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外伝

「うん~~~~」

私は背伸びをして目の前に広がる光景を眺める船は快調に大海原を疾走し、空にはカモメが穏やかに飛んでいる。私が乗っているのは王室商船ラファール号 船齢50年の老朽船である。とはいえどこにも古さは感じさせない。

(父上は母上に弱いからね~~)

実際、父親は母親の懇願を聞き逃したことはない。まあ、たいてい大した要望ではないことも事実なのだが・・・・その中でもっとも大がかりでお金がかかったものがこの帆船ラファール号の購入と大規模な改造であった。型は古い商船だが船具や船体の一部は新品に変えられている。もうすっかり年をとった今でも隙を見せると船に潜り込んでくる。それが父と兄の頭痛の種だが、私はあの外見では止めるのも難しいとも思っていたりする。

「お嬢!陸が見えてきました」

見ると水平線の向こうにうっすらと姿を現している。

「上陸用意!!さあ、お上品に行くよ!!王室商船だからね!」

「分かってますって・・」「お嬢に恥じはかかせられません!」

いかにも荒くれ者といった風貌の船員たちが口々に答える。実は彼らは元海賊。これもあの母の行動力が常識の斜め上を行くいい例だろう。海賊のアジトに単身突入、その場で一番腕のいい海賊を船員としてスカウトしたのだ。この出来事をきっかけに海賊たちの反王国感情を抑え、王国近海の海賊被害が激減したのは父曰く、うれしい誤算だった、とのことだ。

私の名はアキカ、18歳。ヴィーナ連合王国第一王女だ。


「錨をおろせ!上陸よ!」

「「おおう!!」」

僅かな合間に入港準備を整える元海賊たち。ここは大陸北部のヴェール帝国の北部の町である。

「そういえば知っています?ここには帝国皇女が住んでいるそうですよ」

そういいながら船員の一人が少し小高い丘の上に立つ大きな屋敷を指差す。いかにも洋館といった感じだ。

「へえ、こんな辺鄙なところにも皇族を配置できるなんて、皇帝がお盛んなのか、よっぽど寵姫の数が多いのね」」

「多分、その両方でしょうが・・・お嬢はもう少しエレガントさが必要みたいですな」

「あら、帝国とかと比べれば田舎者だからこれくらいでちょうどいいのよ。だからこうして海賊だって雇えちゃうんだし」

「ははは、それもそうですな」

笑いながら去っていく船員。しかし、私はその洋館を見上げながら人の悪そうな笑みが浮かぶのをやめることができなかった。


その少女は儚い、いや、あまりに幼かった。なんせ、まだ6歳の少女が遠くに見える海をまるで大きな憧れを抱いているかのように見つめていた。ん?なんでわかるのかって?それは帝国皇女のお屋敷に非公式に訪問しているから。まあ、人によっては忍び込んだともいうけどね。でもここの警備ははっきり言ってザル。門衛はいたけど一人でやる気なし。屋敷内もそれなりに人数いたけど数名を除いてそれほどやる気が感じられないのだ。まあ、おかげで簡単に訪問できてよかったんだけど・・・

「おかあさま・・」

年相応の柔らかい声で発した言葉は母への思慕か。当たり前すぎてつまらないな。もしここで帝国打倒とか叫んだら面白かったのに・・。

そしたら思いっきりひっかきまわしたのに!少しつまらないかな~。でも、もちろんそんな意識もない人にそんなことはしませんけれどね。私はちょっと好奇心が強めの善良な人間です。

