相談3
「人間の姿にもなれるの。それならロイみたいな銀髪かしら」
「そう。もっと輝く銀髪に水色の瞳だよ」
私は興奮して皆にこの話を伝えた。ケイトもダリアもすごく喜んだし、銀髪に水色の瞳の美少年を、早く見たいと言い出した。
ホープに、どうしたら変身出来るようになるか聞くと、もっと力を蓄えたらかな、と頼りないことを言う。
まだ色々と記憶が抜けているそうだ。
次の日から二日間、ベラさんは付きっきりでジョナサンを看病し、三日後から通いで修道院に来ることになった。そして還俗の手続きを始めるそうだ。
もちろん結婚する。
それに関しては、ジョナサンが立って普通に歩けるようになったら、と決められた。
これはジョナサンが強く希望したことなのだ。寝たままで結婚式をしたくないと言い張っている。
それでお父様が良い医者を呼び、自身もリハビリに付き合うそうだ。
今ではベッドに起き上がることが出来て、自分でスープを飲むことも出来るようになったという。
私は水色の玉から漏れ出ているホープの力が役に立たないかと思いつき、ジョナサンを連れてきてもらった。
数日ぶりというより、人間のジョナサンには初めて会うようなもので、私たち三人は緊張していた。
「やあ、久しぶり」
ベラさんが、彼はまだたくさんしゃべれないと教えてくれた。喉も使っていなかったから、無理は禁物だ。
でも一言だけでも、その声は今まで聞いていた影のジョナサンのものだった。
「人間のジョナサン、はじめまして」
私はそう挨拶して握手した。レディの礼儀作法ではないけれど、バラけないのを確かめたかった。
ジョナサンの手は温かくて、握る力もしっかりしている。思わず涙がこみ上げた。
「リディア」
お父様が私の肩を抱き寄せてくれた。
「もちろん、嬉し涙よ。初めて会ったときの黒い影の塊を思い出してしまったの。人間のジョナサンに会えて、本当にうれしいわ」
「もうバラけないから、安心して触って」
あ、バラけないか確かめたのを、気付いていたのね。相変わらずお茶面なジョナサンだ。
ケイトとダリアも、人間のジョナサンと握手した。二人とも、人間ね、温かいし実体だわね、と言い合っている。
横で見ていたトーマス様が、苦い顔になっているけど、さすがにこれには文句を言わなかった。
「ユニコーンの力が、この玉から漏れているそうなの。それが回復の役に立つかもしれないわ」
水色の玉に、力を貸してと願いを込めると、手の中で玉はふわっと輝き始める。それをジョナサンに握らせて回復を願うと、光が強くなり、ジョナサンを包みこんだ。しばらく光が彼を包み込んだ後、唐突に消えた。
「少し体が軽くなったよ。それにこの力には馴染みがあるような気がする」
十七年間、その中で過ごした記憶が体に残っているせいか、相性が良さそうなので、毎日これをすることになった。
それと共に、とにかく沢山食べさせて、体に力を蓄えないといけない。私達三人でそう言って盛り上がっていたら、ベラさんから注意された。
「見習い修道女達も、同じくよ。皆ガリガリに痩せているわ。たくさん食べて、体を丈夫にしないと駄目よ。いいわね」
私たちは、食事量が増えて、大分体調が良くなっている。
修道院の中は少しにぎやかになって、笑い声が上がるようになってきた。だから凄くいい状態だと思っていたが、外部の人間から見ると、まだまだ普通ではないようだ。
「そうだね。大分痩せてしまったね。でも背が伸びているから、そのせいもあるかな」
ロイが私の全身を眺め回して言う。そういえば、少し服が短くなっていた。
その内にお父様が、この場で相談したいことがあると言い出した。
「修道院長と主だった者数名は、王都に送ることになった。王宮から兵が派遣されてくる。その他の使い込みに関わっていない修道女たちは、教会の審問部門へ送った。問題はジョナサンの件と、神獣の件だ」
お父様は全員に説明した。
ジョナサンが修道院内にいることは、立ち会った女性騎士たちに知られている。
院長たちも、その話をするだろう。院長がその座に就いたのは、元の院長がジョナサンを殺したと、気に病んだことから始まっている。
だからジョナサンのことが、明るみに出るのは仕方がない。
ジョナサンの不思議な状態は神獣のせいで、そこから復帰したのも、神獣が成長したおかげだ。それを抜きに、ジョナサンが元に戻った説明は難しい。なにせ17年前のままの姿なのだ。
「私は神獣を隠しておこうと思っていた。だが、それだとジョナサンが改めて罪に問われる可能性が高い」
修道院への侵入の罪。そういえばそれがあったのを、すっかり失念していた。
「でも神獣を披露したからって、ジョナサンが罪を逃れることができるの?」
私が尋ねると、お父様は交渉の余地があると言う。
今のところ神獣のホープは、私たちの前にしか、姿を見せていない。そのためホープをどういう風に世間にお披露目するか、もしくは隠すかは私達次第になる。
「神獣と唯一意思の疎通ができる人間として、罪を減じてもらう」
そう言って、私を見た。つまり私がホープの言葉を聞けることは内緒ね。
「リディアが神獣と繋がっていることは、絶対に秘密だ。知られたら、また婚約の話を蒸し返されるに決まっている」
ユーリ様との婚約。全く現実味を感じない。閉じた日記の一ページのようにしか、思えないのに。
「あんなことを言って、こんなことをした人が、どの面下げて、そんな話を持ち出すというのです」
叫んだ私に驚いたらしいダリアが、まあ、リディアったらと嘆いた。
言葉が荒くなったのは反省。でもロイは真顔で頷いている。こういった言葉の師匠なので、彼は気にしていないようだ。
その横にいるトーマス様を見て、私はハッとした。
乱暴な言葉を聞かれてしまった。血の気が引く思いでトーマス様を見ると、彼はひどく真剣な表情をしている。
私の視線に気付き、スッと一歩で私の前にやってきた。それがすごく素早くて、瞬間移動したようだった。
びっくりしていると、またもやスッと跪いた。最近このポーズをよく見る気がする。
「私と婚約していただけないでしょうか。リディア嬢」
今まで何回か言われたけど、今回のは真剣味が違う。
私はどうしようかと、お父様を見た。
「婚約していれば、王子を押し付けられることは無いだろう。私は便宜的に、ロイに婚約を結んでもらおうと思っていた。お前はどちらがいい?」
これにはロイとトーマス様も含め、全員が驚いた。
「なんですって、ロイと婚約? それはちょっと、ねえ」
そう言ってロイを見ると、確かに良い手ではある、と唸っている。
「トーマスは本気すぎるからなあ。一旦婚約したら、絶対に解消に応じない気がする。リディアが決心するには時間が足りないし、騒ぎが収まるまで、俺と婚約するか?」
本気なのかとまじまじ見てしまった。
「だってさ、幼なじみだし、周囲も納得しやすいだろ。傷心の妹分を慰めようと婚約とかってさ、ありそうじゃないか」
まあね、と気持ちが揺れた。
淡々として理論整然としたロイの話し方に、つられて理性と計算が前に出てくる。
「それは、悪くないかもね」
私は頬に指を当てつぶやいた。




