面会日
「さすがラリーだ。手紙に褒めてたって書いておくれ」
「それより直接話したほうが早いわよ。面会日まであと三日ね」
三日後の面会日、私は無事に父と会えることになった。
今の私と友人二人は、非常に優等生になっている。
日々に張りがあって楽しいので、気持ちが明るく、周囲にも親切にできる。しかも食事の質を上げたのが、私だということが広がり、見習い修道女たちから尊敬されるようになっていた。やはり食べ物を押さえると強い。
おかげで、修道女たちからの評価が上がり、一時は危ぶまれた面会の許可が降りた。
もっとも父の寄付への期待が大きい、という理由もある。
今度の面会日、お父様は大忙しなのだ。
私との面会。その後のジョナサンとの再会。
幻と言われるメルクルのチョコレート差し入れ。
日々のおやつの差し入れについての相談。
第一回目のおやつは三日前に配られた。夕食の時に、修道女が一人に一つずつ、可愛いピンクの袋を配ってくれた。
「これはある貴族の方が寄付してくださったお菓子です。週に一度、一人に一袋を差し入れてくださるそうです」
それを聞いた時、正直驚いた。ちゃんと私達に配るとは思わなかったのだ。
「中にカードが入っていますので、そこに書かれたことに返事を書いておくように。次に配るときに回収します」
配られた袋の中には、クッキーやマフィンや飴やドライフルーツが詰まっていた。カードには、その一つずつの味の感想を書くようになっている。
どうやら袋によって内容が違うようで、実際に食べないと、感想が書けない。これを掠め取ろうとしたら、非常に面倒が多い。それでかと三人で納得した。
私達もジョナサンとお父様の再会の準備で忙しかった。ケイトは二人が目立たずに会える場所を探してくれた。そして敷地内の裏手で、木がたくさん生えていて、薄暗い場所に決定した。
ケイトがクロスを持って行き、その場所でジョナサンを呼ぶ実験も終わっている。色が薄くなるけど、ほぼ人間らしい姿で会えるはずだ。
それと、私とケイトで塀を登る実験をやってみたのだが、なんだかおかしなことが分かった。なぜか登れないのだ。登っても上になかなか進まないし、その内に気が遠くなってずり落ちてしまう。
私は木登りも塀登りも自信があるし、ケイトも同様なようで、木や回廊の屋根などはすいすい登れるのに、本棟と外部棟を隔てる塀だけは駄目なようだ。
もしかして、何かの呪い? と言ってケイトが嫌な顔をしたが、そんなことがあるのだろうか。だとすれば、ジョナサンは呪いのせいで命を落とした可能性も有る。
お父様には、すぐに手紙でそれを伝えた。理由がわかるまで、絶対に侵入は禁止だ。
私がせっせとおやつのアンケートを記入していると、ジョナサンがちょっと聞いてもいいかい、と言って近寄って来た。
「感激してバラけたら怖がられるかな」
「バラけたまま近寄るのは、止めたほうがいいと思うわ」
おやつの差し入れは、思っていた以上に私達の気持ちを明るくしてくれた。だから私もだけれど、見習い修道女たちは、感謝の言葉と共にリクエストを必死で書いている。
色々と準備を進めながら、私達三人は期待と不安の入り混じった気分で面会の日を待った。
そして、とうとう面会日がやってきた。今日は朝から落ち着かない。一日で色々なことをするから。
中でも一番ドキドキするのは、お父様とジョナサンの再会だ。私は厨房の仕事があるので、直接見ることができない。男爵家に出かけるダリアも同じく。
だから庭掃除係のケイトに、見たまま全てを話してもらうことになっている。
ケイトには、見張りの仕事もあるから大変だけど、それでも羨ましい。
ソワソワしながら午前中が過ぎ、昼食の後は書籍の書き写しを失敗しまくった。
面会時間になると、私は髪を手ぐしで梳いて、服の埃をはたき落とし、シワを伸ばした。
それからハリエル修道女に付き添われ、ゆっくりと面会室に向かった。
前回と同じ部屋に入ると、すでにお父様が座って待っていた。私が入ると、すぐに立ち上がり、私とハリエル修道女に挨拶をした。すごく落ち着いている。
私はほっとして、嬉しくなった。
「お父様。お元気そうで嬉しいです」
「お前もね。顔色が良いな。二カ月見なかっただけなのに、随分きれいになった。その二カ月を見逃すとは……」
急にお父様が怖い顔になった。
「そんな顔しないで。三十分しか無いのよ」
「そうだな。この付けは彼らに払ってもらおう」
彼らって、王家かな。あれから二カ月たったけど、どうなっているのだろう。修道院の生活改善で忙しくて、忘れていた。ここでは聞けないから、後で聞いてみることにしよう。
「差し入れたお菓子はどうだい。皆は気に入ったかな」
「大喜びよ。有名なお店のものばっかりで、どれも美味しいし、日持ちするものもあるから、取っておけるわ」
お父様はホッとしたのか、顔から力みが取れた。なかなかいい流れだわ、と私も力を抜いた。
「みんな変わりはない?」
「家の者は、変わりないよ。そうだ、トーマス殿とロイから言伝を預かってきた」
そう言って、懐から二通の手紙を出した。
「手紙は禁止されております」
すかさずハリエル修道女が口を挟んだが、お父様は、ここで読むのは問題ないでしょうと言って、微笑んだ。
その圧に押されたのか、言い訳の言葉がなかったのか、それ以上は何も言わなかった。手紙すら禁止というのは、監獄でもめったにないだろう。
「さあ、リディア。どっちから読む?」
私はロイのを選んだ。
きれいな薄紫の封筒の中には、同じ色の便せんが入っていた。
ロイの字はとても綺麗だ。流れるようにリズムミカルで、本人と同じようにサラッとしている。
「君なら元気だろうね、ですって。ロイったら、ここを出たらやる事リストを書いているわ。一番が、いま評判のアイスクリームショップで食べ放題ですって。二番以降はショッピングね。お父様、この手紙取っておいてくださいね」
それを返してから、トーマスの手紙を受け取った。
グレイの落ち着いた封筒に入っている。さて、と読み始めてすぐに、一旦閉じた。
愛の言葉の羅列。情熱的過ぎて、ここで読むのは無理だった。
お父様が、どうしたというように、片眉を上げている。
中身、見ていないのね。
どうしたらいいか迷った挙げ句、手紙を小さく折りたたんで、手の中に握り込むと、封筒に戻すふりをした。
これを読まれても困るので、とても返せない。手紙を素早くスカートのポケットにしまい込み、すぐに私は話題を変えた。
「ところで、王都の様子はどうですか。変わりないのかしら」
少し緊張しながら聞いてみると、お父様は満面の笑みを浮かべた。
「特に変わりは無いと報告を受けている。事業は引き継ぎ後に少々混乱があったらしいが、今は普通に進んでいるようだ」
嘘だ。ロイの手紙にはひと言、混乱を極めていると書かれていた。
ジッと見つめても、完璧に美しい微笑みは崩れない。これは本当の事を話す気ゼロだと諦めた。




