北の海へ
私は生まれてから半日のうちに母をなくしたらしい。その後、母の兄の船長に預けられて以降、ラファール号を家とし、何度か入れ替わった船員たちを家族として育った。赤ん坊だった私が無事、ここまで大きくなったのは意外と幸運だったのではと思えてくる。まあ、そのお陰で5年も一緒に寝起きを共にした船員たちにでさえ、まったく性別が女であることに気づかれないほど男らしく育ってしまったことは結構、本気で不幸なのではないだろうか?
・・・・
いや、こういう風に考えるのよそう。運が落ちると海では命が危ない。大丈夫!!まだ12だ!これから女らしくしていけばすむ話だ!胸もそんなに大きくなっていないし、十分挽回可能なはずだ。
俺はやってやるぞ!!やればできる子って言われているんだ。船長以上のいい男捕まえて、目指せ!優雅な左団扇生活!!!
ああっ神様!いい出会いがありましすように!!
・・・・・!!!!
天啓が降りてきた。え、マジで神様っていんの?
神(?)は言った。
『迷える子羊よ。まずは言葉使いから・・・・かな???』
聞こえたのは疑問形でした。
なんだろう。微妙にショックだ。
心に多大なダメージを与えたロマネ夜事件(私命名)から10日後、船は広い大海原を北に向かってた。
その間にもちゃんと毎朝、私は女の子と自己暗示と周囲への教育の日々が続いた。その成果もあってさっきも船員Aに
「お嬢(坊主から改定された)。だんだん天気が悪くなってきましたね・・・」
と声をかけられた。すこし棒読みだった気がするが大丈夫そのうち慣れるはずだ。
でも、本当に寒い。雪でも降るのかしら・・・できれば今日は降ってほしくない。視界がこの海域で悪くなるのは非常にまずい。この北の海には流氷という厄介なものが待ち構えているからだ。下手に当たれば船体に穴が開く。そしてこの時期の海水は死ぬほど寒い。人間なんてすぐ動けなくなってしまう。
動けなくなる→さらに寒くなる→死
というシンプルな図式が頭をよぎる。いかんいかん、プラス思考プラス思考!とはいえリスクはリスクだ。
「船長、もう少し陸地寄りに航路を取りませんか?」
そう提案してみる。多少危険は減るはずだ。
「それはダメだ。理由はわかるな?」
「・・・はい」
そう、わかってはいるのだわかっては!!積み荷は医療品や大麦、小麦など食料品などだ。食料品はともかく医薬品は早急に届けなくてはならない。
疫病である。
私は地図を思い浮かべる。かなりいい加減ではあるが大体の位置関係は把握できる。大陸北東部は小国が乱立するきな臭い土地ではあったのだが、よりにもよって主要航路が流氷に閉ざされる冬を目の前に感染力の非常に高い赤疱疹という病が流行し始めたのだ。このままでは多くの死者が出ることは確実だ。対立から一転、大急ぎで薬を一致団結して調達した北東部諸国はなかなかの手際をみせたのだが、前例のない仕事を完璧にこなすことは難しい。案の定、輸送手段の確保が完全に後手に回った。多くの船主が仕事が激減する冬の時期は船を大陸西部に移してしまうことを北東部諸国の役人は知らなかったからだ。
大陸北東諸国家は普段からそうすればいいのにと思うくらい手を携え、船という船に医薬品の輸送を依頼した。漁船だろうが他国の軍艦だろうが、しかしなかなか船が集まらない。もともと、そう豊かではない北東部諸国には莫大な報酬はだせる訳もなく、場合によっては命の危険もある仕事にとても割に合わないしかも圧倒的に積載量が少なすぎるのだ。
そこに彼らにとって幸運にも入港してきた本職の商船がラファール号であった。
これを見逃す余裕はすでに北東部諸国は持ち合わせていなかった。
本来、この大陸北部の町には入港予定はなかった。あの事件のあったロマネの町を出発して2日後、船員の一人が高熱を出し倒れてしまったのだ。一刻も早く医者に見せるために最も近い港町が大陸北東部への玄関口ベルガであった。
私は全く関わらせてもらえなかったが、病気の船員はすぐに病院に連れて行かれたらしい。最悪、はやりの疫病が疑われたが幸いにもただの風邪だったそうだ。ほっとしたのもつかの間、今度は厳つい屈強な男たちが船に乗り込んできたのだった。面倒事と損害と小さな不幸と幸運の種を抱えて・・・・
「責任者はおるか?」
いかにも歴戦の勇者といった感じの初老の男が見た目よりは少々高い声でしゃべった。
「はい、私が船長ですが?」
「おお、あなたがこの船の船長殿ですか!いや、実に立派な船だ!」
?皮肉?ありふれたタイプの船だぞ?やけにフレンドリーだな。
「ありがとうございます。私を褒めるより船を褒められることが船長として無上の喜びでございます」
おおお!これがシャコウジレイってやつか!心なしかお互い火花を散らしているようにも見えるぞ。
「さぞかし優秀な船長と乗り組員もそろっておるのでしょうな~」
「恐縮でございます。ところで失礼でなければ御名前をうかがってよろしいですか?」
「いやいや、こちらこそ失礼しました。私はデン王国将軍シリウスと申します」
「あなたが有名なシリウス将軍でしたか!ご高名はかねがね・・」
「いやいや、お恥ずかしい。たいした武功もなく肩身の狭い思いをしている者にそこまで言っていただけるとは、こちらこそ光栄ですな。そういえばこの船は商船のようだが・・・何を積んでいるのかね?」
「たいしたものは積んでおりません。蒸留酒と毛皮、あと蜂蜜に美術品が少々です」
船長は私に目でいくつか持ってきなさいと合図した。
「どうです。なかなかの品物でございましょう」
目の前には割と上等な毛皮と蒸留酒が並べられていた。
「ほお、なかなかの品質ですな。ちなみにこれらには買い手は?」
「?いえ特に決まってはいませんが?イベリア王国の商会に下ろそうと考えております」
船長も私も怪訝な顔になる。てっきり何かしらの査察だと思っていたのだ。売買の話まで聞かれるとは思っていなかったのだ。
「それは良かった。よろしかったら全量買い取りましょう。無論、そちらの言い値で・・」
「はあ!?」「もちろん条件がありますが・・・」
「・・・・それは強制で?」
「まさか!」
シリウス将軍はいかにも心外という表情をした。
「とはいえ、ことわられれば心証が悪くなりますな・・・」
私にもわかる明確な脅し、はっ、いつの間にか兵士が増えてる!囲まれた!
「・・・・お受けしましょう・・」
目の前で蚊の鳴くような小さな声で船長は受諾したのだった。
少し短めですが2話目です。もう少し書き溜めてから掲載し始めればよかったですね。稚拙な文章ですが感想をお願いします。
3/4 誤字修正




