2話 師匠なの?スライムと新たな仲間(家族)
2話 師匠なの?スライムと新たな仲間(家族)
スライムのリムが愛らしくも頼もしい「先輩」としてレイを導く姿と、徐々に増えていく仲間たちとの心温まる交流を描写しました。
「ピュイ、ピュイッ!」
薄暗い迷宮の通路で、俺の肩を定位置にしたスライムのリムが、プルプルと震えながら前方を指し示すように身体を伸ばした。
その視線の先には、鋭い牙を剥き出しにした巨大なネズミ——ジャイアントラットが立ち塞がっている。
「……わかってる。わかってるんだけどな」
俺は鉄の剣を構えながら、どうしても足を踏み出すことができなかった。
先ほどのリムとの出会いで、俺の筋力値が一般兵士の10倍にあたる『500』という規格外のものであることは嫌というほど理解している。剣を振れば、間違いなく目の前の命を奪ってしまう。
躊躇する俺の頬を、リムがひんやりとした身体でペチッと叩いた。
「ピュイッ!(主、しっかりして!)」
言葉は発しないが、魂の繋がりを通じてリムの意図が流れ込んでくる。リムは俺の肩からピョーンと跳躍すると、ジャイアントラットの顔面に向かって小さな水弾を放った。
パチンッ! と弾ける水飛沫に驚き、ネズミが怯む。リムは着地するなり得意げに胸を張り(スライムだから胸はないが)、振り返って俺を見た。
——ほら、こうやるんだよ。あとは任せた!
そんな先輩冒険者のような頼もしい態度に、俺は思わず吹き出してしまった。
「ふっ……あはは! 最弱のスライムに教わるとは情けないな、俺は」
不思議と、迷いは消えていた。このふざけた迷宮で生き抜き、地上を目指すためには、避けては通れない道だ。俺の孤独を最初に癒やしてくれた、俺を守ろうと背伸びをしてくれる最初の「家族」のためにも。
俺は深く息を吐き、今度は床を抉らないよう、極限まで力をセーブして剣を振り抜いた。
ズバッ!
一閃。ジャイアントラットは光の粒子となって消え去り、後には小さな魔石が残された。
『経験値を獲得しました。レベルが上がりました』
脳内に響く無機質なアナウンス。これが、俺の正真正銘の「初討伐」だった。
「ピュイ〜♪」
「ありがとな、リム。お前のおかげだ」
俺の足元にすり寄ってくるリムを抱き上げ、再び肩に乗せる。
それからの探索は、少しずつだが順調に進んでいった。リムという「先輩」のスパルタ(?)指導のもと、俺は中級冒険者すら凌駕する自分の理不尽なステータスを制御するコツを掴んでいく。
しかし、俺のダンジョン攻略は、普通の冒険者とは少し毛色が違っていた。
「グルァァァ……ッ!」
「っと、今度はコボルトか。しかも群れからはぐれて怪我してるな」
数時間後、血を流して壁際にうずくまる犬型の魔物、コボルトと遭遇した時のことだ。
威嚇してくるコボルトに対し、俺は剣を下ろした。明らかな敵意や殺意に満ちた魔物は討伐するが、こうして怯え、傷ついている存在を見ると、どうしても最初のリムを思い出して放っておけなくなるのだ。
「大丈夫だ。痛くないようにしてやるからな」
俺が手をかざすと、俺の膨大な魔力と結びついたユニークスキル【慈愛の箱庭】が発動する。
金色の優しい光がコボルトの傷を塞ぎ、その魂から恐怖を取り除いていく。
「クゥ〜ン……」
「よしよし。今日からお前も家族だ。名前は『コハク』な」
すっかり懐いたコボルトのコハクが俺の手を舐め、肩の上のリムが歓迎するように「ピュイ!」と鳴く。
またある時は、俺の強大な力に圧倒され、戦う前に平伏して「主として従いたい」と忠誠を誓ってくるゴブリンの戦士もいた。彼もまた、エデンズ・ハグで魂を包み込み、家族として迎え入れた。
討伐してレベルを上げながら、時に傷ついた魔物を助け、時に強さに惹かれた魔物を従える。
一人ぼっちの寂しさを埋めたいという俺の思いから始まった交流は、気づけば様々な種族の魔物たちを引き連れる、奇妙で賑やかなパーティーへと発展しつつあった。




