そして二人は……
トントントン。
私は狭い台所で、料理を作っていた。
「ふぅ、幸穣君帰って来ませんねぇ。もしかして、オッパブにでも行っているのでしょうかね」
私がそんな独り言を言うのと同時に、玄関の扉が開く。
「幸穣君、お帰りなさい!」
「いってねぇよ」
「……あらぁ……いってないんですか? じゃあ、私が、いかせてあげましょうか?」
「……ノエル……何の話だ……?」
「えっ、だから、いけなかったんですよね」
「……すまん、話がかみ合っていない気がするのだが……」
「そうですか? 幸穣君が、オッパブでいけなかったって話ですよね。大丈夫です。私オッパイはペチャンコですが、舌と指には自信が有るんですよ!」
私は、ウインクをしながら、右手で輪っかを作り、上下運動を繰り返す。
すると、幸穣君は頭を抱えて座り込んだ。
「……違う、俺はそもそも、オッパブなんかに行っていないと言っているんだ」
「あらら。そうだったのですね。私はてっきり、白濁の液が出なかったのかと……」
「白濁言うな!」
「はいはい、それはともあれ、そんな所に座っていないで、私と一緒にご飯でも食べましょうね」
私は座っている幸穣君を抱き上げる。
「……はぁ、お前はスゴいやつだな」
「何がですか?」
「いつ、どんな時でもブレない、その精神力がさ」
「エヘヘへへ、そんなに誉めても、オッパイくらいしか、出せませんよ」
「……出さんでいいよ」
幸穣君が疲れた目をしている。
「所で、ご飯食べません? 夕食作ったんですよ」
「……そうだな。取り敢えず、ご飯にしようかな」
幸穣君は、疲れた体を休めるように、席に着いた。
私は、そんな幸穣君の前に、肉じゃがと、お味噌汁を並べる。
「いただきます」
幸穣君は、手を合わせると、肉じゃがを箸で摘まむ。
「……! なっ、これ旨いぞ」
驚きの声を上げる幸穣君の前に、私はお米を置いた。
「お口に合って何よりです」
幸穣君の箸は止まらず、今度はお味噌汁を喉に流す。
「ダシが利いてる。京風か?」
「いぇ、そのつもりは無いのですが。そうですね、強いて言うならば、ノエル風でしょうか?」
「……ノエル風か……いい味付けだ」
「えへへへ、本当ですか? なんか素直に褒められると照れくさいですね……」
私は、柄にもなく、てれてしまった。
「さて、私もご飯を頂くとしますかね」
私は、幸穣君の前に座り、自分の分のお茶碗を用意した。
「ところでさぁノエル」
「ハイなんでしょう」
「1つ聞いていいか?」
「スリーサイズでも何でもお答えしますよ!」
「そうか。それなら有難い。……ところで、お前って幾つなの?」
「幾つ……とは? 男の経験の数ですか?」
「そうじゃなくて、年齢」
「……18ですよ」
「いゃ、表向きの話じゃ無くて、実年齢。なんでも答えるってさっき言ったろ」
私の額に汗が流れる。
「え~っと、幸穣君は、なにを根拠にそんな事を言っているのですか?」
「なにって、まっ、このご飯を作る手際がいいのもあるけれど、言動がな……まぁ色々だよ……」
「私、何か言いました?」
「あぁ、先日はカップルの事をアベックとか言ってたよな。それに、以前、川の横の魔女と話していた時、おばあさんって言われて激怒していたろ」
「……あの時、ちゃんと聞いていたのですか?」
「……まぁ、なんとかな。それで、まだ親が生きている事とか考えると、60歳位なのかなって勝手に思っているのだが、どうだ?」
「…………です」
「聞こえないんだけど」
「62です……。幸穣君の予想は大体あっていますよ……流石ですね……」
「おぉ、そうか、そうか。それはよかった。これで胸の痞えが取れたよ」
幸穣君は何もなかったかの様に、再び、食事を続ける。
……あれ?
私は、あっけらかんとしている幸穣君に、あっけに取られてしまう。
「幸穣君、ちゃんと聞いていました? 私62歳なんですよ」
「おぉ、聞いたよ。それがどうした?」
「どうしたって、……おばあちゃんですよ」
「ん?」
幸穣君は、首を傾げて悩んでいる。
「……ノエル。おばあちゃんだからどうしたって言うんだ?」
「だって、イヤじゃ無いんですか? 今まで年齢を誤魔化していたんですよ!」
「まぁ、年齢を誤魔化したって言えば、誤魔化していたんだろうけど……そもそも年齢を誤魔化さない女なんてこの世にいるのか?」
私は肩の力が一気に抜けた。
えっ、この子は何を言っているの。
年齢査証ったって、44歳もサバよんでいるのよ。
普通なら、そんなおばあさんがいい寄ってたって分かったら、気持ちが悪くて、怒るでしょう。
なのに……、なんでそんなに普通で居られるの?
