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修道院パラダイス  作者:
第六章 新しい修道院
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修道院の改革


 白い隊服に赤のサッシュの女性騎士たちは、非常に優雅だ。それなのに芯がピシッと通っているかのように俊敏で強そうに見える。実際に近くで見ると、腕などは結構がっちりとしているが、バランスよく引き締まっているので、とても恰好が良い。


 男性だけでなく女性が憧れるのも、仕方ないと思う。

 私を抱きかかえて、ベッドまで運んでくれた女性騎士は素敵だった、と思い出したら、その後トーマス様が不機嫌だったことも思い出した。トーマス様は馬にも、女性にも妬くみたい。


 余計なことまで思い出したので、一旦頭を振って、気持ちを切り替えた。


 そして、ハント伯爵邸に王太子殿下と妃殿下が、静養に来ていること、その治療のために私がハント伯爵邸と、修道院を行き来することを伝えた。


「この修道院に、王太子殿下ご夫妻が来られることがあると思います。というより、度々いらっしゃるかもしれません。そのつもりでいてください。お優しくて常識的な方たちなので、特別に身構える必要はないですが、礼儀作法のおさらいをしましょうか?」


 私が疑問形で問いかけると、ほぼ全員から、是非にもという声が上がった。

 ケイトとダリアも含めてだ。


「リディアの様に、王族に接し慣れている令嬢なんて、この国にだって片手ほどしかいないと思うよ。だからぜひ、心構えから礼儀作法までの諸々を教えて、お願い」


 ケイトにズバリと言われ、元侯爵令嬢のベラさんと相談する、と皆に向かって約束した。

伯爵邸でベラさんに相談すると、すぐに賛成するとともに、この機会にイメージチェンジを図ろうと、提案された。


「リディアは、ハンドクリームを配ったのでしょ。見習い修道女であっても、貴族の令嬢としてのありかたも守りたいと思ったのよね。その線で行きましょう」


 それで、ベラさんと相談しながら、色々な改革を始めた。

 以前から私が修道院生活の改善に取り組んでいたことや、今回の事件をハント家が中心になって対応したことで、いつの間にか私が見習い修道女たちのリーダーになっている。



 まずは修道院の体制を整える事、傷んだ宿舎などの整備が急務だった。


 他の修道院では、下働きの使用人が沢山いるそうだ。シリカ修道院では、下働きの者を一人も使っていなかったので、まずはそこから手を付けた。


 掃除や、薪割や、水汲み、掃除、全てに人手が足りていない。


 今までは、自分たちが使う場所だけで生活していて、その他の場所は、全く手入れされていないのだ。

 厨房に関しては、今の住み込みの料理人は腕が良いので、そのまま雇い、その下に使用人を数人付けることにした。今まで作っていた量が、本来の半分以下だったので回っていたが、まともに作ると一人では無理なのだ。

 ベラさんに、今まではリディア達も調理をしていたの、と聞かれた。


「手伝いと言っても、お芋を剥いたり、野菜を洗ったり、盛り付けをするだけよ。調理は、したことが無いから無理だわ。あの料理人は、よく一人きりであれ明けの料理を作って来たわね」


「そうね。だから外部の者だけど、ずっと雇われていたのでしょうね」


 下働きの者が付いたおかげで、彼女の腕前が十分に発揮できるようになったようだ。料理の質が劇的に上がり、毎日の食事が非常に楽しみなものになった。


 それから、荒廃した宿舎や庭の手入れは、まとめて一気に手を入れることにした。幸い、昼間に見習い修道女がいる場所は本棟内で、離れの宿舎や中庭に居ることは無いので、この際男性も入ってもらう。

 早さ優先で行く。


 それらの費用の工面には何の問題もなかった。


「今回の王太子殿下の静養に関連して、修道院にも大きめの経費が割り当てられています。それを原資に出来ますよ。しかも神獣が現れてから、寄付が倍増しています」


 相談を持ち掛けられた経理係は、にこにこしながら説明してくれた。


「それに、院長達が貯め込んでいたのは金貨だけでなく、宝石や贅沢品、土地・家屋までありました。それらを換金した額はかなりのものになります」


 ハント伯爵家から来ている経理担当者たちは、いい仕事をしてくれたようだ。

 お父様が費用ならいくらでも出すと言ってくれるけど、ハント伯爵家が目立ちすぎるのは良くない。必要があれば、寄付してもらうと言って断ったが、納得させるのが大変だった。私にお金の苦労をさせるのは嫌だとごねるのだ。

 それで、経理係にも助太刀してもらって、お父様をなだめた。


 これらの改革は一気に行われたので、二週間ほどはバタバタとしたが、その後は色々なことがすっきりと落ち着いた。


 ボロボロだった見習い修道女の宿舎は、綺麗に補修され、穴はふさがれ、新しいカーテンが掛けられた。ベッドも、ギシギシいうマットレスが運び出され、新しいものに取り換えられた。

 それだけではなく、綺麗な絵画まで、各部屋の壁に掛けられている。

 ケイトが驚いて大声を出した。


「こんな素敵な部屋に私たち、住んでいいの。贅沢過ぎない」


「これが当たり前のレベルよ。とても質素で、清楚な部屋よ」


 そう言い聞かせている私自身も、実はそう思った。

 伯爵邸のもっと贅沢な部屋を、当たり前のように使っているのに、この部屋は驚くほど贅沢な部屋に思える。

 まるで、贅沢に慣れた私と、極限まで質素な暮らしに慣れた私とに分離しているような気分だ。


 そして、見習い修道女達は、ベラさん指導の元で、淑女教育のおさらいを行った。

 十五歳以上の令嬢達は、皆一通りの教育を済ませている。だがその質と仕上がりは、家庭により、また個人により違う。

 それをもう一度徹底して教え込んでくれた。

 私は淑女教育に加え、王子妃教育も受けているので、教師側に回った。


 立ち姿と歩き方の稽古が終わる頃には、皆の顔付からして変わっていた。自分に自信が付いたせいか、皆の表情が明るくなっている。

 ここに居るのは、家庭で不遇な扱いを受けていた者がほとんどなのだ。

 

 美容に関しても、大きな効果が表れていった。

 ハンドクリームと共に、寝る時に付ける手袋も全員に配布したおかげで、今まで通りの水仕事をしても、手荒れしなくて済む。

 修道女なので、普通の貴族令嬢の様に、何もしないで暮らすことは出来ない。やることをちゃんとやって、そのうえでケアする。

 ベラさんが呼んでくれた美容の専門家から、色々な美容のテクニックを教えてもらったのだ。平民の彼女達は、色々な事をこなしながら、美を保っている。

 ネイルケアも教わったので、ここに来る前よりも、手が綺麗になったと言う子もいた。


 

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