そろそろここも窮屈になってきましたので、そろそろ出ますか。

「よっと!」

華麗に天井から登場。我が家ではこれがデフォです。

「だ、誰です!くせm・・ムグググ!!」

全く!一国の王女が訪問しているのにいきなり叫びだすなんて無礼な姫様ですね。ここはひとつ王女にふさわしい挨拶をかまして好感度をアップさせましょう。

「どうもはじめましちぇ・・・」

「・・・・」

か、かんじゃった・・・気まずい。

「えっと・・・・改めてまして初めまして。私はヴィーナ連合王国第一王女アキカと申します。どうぞお見知りおきを」

ふ、完璧な挨拶です。最初の失態を補って余りある優雅な一礼を決めました。すると相手も度肝を抜かれてのか、かなりぎこちないながらも

「わ、私はヴェール帝国第四皇女ロゼッタと、と申します」

何とか形になった挨拶をしてくれました。そのまま上目使いで

「あ、あの!!」

「はい、なんでしょう?皇女殿下」

「い、いえ殿下なんてやめてください。そんな偉い人じゃないんです!わ、私は普通に家族と一緒に暮らせたらよかったんです!どうかロゼッタと呼んでください!!」

ふむ。どうやら帝国上層部はかなり複雑なことになっているようです。今度、父にでも詳しい事情を聴いてみましょう。いろいろ知っていそうですし・・

「あ、あの!聞いてます?」

「え、ええ。もちろんですよ!ロゼッタ」

「あ、ありがとうございます!海賊王女様!」

ん?なんですと?

「海賊王女ですか?それって私のこと?」

「はい!北海の雄、ヴィーナ連合王国の海賊を従える海の王女!海賊王女アキカ!こんな辺境にも鳴り響いています!!」

そ、そんな噂が広がっていたのですか!まあ、あながち間違っていないところがたちが悪いです。

「そ、そうですか・・いや、知ってもらえているとはうれしいですね」

「私をさらってください!」

え!なんですと!!

私はとんでもない物を盗むことになってしまいそうです。



いや、しませんよ!これでも一国の王女です。そんな国際問題になるようなことはしませんて!

え!もうしてるって?はははっ、馬鹿だな。証拠が残らないものは問題にすらならないのだよ!しかし、さすがに誘拐はまずい!いや、そもそも海賊王女って呼ばれても実際は海賊行為なんてしたことがない!ほんとだよ。とはいえ

「お願いします!!もう一度、母上に会いたいんです!」

話を聞いて見ると母親の余命が幾ばくも無いらしい。しかし、事実上、ここに軟禁されている身の上では会いに行くのも不可能らしい。

「事情は分かりました、ロゼッタ様。しかし、そのためにはあなたの覚悟が必要です」

「覚悟、ですか」

「ええ、そのささやかな欲をかなえるために数千人の魂を散らせる覚悟ですよ」

「なんでそのようなことが必要なんですか!私はただ、母上に」

「甘いですね」

「え?」

「あなたは帝国皇女です。その身分にはそれなりの責任があるんですよ。分かっていますか?私があなたをさらえば間違いなく戦争となります」

「戦争!!」

ロゼッタは驚いたように固まっています。

「ええ、確実にそうなるでしょう」

「そ、そんな・・・」

ロゼッタは絶望したように床に崩れ落ちます。さすがに可哀そうですね。

「力をつけなさい」

「・・・・え?」

「力をつけなさい、と言いました。今回はもうどうにもならないでしょう。ですがこのような思いを二度としたくないのなら力をつけなさい。学問を学びなさい。体術を学びなさい。名声を得なさい。人を集めなさい。権力を資金を得なさい。そうしなければいつまでもあなたはそのままです」

「そ、そんな・・・ただ、静かな幸福を得ることはできないのですか?」

「得られないのではありません。許されないのです。それが王族というものです」

しばらく見つめ合う2人。見るとその瞳には先ほどより強い光が宿っています。


「殿下!皇女殿下!!どうなさったのです?」

扉が乱暴に叩かれる。さすがに異変に気づかれましたか。

「ここまでのようですね」

「・・・ええ。早く行ってください」

「ええ、では!」

そういうなり再び天井に消える私。その直後、部屋に数人がなだれ込んできましたが結局皇女様に怒られていました。ちょっと申し訳ないことをしたかなと思いながら屋敷を出ました。まさかその一言が能登に大きな波紋を広げるとは神ならぬ身の上ではわかるはずもありませんでした。



後日、このことをうっかり母上に行ったら私もあってみたいと言い出す始末。ええ、全力で阻止しました。ついでに兄上に告げ口しといたんであの母上の心が折れるくらいのお説教を喰らっていました。まあ、こっちにも飛び火したんで喜ぶ気にはなれませんでしたが・・・


あ、あと、完全に蚊帳の外に出された父上のことを思い出したのはそれから1週間後でした。

これで完結です。こんな駄文を最後まで読んでくださってありがとうございます。

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