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修道院パラダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第六章 新しい修道院

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カミラ2


 淡々と言うカミラが痛々しくて、私は更に突っ込んで聞いてしまった。


「マーシュって奴とは、結婚の約束をしたの?」


 いままでマーシュさんと言っていたのに、もうマーシュって奴に呼び方が変わっている。リディアが切れた、とケイトがこそこそ言う声が聞こえてくる。


「はっきりとは、していないけど。でもすごく褒めてくれて、結婚するなら君みたいな大人しい子が良いって言われました」


 全然結婚の約束とは言えない。カミラの話を聞いていると、良く言えば人が良いが、悪く言えば世間知らずで甘いもいいところだ。こんなでは、悪い奴に狙われたら、ひとたまりもないだろう。


「その男、とても悪質だわ。そんな事を言いふらされたら、結婚に差し支えるじゃないの」


「ええ、それで両親は私をここに送ったのです。1年間こちらでお世話になって、噂が消えるのを待とうと言って」


 そういう噂は、結婚適齢期の間中、消えないだろう。身持ちが悪いという噂は、最悪なのだ。しかも、相手の男が誰なのかも知れている。わざわざそういった令嬢を選んで結婚を申し込む家は、めったにない。

 あれば、そちら側にも何らかの瑕疵があるはずだ。


 女性側がこういった立場に追いやられるのを分かっていて、ただの遊びで、それをする男。

 聞いているだけで、血管が切れそうになる。


 ケイトとダリアも同感のようで、怖い顔をしている。


「リディア、この子の汚名を晴らして、その男を懲らしめる手はないかしら」


 優しいダリアが、珍しくも過激なことを言い出した。すごく怒っているようだ。


「私はいつも、見た目だけで淫乱と言われてきたの。それはとてもとても気分の悪いことよ。例え根拠がなくても、そういった噂が流れたら終わりなんて、ひどい話だわ」


 そういえば、私だってユーリ殿下との体の関係を、でっち上げられるところだったのだ。一歩間違えば、私も彼女たちの側にいた。

 そう気付くと、ぞっとした。


「考えましょう。きっといい手があるわ。私たちだけでは無理だから、ベラさんに相談しましょう」


 その日、伯爵邸に行って、ベラさんに早速相談してみた。べラさんは話を聞くと、黙ったまま真っ赤になった。


 ジョナサンにも男性側からの意見が欲しいので、一緒に聞いてもらった。彼は怒りが収まらない様子のベラさんに代わって、話し始めた。


「そういう男は、いつもいたよ。落とした女の自慢だよ。ただし男友達の間で話すだけで、わざわざ世間に吹聴する奴はいなかったな」


 私とベラさんはギロッとジョナサンを睨めつけた。信じられない。そんな事をしているなんて。


 ベラさんは怒ったままの口調で、ジョナサンに詰め寄った。


「つまり、私がジョナサンと寝たら、リディアたちに、あなたの体がどうとか、色々と披露するような感じかしら」


 ジョナサンはギョッとして後ずさった。ベットヘッドにへばりついている。


「お願いだから、勘弁してくれ」


 情けない顔で懇願した。

 私も真っ赤になってしまう。そんなことを言われたら、どこを見て話をしたらいいか分からない。私はベラさんの袖を引いた。


「そんな意地悪言わないでください。女性はそんな話、しないでしょ」


 ベラさんは少し考えてから、ウ~ン、まあ〜、と濁した。


「修道女は、人の話を聞くのも仕事なので、色々と聞かされるのよね」


 恐ろしいことだ。私には務まりそうにない。

 少し話がそれたと見るや、ジョナサンがマーシュを懲らしめる方向に舵を切った。


「とんでもない奴だな。そいつの名を嘘つき野郎の代名詞に変えて、カミラ嬢を救おうじゃないか」


「そうよ、それよ。一緒に考えましょう」


 私も際どい話は避けたかったので、乗っかった。


 私がホープは彼女を避けなかったと話すと、ジョナサンがそれを利用しようと言い出した。乙女にしか懐かないと言われるユニコーンが懐いている。つまり、彼女は乙女なのだと証明できる。


「あの子は、もしかしたら自分はペガサスなのかもって言っていたわ。なんだか聞き覚えがある気がするって」


「ペガサスは、乙女と関係ないよなあ。でも翼がなければ、どっちか分からないだろ」


「そう。今のところ幼体だから、角もないし、翼もないのよ」


 ジョナサンは、修道院で貴族達を招くイベントを開いて、その時に彼女に懐いている神獣を披露しようと言い出した。


「ユニコーンが戯れる乙女。それで噂は事実無根だったとされるはずだよ」


 私とベラさんは、早速準備に乗り出した。

 修道院の規則は次第に変えられているが、今のところ相変わらず、外部の人間が本棟内に入ることは無い。

 だが、年に数回はそういった機会があってもいいはずだ。


 ベラさんはそう言ってから何か思いついたように、目を輝かせた。


「学業発表会のようなものを開きましょう。ここに居る子たちは、ほとんどが一年で、ここを出るでしょ。フィニッシュスクールに似ているわよね」


 そういえばそうなのだ。特に今は、王太子殿下の訪問に備えて、マナー講座や、センスアップ講座などを行っている。


 教会の仕事以外に、勉強と趣味に充てる時間が設けられたので、一般教養の勉強会や、趣味の集まりなども行われている。

 以前はそういう時間は一切なく、全てが労働に充てられていた。ほぼ奴隷状態だったのだと思う。


 院内では、神獣が気ままに現れるので、歴史や神学の勉強も行われるようになった。

 教師はお父様が、優秀な女性を送り込んでくれる。

 

 その講座を、非番の女性騎士たちも一緒に受けたりして、緩やかで、にぎやかな毎日を送っている。


「何をしたらいいかしら」


 私が訪ねると、ベラさんは力強く言う。


「まずはミサよ。かっちりと美しくミサを執り行うの。さすが修道院で修行しているだけある、と唸らせなくちゃ」


 そうですね。それは必要だわね。頑張る。


「その後は、美しい庭園と、そこで遊ぶ神獣のお披露目よ。カミラ嬢は、刺繍が得意だわ。彼女に神獣の飾り物を作ってもらいましょう。それを彼女が神獣に捧げるの。このイベントは目立つわよ」


 確かに、それは良さそう。童顔で生真面目そうな彼女が、刺繍を捧げる図。これはどこから見ても無垢な乙女にしか見えない。

 あざといくらいだわ。ベラさん、さすがです。


「後は、庭園でのガーデンパーティーね。マナー教育の成果を見せつけてやるのよ」 


 これには大賛成だ。それならばいっそ、と思いベラさんに言ってみた。


「では、院生の保護者には招待状を送りませんか。自分が捨てた娘の晴れ姿を、しっかり見てもらいます」


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― 新着の感想 ―
かわいそうだけどカミラが流されやすくて身持ちが悪かったのは事実なんだよねぇ。 クズ男に騙されたとしても貴族の令嬢としては問題ありだし。 神獣を利用してごまかしても結婚すれば純潔じゃないってばれるよね。…
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