カミラ2
淡々と言うカミラが痛々しくて、私は更に突っ込んで聞いてしまった。
「マーシュって奴とは、結婚の約束をしたの?」
いままでマーシュさんと言っていたのに、もうマーシュって奴に呼び方が変わっている。リディアが切れた、とケイトがこそこそ言う声が聞こえてくる。
「はっきりとは、していないけど。でもすごく褒めてくれて、結婚するなら君みたいな大人しい子が良いって言われました」
全然結婚の約束とは言えない。カミラの話を聞いていると、良く言えば人が良いが、悪く言えば世間知らずで甘いもいいところだ。こんなでは、悪い奴に狙われたら、ひとたまりもないだろう。
「その男、とても悪質だわ。そんな事を言いふらされたら、結婚に差し支えるじゃないの」
「ええ、それで両親は私をここに送ったのです。1年間こちらでお世話になって、噂が消えるのを待とうと言って」
そういう噂は、結婚適齢期の間中、消えないだろう。身持ちが悪いという噂は、最悪なのだ。しかも、相手の男が誰なのかも知れている。わざわざそういった令嬢を選んで結婚を申し込む家は、めったにない。
あれば、そちら側にも何らかの瑕疵があるはずだ。
女性側がこういった立場に追いやられるのを分かっていて、ただの遊びで、それをする男。
聞いているだけで、血管が切れそうになる。
ケイトとダリアも同感のようで、怖い顔をしている。
「リディア、この子の汚名を晴らして、その男を懲らしめる手はないかしら」
優しいダリアが、珍しくも過激なことを言い出した。すごく怒っているようだ。
「私はいつも、見た目だけで淫乱と言われてきたの。それはとてもとても気分の悪いことよ。例え根拠がなくても、そういった噂が流れたら終わりなんて、ひどい話だわ」
そういえば、私だってユーリ殿下との体の関係を、でっち上げられるところだったのだ。一歩間違えば、私も彼女たちの側にいた。
そう気付くと、ぞっとした。
「考えましょう。きっといい手があるわ。私たちだけでは無理だから、ベラさんに相談しましょう」
その日、伯爵邸に行って、ベラさんに早速相談してみた。べラさんは話を聞くと、黙ったまま真っ赤になった。
ジョナサンにも男性側からの意見が欲しいので、一緒に聞いてもらった。彼は怒りが収まらない様子のベラさんに代わって、話し始めた。
「そういう男は、いつもいたよ。落とした女の自慢だよ。ただし男友達の間で話すだけで、わざわざ世間に吹聴する奴はいなかったな」
私とベラさんはギロッとジョナサンを睨めつけた。信じられない。そんな事をしているなんて。
ベラさんは怒ったままの口調で、ジョナサンに詰め寄った。
「つまり、私がジョナサンと寝たら、リディアたちに、あなたの体がどうとか、色々と披露するような感じかしら」
ジョナサンはギョッとして後ずさった。ベットヘッドにへばりついている。
「お願いだから、勘弁してくれ」
情けない顔で懇願した。
私も真っ赤になってしまう。そんなことを言われたら、どこを見て話をしたらいいか分からない。私はベラさんの袖を引いた。
「そんな意地悪言わないでください。女性はそんな話、しないでしょ」
ベラさんは少し考えてから、ウ~ン、まあ〜、と濁した。
「修道女は、人の話を聞くのも仕事なので、色々と聞かされるのよね」
恐ろしいことだ。私には務まりそうにない。
少し話がそれたと見るや、ジョナサンがマーシュを懲らしめる方向に舵を切った。
「とんでもない奴だな。そいつの名を嘘つき野郎の代名詞に変えて、カミラ嬢を救おうじゃないか」
「そうよ、それよ。一緒に考えましょう」
私も際どい話は避けたかったので、乗っかった。
私がホープは彼女を避けなかったと話すと、ジョナサンがそれを利用しようと言い出した。乙女にしか懐かないと言われるユニコーンが懐いている。つまり、彼女は乙女なのだと証明できる。
「あの子は、もしかしたら自分はペガサスなのかもって言っていたわ。なんだか聞き覚えがある気がするって」
「ペガサスは、乙女と関係ないよなあ。でも翼がなければ、どっちか分からないだろ」
「そう。今のところ幼体だから、角もないし、翼もないのよ」
ジョナサンは、修道院で貴族達を招くイベントを開いて、その時に彼女に懐いている神獣を披露しようと言い出した。
「ユニコーンが戯れる乙女。それで噂は事実無根だったとされるはずだよ」
私とベラさんは、早速準備に乗り出した。
修道院の規則は次第に変えられているが、今のところ相変わらず、外部の人間が本棟内に入ることは無い。
だが、年に数回はそういった機会があってもいいはずだ。
ベラさんはそう言ってから何か思いついたように、目を輝かせた。
「学業発表会のようなものを開きましょう。ここに居る子たちは、ほとんどが一年で、ここを出るでしょ。フィニッシュスクールに似ているわよね」
そういえばそうなのだ。特に今は、王太子殿下の訪問に備えて、マナー講座や、センスアップ講座などを行っている。
教会の仕事以外に、勉強と趣味に充てる時間が設けられたので、一般教養の勉強会や、趣味の集まりなども行われている。
以前はそういう時間は一切なく、全てが労働に充てられていた。ほぼ奴隷状態だったのだと思う。
院内では、神獣が気ままに現れるので、歴史や神学の勉強も行われるようになった。
教師はお父様が、優秀な女性を送り込んでくれる。
その講座を、非番の女性騎士たちも一緒に受けたりして、緩やかで、にぎやかな毎日を送っている。
「何をしたらいいかしら」
私が訪ねると、ベラさんは力強く言う。
「まずはミサよ。かっちりと美しくミサを執り行うの。さすが修道院で修行しているだけある、と唸らせなくちゃ」
そうですね。それは必要だわね。頑張る。
「その後は、美しい庭園と、そこで遊ぶ神獣のお披露目よ。カミラ嬢は、刺繍が得意だわ。彼女に神獣の飾り物を作ってもらいましょう。それを彼女が神獣に捧げるの。このイベントは目立つわよ」
確かに、それは良さそう。童顔で生真面目そうな彼女が、刺繍を捧げる図。これはどこから見ても無垢な乙女にしか見えない。
あざといくらいだわ。ベラさん、さすがです。
「後は、庭園でのガーデンパーティーね。マナー教育の成果を見せつけてやるのよ」
これには大賛成だ。それならばいっそ、と思いベラさんに言ってみた。
「では、院生の保護者には招待状を送りませんか。自分が捨てた娘の晴れ姿を、しっかり見てもらいます」




