カミラ
そして、毎日午後に一度、お茶の時間が設けられるようになった。これは淑女教育の一つでもある。
お茶会を開く立場の練習と、お呼ばれした時の立ち居振る舞いの練習を兼ねている。そして、今までほとんど交流が無かった、見習い修道女同士の親睦を深める場でもあった。
お茶の食器類は簡素なものを一式揃えようとしたら、王太子妃殿下がプレゼントしてくれた。
「今後何回かお邪魔するかもしれないから、私に選ばせてね。華美なものは避けるから」
そう言って、シンプルだけど、とても上品で素敵なティーセットを、十分な数で揃えてくれた。しかも、ロイヤルマークを入れた王家御用達の品だ。
それを使うのに、しり込みする見習い修道女たちに、ベラさんは笑いながら言った。
「壊しても大丈夫よ。こういう場で使うものだもの。ストックが沢山用意されているの。気にしないで」
変に固くなって扱うと、余計に壊しかねない。ストックはたくさん用意されていたが、壊していい物でもない。そこの兼ね合いが難しいけれど、ベラさんがそう言ってくれたせいで、皆は安心して丁寧に使うことが出来た。
こうして修道女同士の交流が行われるようになった。今までは生きていくだけで精いっぱいで、他の事をする余裕はなかったのだ。
ここに来てやっと、普通の生活が戻って来て、周囲の人たちに目を向ける余裕が出てきていた。
そのお茶会で、私はホープを皆に紹介した。
きれいな仔馬のホープはすぐにみんなのアイドルになり、ホープ自身もまんざらではなさそうにしている。
そんな中でただ一人、ホープから距離を置いて、近付こうとしない子がいた。
小柄で大人し気な感じの子で、名前はカミラ。見た感じ、自分より幼いと思ったのに、十七歳と聞いて驚いた。
「馬は苦手なの? この子は大人しくていい子よ」
「あの、私には無理だと思います」
「なぜ?」
それには答えず、下を向いている。凄く緊張しているようなので、それをほぐそうと、ここでの初対面の挨拶とも言える話題を振った。
「カミラは何でここに送られたの」
そう聞いた私に、カミラは言葉を濁した。突っ込んで聞く気はなかったので、言わなくてもいいのよ、と言ったら、急に涙をポロッと流した。私とケイトとダリアは驚いて、どうしたのと尋ねた。
「きっと隠せませんね。ここにはユニコーンがいるのですもの。私、純潔を失ってしまったんです。それで、ここに送り込まれました」
驚いた。大人し気で幼く見える彼女に、今の言葉は全くそぐわなかった。
すごく驚いている私の感情に反応してか、ホープが何かあった? と言いながら出て来た。
そして涙を流しているカミラに気付くと、鼻面を優しく押し付けて、慰めようとした。
カミラはびくっとして体を引いたが、ホープは体を押し付けていく。
「ねえ、神獣はあなたの事を嫌っていないわよ。慰めようとしているみたい」
そう言ってあげると、こわごわと手をホープに伸ばした。ホープは全く避けたりしないで、静かに撫でられている。
「純潔を失ってしまったって、本当に? 神獣の態度はそんな感じじゃないけど」
「本当です。神獣様が私を嫌わないでくれる理由は解らないけど」
グロリア嬢に対しては、あんなに嫌そうにしていたので、てっきりそういう習性なのかと思っていたのに。違うのだろうか。
私は今更ながら、ホープに聞いてみた。
「ホープは王都から出立する時に会った女性を、すごく嫌っていたじゃない。覚えている? あれはなぜだったの」
ホープはしばらく考えてから、ああ、あの時の、と思い付いたようだ。
「あの女は体の周りを、意地の悪い嫌なものが覆っていたんだ。気持ち悪くて触られたくなかった。それにリディアに意地悪しようとしていたから」
「そうなの。じゃあ、この人はどう?」
「嫌なものは見当たらないよ」
「ふうん、神獣はあなたから嫌なものを感じないって、言っているわよ。もしかして、この子はユニコーンじゃないのかしらね」
ケイトがユニコーンじゃないなら何だろうね、と言いながら考え込んでいた。
「あ、それならペガサスじゃない」
ホープがその言葉に反応した。
「ペガサスって、僕のこと? 僕の事かな。聞いた覚えがあるような気がする」
そう言って私にすり寄って来た。
「リディア、何か思い出しそうなんだ。少し戻るね」
そう言って、ホープは消えた。
消えたホープを見送って、ぼんやりしていたら、ケイトがカミラに鋭い質問を投げかけた。
「あのさ、純潔を失ったと言うのはさあ、どうして親にわかってしまったの? 言わなければわからないでしょ?」
カミラはまたもや下を向いてしまった。
「マーシュ様が、周囲に言いふらしてしまったのです。それが広まって、私の親に伝わってしまって」
「マーシュって言うのが、あなたの恋人なの? なんでまた人に言いふらしたりしたのよ」
「友人達と、私を落とせるか賭けをしたらしいのです。それで」
本当の事なら最低な男だ。だけど、最低な男とか言ったら、彼女は辛いだろうか。
私はユーリ殿下を最低男だと思っているし、人がそう言っても大賛成としか思わないけど、カミラはどうなんだろう。そう考えると、迂闊に声を掛けられない。
「カミラは彼の事がすごく好きなのかな。それで彼に許したのでしょ」
「ええ、その時は凄く好きだと思ったんです。とても必死でお願いされたから、いいかなと思ったのだけど、それは間違いだったみたい」
なんだか、すごく頼りない性格の子みたい。ダリアと中身が正反対のような感じだ。緩そうに見えて実はしっかり者のダリア。片や奥手そうでいてガードが緩いカミラ。
ケイトがバシバシと突っ込んで聞いているので、私も便乗して聞いた。
「マーシュさんは、あなたの恋人なの? それとも違うの?」
「違うみたいです。その後は全く相手にしてくれなくなりましたから。恋人だと思っていたのは私だけだったようです」




