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21 キノコ業者への再尋問

 洋介を拾った鹿子木の車は四十分程走り、キノコ業者の篠崎の家に着いた。鹿子木が玄関横のドアフォンを押すと、中から直ぐに返事があり、待ち構えていたかのように篠崎が外に出て来た。

「お待ちしておりました。どうぞお入りください」

 篠崎は洋介が前回会った時より、随分と低姿勢で対応した。先日と同じ事務所風の部屋に三人を通し、テーブルの前の椅子に座るよう勧めた後、奥に下がってお茶を淹れてきた。

 篠崎は三人の前に茶碗を置くと、気の毒なほど怯えたような様子になり、やっと聞き取ることができるような声で挨拶した。

「いろいろとご面倒をお掛けしております。申し訳ありませんがよろしくお願い致します」


 春田は洋介に挨拶した時とは全く別人が喋っているような威圧感のある声で言った。

「篠崎さん、実はね、昨日、日陰和田聡一郎の自宅のパソコンを調べたんですよ。パスワードで守られていて結構大変だったのですけどね。そうしたら、何と、あのパーティーで使う食材を発注した時のメモが見つかったのですよ」

 春田はその時の篠崎の表情を見逃さないようにするためか、非常に鋭い目付きになった。篠崎は下を向いたままで、座っている腿の上で両手を握りしめていた。

「この発注メモは誰宛だったか、あなたなら知っていますよね。そして、発注内容も」

 篠崎の指には震えが見えた。春田はさらに追い打ちをかけた。

「発注メモにはあの日のパーティーで使う食材が書いてありました。さらに別のものの記載もあったのですけど、あなたならその内容は分かっていますよね?」

「はい……。クロハツというキノコの注文の他に、研究用としてニセクロハツも採取してクロハツとは別の包装にして届けるようにとの指示が書いてありました」

「やはり、そうでしたか。この前、こちらの鹿子木刑事がここに来て、あなたから話を訊いた時、何故その事を話さなかったのですか?」

「それは、あの……、いつものパーティーのための注文とは別の研究用の材料ということでしたので、特にお話しなくてもいいかな、と思ったものですから」

 春田は平手でテーブルを強く叩いた。篠崎を委縮させるには非常に効果的であった。

「何をふざけたことを言っているんですか! 日陰和田が亡くなる原因となったキノコですよ。最初に言わなければいけない話でしょうが」

「済みませんでした」

 篠崎はそう言うのがやっとであった。


「本当は日陰和田を殺そうと思って、注文の通りにしなかったのではありませんか?」

「ええっ、どういう意味ですか?」

「例えば、日陰和田専用の特上クロハツなどと書いて、実はそのキノコはニセクロハツだったとか……」

「そんなことはしません。私はきちんとクロハツはパーティー用の食材としてまとめ、研究用のニセクロハツは間違えないように箱も別にしてお届けしました」

「本当ですか? まあ、とにかく、明日午前中に東京のH署に来ていただくしかありませんね。まさか嫌とは言われないでしょうね?」

「分かりました。伺います」

 篠崎はすっかりしょげてしまい、ただただ春田の言いなりであった。


「ニセクロハツの注文があったことばかりに気を取られ、他に確認することがあったのを忘れていました。篠崎さん、あなたが日陰和田に届けたクロハツは何種類だったのですか?」

「クロハツはかなりの量をまとめて一つの包装でお届けしましたが、それが拙かったのでしょうか?」

「本当に一つの包装だけだったのですか? 別にクロハツとして二種類を届けたのではないのですか?」

「いいえ、私がお届けしたクロハツは一種類だけでした。間違いありません」

「嘘をついても直ぐばれてしまうことは、ニセクロハツのことで身に染みているでしょうから、本当のことを言ってくださいよ」

「本当です。一種類でした」

 その後も春田はクロハツとニセクロハツの取り扱いについて執拗に訊問したが、篠崎からは新たな事実を引き出すことはできなかった。

「そうだった。見ておきたい所があったんだ。筑波山の山道にキノコの販売店を出しているそうですね。今後の参考のためにそこに連れてっていただけませんかね?」

「はい、分かりました。ここからは車で行かなければなりませんが、よろしいでしょうか?」

「ああ、構いません。私たちはあなたの車の後を付いていきますから先導してください」


 篠崎が運転する軽トラとそれに続く鹿子木の車は山道を十分程走って筑波山の北側にあるキノコ販売店に辿り着いた。山道が緩くカーブして道幅が少し広くなっている所に店はあったが、この日はキノコの時期は過ぎていて、店は閉じられていたのでただの掘っ立て小屋にしか見えなかった。

「随分辺鄙な所にあるんだな。こんな所に店を出して客が来るのですか?」

 春田は思っていた店のロケーションとは余りにも異なっていたため、違和感を持つとともに篠崎への不信感が一層深まったように洋介には感じられた。

「キノコの季節になると、結構な数の登山者やハイカーがやって来ます。お土産に買ってくれる人もそこそこいるんです」

「そんなものですかね。今日の所はこれで止めておきますが、とにかく明日午前中に東京のH署に来ることを忘れないようにしてください」

 春田はそう言って、鹿子木と洋介を促して車に乗り、深々と頭を下げて見送る篠崎を横目で見た後、鹿子木に発進するよう促した。


 洋介は春田に訊きたいことが沢山あった。折角の機会を無駄にしたくなかった。

「春田さん、はるばる東京から来られたのですから、筑波ホビークラブに寄られませんか?」

「そうですね……、神尾さんとはもう少しお話したいし、お邪魔することにしましょうか。いいですか、鹿子木さんは?」

「はい、もちろんです。それではこのまま筑波ホビークラブに直行することに致しましょう」

 四十分後、三人を乗せた車は筑波ホビークラブの駐車場に着いた。洋介が先導する形で受付に向かうと、中から愛が顔を出して迎えてくれた。


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