表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修道院パラダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 神獣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/64

王都にて2


 食事が始まる前に、公爵夫妻と挨拶を交わした。


 公爵様は、トーマス様と同じ黒髪で、優し気な目元が特徴のダンディな方だ。夫人はトーマス様とよく似た顔立ちのきりっとした美人。高位貴族の威厳と貫禄を纏った美男美女で、その迫力に私は気おされてしまった。

 王族の方々と親しくしていたので、高位貴族には慣れているはずなのに、何が違うのだろう。

 ユーリ殿下と婚約した時は、まだ子供だったから、あまり緊張しないで溶け込めたのかもしれない。

 今回は、思い切り緊張している。

 それに、今の私は、お世辞にも素敵な貴族令嬢ではないのだという自覚がある。


 ドレスは伯爵邸から運び込まれたものを着ている。たった4カ月程度しか経っていないのに、既に違和感があるのは、少し背が伸びたせいだろうか。自分のドレスなのに、借り着のようによそよそしい。

 こんな格好で、婚約者家族との挨拶に臨むとは思ってもいなかった。


 この数カ月の生活が、あまりにも貴族社会の日常と懸け離れていたので、いざその世界に戻ると、いかに自分が別世界で暮らしていたか、痛感させられる。


 そんなふうにがちがちになっている私を、公爵夫妻は労ってくれた。


「細かいことは気にせず、くつろいで過ごしてほしい。必要なものがあれば、何でも言ってくれ。こちらに滞在中は、私たちの客として全面的に便宜をはかろう。ロイ・レグルス殿も同様にだ。今回はハント伯爵の代理として遇させていただくので、何でも言って欲しい」

 

 二人揃ってそう言ってくれる。

 公爵夫人は、新しいドレスが用意できないことを、申し訳なく思っていたようだ。

 公爵家には令嬢がいないので、無理を言える伝手は無いだろうし、もしできたとしても、この短期間では無理がある。私としたら、気遣ってもらえるだけで嬉しい。


 二人の温かい言葉に礼を述べて、私はぎこちなく椅子に座った。トーマス様は私を落ち着かせようとしてか、手の甲を軽く手で包み込む。


 大丈夫だと伝えようと、トーマス様に向かって頷いて見せた。

 反対側にはロイが座った。


「リディア、手」


 ロイの言葉に、なんだろうと思って手を出そうとしたら、反対側の手をトーマス様が握ったまま離してくれない。


「トーマス殿、リディアの手を離していただけますか」


 ロイの顔はにこやかで声も優しいけど、態度はきっぱりしていて圧が強い。まるでお父様が乗り移ったかのような保護者然とした様子。

 そしてトーマス様が引き下がった、みたい?

 呆気に取られてボーっとしていたが、その様子を見ている公爵様は、懐かしいとつぶやいた。


「昔、アリス嬢を巡ってよく争い事があってね。一歩先んじたハント伯爵が、今のように男達を蹴散らしているのを見かけたものだよ」


「まあ、初めて聞く話ですわ。それに私は母と似ていないので、とても比べものになりません」


 公爵様は、目を見張ってから笑い出した。夫人も、懐かしいわねと言いながらほほ笑んでいる。


「あのね、アリス嬢も十七歳までは、とてもほっそりしていて、今のリディア嬢とそっくりだったのよ。他の男たちが騒ぎ出す前に、ガッチリと彼女を捕まえたハント伯爵には、感心したものよ。私の末の弟も、アリス嬢に振られた一人よ」


 またなにか思い出したようで、ニコッとしてロイを見て、それから私に目を移した。


「ところでロイ殿は、幼馴染みだそうね。非常に気心が知れた仲だとか」


「はい。兄代わりのようなものです。今回は、父の代わりに同行してもらっています」


「ハント伯爵に雰囲気がそっくり。あらかじめロイ殿から伺っていましたけど、リディア嬢からも確認したかったの。トーマスが気にしていたから、一応確認させてもらったけど、これは本当に兄妹という感じね」


 あれ、何か疑っていたのかしら。ロイと?

 そう思って、トーマス様を見たら、また拗ねた表情に戻っていた。私が呆れて見ていたら、居心地悪そうに横を向いた。


「だって目くらましとは言え、ロイと婚約しようと考えたじゃないか。あれはショックだった」


 あの時は平気そうにしていたのに、意外だ。ロイと婚約…...そんな話も出たわね、と思い出して、客観的にその話を考えてみた。そうしたら、私はロイに甘えすぎているのかも、と突然に思い至った。


「ごめんなさい、ロイ。私、自分のことしか考えていなかった。お父様もだけど、あなたに迷惑かけすぎよね」


 ロイはいたずらっぽく笑いながら、片目をつぶった。


「いいさ。僕はハント伯爵に、絶対の信頼を置いているからね。特にリディア絡みなら、規格外の見返りがある。しかも今回戦う相手は国王だもの」


「全くちゃっかりしてるわね。今度は空想じゃなくて、本物の国王が相手なのよ」


 昔、海賊ごっこをする時はロイがキャプテンで、私は腹心の船乗りだったり、大砲の砲撃手だったりした。おどけているロイに、その時の面影がちらつく。二人で空想の国王軍の船を沈めて逃げたりしたものだ。そうやって水に沈められたり、壊されたりしたおもちゃの船は、片手に余る。

 逃げる先は、我が家の屋根裏部屋だった。そこで昼寝をするのが大好きだった。

 ロイも思い出したのか、そうだね空想の国王軍じゃないな、と言うので吹き出してしまった。


「何の話なの?」


 相変わらずトーマス様が不機嫌そうなので、小さい頃の海賊ごっこの話を聞かせてあげた。聞いている内に更に眉間のしわが深くなっていく。

 向かい側でその様子を見ていた公爵様が、トーマス様に声を掛けた。


「子供時代の話で妬いていたら、この先が大変だぞ」

「逆にそっちの方が焼けるかもね、昔の思い出の中には、今から入り込めないものね、トーマス」


 夫人はトーマス様にいたずらっぽくウインクした。

 夫人と目が合うと、トーマス様も苦笑して機嫌を直した。


「はい、昔の思い出には入り込めませんが、今からの思い出は、僕と二人で作って行くからいいのです。そうですよね、リディア」


 いつのまにか、名前の呼び方が変わって、呼び捨てになっている。

 横でロイが溜息をついた。トーマス様は全然押してくる勢いを止めてくれないようだ。


 でも、とても仲の良い家族で、予想していたのとだいぶ違う。

 以前の冷やかなトーマス様のイメージで想像していたせいか、ほぼ180度違っていた。家族揃って凄く気さくで、堅苦しさなんてまるでない。

 最近知ったトーマス様のイメージに近いようだ。やはり今の状態が素なのだろう。


 翌日の午後、陛下への謁見が決まっているので、食事が終わると早目に休むことになった。

 謁見の申し込みは、あらかじめ公爵家から出してもらっていた。神獣の力を、ジェフリー殿下の病に試させていただきたい、と申し入れている。

 それに対して、王家はすぐにスケジュールの調整をして、時間を空けたようだ。きっと期待しているのだろう。それだけジェフリー殿下の状態が悪いのかもしれない。

 明日の為に、私は力を蓄えよう。ホープの力を最大限に引き出すには、触媒になる私の状態が良くなければならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