修道女たちの調査2
それからの私たち三人とジョナサンは、修道女たちの生活を調べて回った。
私は予定通り、厨房の担当になった。独房から出て以降、私達三人は模範生になり、比較的優遇されるようになってきていた。
一番初めに食品の購入量を調べた。食料品にかけている額は、平均的な費用をかなり上回っている。
ただしその内で、修道院の三度の食事用に充てられるのは、三割程度。その他の高級食材と嗜好品が、修道女と警備兵の宿舎に運び込まれている。
仕入れ帳簿は案の定、二重になっていた。
帳簿が読めて、お金の流れを追える令嬢など、めったにいないので、帳簿を隠す気もないようだ。おかげで、内容を確認するのは簡単だった。
食料品を仕分けるのは修道女達で、中間の間で搬入先が分けられる。その搬出時に、修道女の宿舎行きの木箱を覗くと、大きな肉や菓子類、酒などが入っていた。兵士の宿舎行きの箱も大体同じだった。
食費の流れは分かった。対外的には、普通より豪華な食生活を送る修道院と見せかけているのだ。高級な酒が大量に仕入れられているのは、表の帳簿には載っていないので、仕入れ先と結託しているのだろう。
からくりがわかったので、リディアが搬入係の時は、肉の一部を目立たない程度取り分け、皆の食事用に回した。
料理人はこの修道院にずっといる中年女性で、かなり大ざっぱな性格で、しかもいつでも酔っぱらっている。だから細かい事は気にせず、淡々といつも通りに調理した。
そして盛り付けと配膳は、見習い修道女の厨房係が行う。
調理済みの料理を盛り付けるとき、修道女たちの皿には、いつも通りの肉の切れ端、見習いにはもう少し厚い肉を入れるようにした。
一番初めの時、リディアが小声で内緒よ、と言って皿を配膳係に渡した。彼女たちは不思議そうにしていたが、結局何も聞かずに私が言ったことに従った。
「最近、食事の肉が増えて、少し元気になった気がする。他のみんなも、少し笑顔が増えたよね」
ケイトの言葉にジョナサンが反応した。
「肉、食べたいな。ずっと何も食べていないんだ。肉を噛み締めたい」
私は驚いて聞いた。
「もしかしたら、お腹が空いているの?」
「そうじゃないけど、記憶が蘇るのさ。ステーキや、プリッとしたソーセージ。それに冷えたビール」
ジョナサンは、その後ビール、ビールとブツブツ言い続けた。
「一本貰えるか聞いてみましょうか」
そうダリアが言うので止めた。ダリアは一人の修道女の身の回りを任されている。機嫌の良い時には、おやつをもらえるそうだ。それでもビールは駄目だろう。
修道女たちは自分の部屋に、お菓子や酒をたっぷり置いているそうだ。なぜか普通のドレスが何着かと、夜会に着ていくようなドレスまで有るという。どこに着て行くのだろう。
ダリアが修道女の部屋に行くのは夕方までなので、夜の動きはわからなかった。
ところがジョナサンの移動距離が伸びたことで、夜間の監視が可能になった。
ケイトの最初の実験で、ジョナサンの移動範囲は、クロスから百メートル程度と判明した。ただし私が持っている場合でそれだ。それ以外では、距離がずっと短くなる。
出て来られる時間帯は夜の七時から朝日が昇るまで。
それが日毎に伸びていった。一か月後の今では、行動範囲は修道院内全域で、午後の四時以降いつでも出られる。
それでジョナサンに夜間の監視をしてもらった。その結果、呆れた実態が分かった。昨夜、修道女達は警備兵達と一緒に、着飾って遊びに出て行ったという。
ジョナサンは塀の外に出られないので、どこに行くかまでは突き止められない。だからそれは父に頼むことにした。
「その日バネッサ修道女は、早めに部屋に戻って来たわ。私、掃除中に、バネッサ修道女が机の引き出しから、金貨が詰まった袋を取り出すところを見たの」
金貨を持って着飾って向かう先とは、どんな場所なのだろう。
「彼女は一握りの金貨を夜会用のバッグに詰めていたの。だからエスコートは居ないのだと思う」
通常貴族の女性は荷物を持ち歩かない。全て侍女かエスコート役の男性に預ける。持ってもハンカチと扇子くらい。
一体どこに行くのだろう。
「多分、カジノだろうな」
「カジノ。私も行ってみたい」
ケイトが元気よく叫んだ。私もちょっと興味があるので、ジョナサンににじり寄った。
「カジノで仮面を被る人もいて、人目を気にしないで遊べる。そこに通っているなら、修道女達が金の亡者になる理由として、ピッタリはまる。負けがこむと一気に金が消えるからね」
そんなことに私たちの経費が流れているのかと、目眩がしそうだった。
「お父様が五十万ミル寄付したって言ってたけど、それも遣ってしまったのかしら。腹が立つわ」
ジョナサンがすごく豪気だね、と目を見張った。それから急に考え込んだ。
「修道女が修道院を抜けて、カジノで豪遊というのは、厳罰に処されると思わないか」
「思うわ。絶対よ。ジョナサンありがとう」
私達三人は、これを暴けば最低な修道女たちを、辞めさせられると言って大喜びした。
「待って。まだ問題がある。ラリーにカジノに行ってもらうとして、仮面を被っていたら手が出せないよ。無理に引っ剥がすわけにはいかないからね」
そういえばそうだ。いきなりあなたは修道院長だと決めつけて、別人だったらシャレにもならない。どうしたらいいのだろう。
悩んでいたら、ジョナサンが良い提案をしてくれた。
「こう言うのはラリーが得意なんだ。あいつに任せたらいいよ。暇そうだしさ」
それは一石二鳥だ。お父様に前向きな仕事を与えておけば、私もいくらか安心できる。
その事を手紙に書いて、すぐにダリアから渡してもらった。
交換のように、父からは調査結果が渡された。
カスリー院長は男爵家の次女で、婚期を過ぎた頃に、この修道院で修行を始めている。そして十五年前に前院長が亡くなると、その後を継いだのだ。
彼女が修道院長になったのは、前院長の強い推薦があったおかげだった。
彼女は前院長が亡くなるまでの二年間、病がちだった前院長の補佐役をしていたという。それらの事情を加味して、資格に乏しい彼女が選ばれた。
十七年前といえば、ベラさんが居た頃だ。すでに修道院は過酷な環境だったので、前院長も善人とは思えない。意地の悪い者同士で気が合ったのだろう。
こんな修道院、無くしてしまえばいいのだ。
次にダリアが男爵邸に行ったとき、ダリアはお父様からの返答を受け取ってきた。
『カジノ向きの派手な宝飾品を、寄付することにしよう。院長は私のエメラルドのタイピンに目をギラつかせていたから、きっと身に着けてくる』
父はその宝飾品を目印にして、相手を見破ったことにする気らしい。




