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修道院パラダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 神獣

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相談3

「人間の姿にもなれるの。それならロイみたいな銀髪かしら」


「そう。もっと輝く銀髪に水色の瞳だよ」


 私は興奮して皆にこの話を伝えた。ケイトもダリアもすごく喜んだし、銀髪に水色の瞳の美少年を、早く見たいと言い出した。

 ホープに、どうしたら変身出来るようになるか聞くと、もっと力を蓄えたらかな、と頼りないことを言う。

 まだ色々と記憶が抜けているそうだ。


 

 次の日から二日間、ベラさんは付きっきりでジョナサンを看病し、三日後から通いで修道院に来ることになった。そして還俗の手続きを始めるそうだ。

 もちろん結婚する。

 それに関しては、ジョナサンが立って普通に歩けるようになったら、と決められた。


 これはジョナサンが強く希望したことなのだ。寝たままで結婚式をしたくないと言い張っている。

 それでお父様が良い医者を呼び、自身もリハビリに付き合うそうだ。

 今ではベッドに起き上がることが出来て、自分でスープを飲むことも出来るようになったという。


 私は水色の玉から漏れ出ているホープの力が役に立たないかと思いつき、ジョナサンを連れてきてもらった。

 数日ぶりというより、人間のジョナサンには初めて会うようなもので、私たち三人は緊張していた。


「やあ、久しぶり」


 ベラさんが、彼はまだたくさんしゃべれないと教えてくれた。喉も使っていなかったから、無理は禁物だ。

 でも一言だけでも、その声は今まで聞いていた影のジョナサンのものだった。


「人間のジョナサン、はじめまして」


 私はそう挨拶して握手した。レディの礼儀作法ではないけれど、バラけないのを確かめたかった。

 ジョナサンの手は温かくて、握る力もしっかりしている。思わず涙がこみ上げた。


「リディア」


 お父様が私の肩を抱き寄せてくれた。


「もちろん、嬉し涙よ。初めて会ったときの黒い影の塊を思い出してしまったの。人間のジョナサンに会えて、本当にうれしいわ」


「もうバラけないから、安心して触って」


 あ、バラけないか確かめたのを、気付いていたのね。相変わらずお茶面なジョナサンだ。

 ケイトとダリアも、人間のジョナサンと握手した。二人とも、人間ね、温かいし実体だわね、と言い合っている。

 横で見ていたトーマス様が、苦い顔になっているけど、さすがにこれには文句を言わなかった。

 

「ユニコーンの力が、この玉から漏れているそうなの。それが回復の役に立つかもしれないわ」


 水色の玉に、力を貸してと願いを込めると、手の中で玉はふわっと輝き始める。それをジョナサンに握らせて回復を願うと、光が強くなり、ジョナサンを包みこんだ。しばらく光が彼を包み込んだ後、唐突に消えた。


「少し体が軽くなったよ。それにこの力には馴染みがあるような気がする」 


 十七年間、その中で過ごした記憶が体に残っているせいか、相性が良さそうなので、毎日これをすることになった。

 それと共に、とにかく沢山食べさせて、体に力を蓄えないといけない。私達三人でそう言って盛り上がっていたら、ベラさんから注意された。


「見習い修道女達も、同じくよ。皆ガリガリに痩せているわ。たくさん食べて、体を丈夫にしないと駄目よ。いいわね」


 私たちは、食事量が増えて、大分体調が良くなっている。

 修道院の中は少しにぎやかになって、笑い声が上がるようになってきた。だから凄くいい状態だと思っていたが、外部の人間から見ると、まだまだ普通ではないようだ。


「そうだね。大分痩せてしまったね。でも背が伸びているから、そのせいもあるかな」


 ロイが私の全身を眺め回して言う。そういえば、少し服が短くなっていた。


 その内にお父様が、この場で相談したいことがあると言い出した。


「修道院長と主だった者数名は、王都に送ることになった。王宮から兵が派遣されてくる。その他の使い込みに関わっていない修道女たちは、教会の審問部門へ送った。問題はジョナサンの件と、神獣の件だ」


 お父様は全員に説明した。

 ジョナサンが修道院内にいることは、立ち会った女性騎士たちに知られている。

 

 院長たちも、その話をするだろう。院長がその座に就いたのは、元の院長がジョナサンを殺したと、気に病んだことから始まっている。

 だからジョナサンのことが、明るみに出るのは仕方がない。


 ジョナサンの不思議な状態は神獣のせいで、そこから復帰したのも、神獣が成長したおかげだ。それを抜きに、ジョナサンが元に戻った説明は難しい。なにせ17年前のままの姿なのだ。


「私は神獣を隠しておこうと思っていた。だが、それだとジョナサンが改めて罪に問われる可能性が高い」


 修道院への侵入の罪。そういえばそれがあったのを、すっかり失念していた。


「でも神獣を披露したからって、ジョナサンが罪を逃れることができるの?」


 私が尋ねると、お父様は交渉の余地があると言う。

 今のところ神獣のホープは、私たちの前にしか、姿を見せていない。そのためホープをどういう風に世間にお披露目するか、もしくは隠すかは私達次第になる。


「神獣と唯一意思の疎通ができる人間として、罪を減じてもらう」


 そう言って、私を見た。つまり私がホープの言葉を聞けることは内緒ね。


「リディアが神獣と繋がっていることは、絶対に秘密だ。知られたら、また婚約の話を蒸し返されるに決まっている」


 ユーリ様との婚約。全く現実味を感じない。閉じた日記の一ページのようにしか、思えないのに。


「あんなことを言って、こんなことをした人が、どの面下げて、そんな話を持ち出すというのです」


 叫んだ私に驚いたらしいダリアが、まあ、リディアったらと嘆いた。

 言葉が荒くなったのは反省。でもロイは真顔で頷いている。こういった言葉の師匠なので、彼は気にしていないようだ。

 その横にいるトーマス様を見て、私はハッとした。

 乱暴な言葉を聞かれてしまった。血の気が引く思いでトーマス様を見ると、彼はひどく真剣な表情をしている。


 私の視線に気付き、スッと一歩で私の前にやってきた。それがすごく素早くて、瞬間移動したようだった。

 びっくりしていると、またもやスッと跪いた。最近このポーズをよく見る気がする。


「私と婚約していただけないでしょうか。リディア嬢」


 今まで何回か言われたけど、今回のは真剣味が違う。

 私はどうしようかと、お父様を見た。


「婚約していれば、王子を押し付けられることは無いだろう。私は便宜的に、ロイに婚約を結んでもらおうと思っていた。お前はどちらがいい?」



 これにはロイとトーマス様も含め、全員が驚いた。


「なんですって、ロイと婚約? それはちょっと、ねえ」


 そう言ってロイを見ると、確かに良い手ではある、と唸っている。


「トーマスは本気すぎるからなあ。一旦婚約したら、絶対に解消に応じない気がする。リディアが決心するには時間が足りないし、騒ぎが収まるまで、俺と婚約するか?」


 本気なのかとまじまじ見てしまった。


「だってさ、幼なじみだし、周囲も納得しやすいだろ。傷心の妹分を慰めようと婚約とかってさ、ありそうじゃないか」


 まあね、と気持ちが揺れた。

 淡々として理論整然としたロイの話し方に、つられて理性と計算が前に出てくる。


「それは、悪くないかもね」


 私は頬に指を当てつぶやいた。




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