうよ。みんな一緒ならいいんじゃないかしら?」
「仕方ないのう」
「では、お待ちしております!」
トワイトやリヒト、ペット達には勝てないと渋々承諾をするディランであった。