……いゃ、分かっていた。彼がこういう人だから、私は魅かれた。
彼がアルバイトをしている時、高齢者にとても優しかった。分け隔てなく、面倒臭がりもしない。だから、彼ならきっと私を受け入れてくれるかもしれないと思って……それで……。
そう。だから、もう年齢は偽らない。
62歳である事を打ち明けて、彼の横に居たい。
「幸穣君はさすがですね。私がおばあさんなのに、受け入れてくれるとは」
「……そうか? だって、ファンタジーのエルフとかって、年取っていても若いじゃん。ノエルもそんな感じだろう?」
「アハハハ。私がエルフと一緒って……涙が出て来る。まぁ、確かにそれに近いモノはあるかもしれませんね。厳密には、私は幼生固定されているのですよ。だから、これ以上見た目は変わらないの」
「幼生固定?」
「えぇ、丁度魔法が使えるようになった頃、私は、自身で自分の外観を固定したのよ。だから、これ以上、外見上は年を取らないの」
「へ~、便利なものだな」
「まぁね。そんな訳で、10年に一度新しい名前と戸籍を貰っているのよ。この姿で40歳とかだと無理があるでしょう」
「成程ね。そういえば、以前のノエルは結婚とかして子供とかもいるのか?」
「もちろん。子供どころか、孫がいるわよ!」
「まっ……孫!?」
流石の幸穣君もこれには驚きを隠せなかった。
目をまん丸に見開いて、私を見る。
「えぇ。でも、魔法の力は遺伝しなかったみたいなので、普通の子として育てているの。だから、私も会うときは外見補正をかけて、おばあさんになって会うのよ」
「……それは、色々と大変だ」
「そんな訳で、こう見えても私は経験豊富なの。幸穣君の性的欲求を解消するのに使ってもらっていいのよ!」
「いゃ、お陰で合点がいったよ。どうして18なのに、そんなにエロいのか……とかな」
「いゃぁ、長い事生きていると、色々と欲がありまして……」
あぁ、秘密を打ち明けたし、ついに、私は幸穣君と結ばれるのね。
私の目標、目指せ一日で48手。この夢が叶う日も、刻一刻と近づいているのね。
「お~い、ノエル。なにモジモジしているんだぁ~」
やばい、私の考えが幸穣君にバレた。
「ところで、ノエル話ついでに、もう1つ聞いて置きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「なんで小さじの魔女って呼ばれているんだ?」
「あぁ、それですか? それは、私の魔力が強すぎて、小さじ一杯程度の魔力で日本を破壊できるからですよ」
「えぇぇぇえええ!」
幸穣君の顔が本気で引きつった。
私の年齢を聞いた時には驚かなかったのに、名前の由来を聞いただけで驚くなんて、ビックリです。
「ノエル、お前、そんなに危険なやつだったの?」
「まぁ、50回はイケますから、幸穣君をカピカピに枯れさせるくらい危険な女です!」
「誰もシモの話なんてしてねぇよ!」
幸穣君が頭を抱えて、悩んでいる。
「あぁ、何に悩んでいるのでしょうか? もしかして、私との未来? それとも、今晩の私の服装? そういえば、まだメイド服は試したことがなかったわ」
「お~い、ノエル。人が一生懸命考えている時に、勝手に、ストーリーを進めるのやめてもらえます?」
「やだなぁ、わたしのメイド服、気になっちゃいました? 買ってきますよ!」
「……安心しろ。ノエルの冥途服はちゃんと用意してやる」
「それ、天冠ですよね。前にアレオへ行った時、話したやつですよね」
なんかいつもの幸穣君に戻って来ました。
「ところで、それだけの力があって、国から身分証も色々工面してもらっているって事は、それなりにお金があるって事だよな」
「えぇ。コスプレグッズや大人のおもちゃも買えますよ。ダテに62まで働いていませんよ」
「……いゃ、そうじゃなくて、つまりさ……まとまったお金があるって事だよな」
「そうですよ? それが何か?」
「……ノエル。……ギュッ!」
えっ、幸穣君に抱きしめられてしまいました。
もしかして、私のお金が目当て? ……でも、それでもかまわない。私が面倒見てあげるわ……。私が幸穣君をヒモにしてあげる。
ガチャ!
ガチャ? あれ、私幸穣君に抱きしめられて、ボーっとしている間に玄関まで運ばれてきてしまいましたわ。
ぽぃっ! バタン!
……え?
……あれ?
「ねぇねぇ、幸穣君。これってどういう意味ですか? 放置プレイですか?」
「ちげーよ、忘れたのか? 元々、お前はお金も無く、身寄りも無いから俺の所に住まわせたって事を。つまり、今はお金もあるし、身分も国がいくらでも保証してくれる。よって、ここに居る必要が無いって事だ!」
「そっ、そっ、そんなぁぁあああ~~~。入れて下さいよ。私に入れて下さいよぉぉ~~~~」
「どさくさに紛れて、『私に』とか言ってんじゃねぇ!」
「あっ、バレました?」
「バレるわ! じゃっ、ノエル元気でな」
「……そうですか。私とは、ここでお別れなんですね」
「ドア越しで悪いが、そうなるな。サヨナラだ、ノエル」
「それでは、仕方がありませんね」
ガチャリ!
私は、玄関扉の鍵を開けた。
「なっ、なんで、お前開けられるんだ?」
「そりゃぁ、合い鍵作っていましたから」
「いつ?」
「こないだアレオで彼女の不倫現場を見た時、私に鍵を貸してくれたじゃないですか。なので、そのまま鍵屋へ直行しました!」
私はVサインを幸穣君にしてみせる。
「……あの状況で、よく合い鍵を作りに行けたな……流石だ……」
「お褒めに預かり光栄です。でも合い鍵は簡単に作れたのですが、幸穣君との子供はまだ作れていないんですよ。今晩作りませんか?」
げしぃぃ!
私の脳天にチョップが突き刺さる。
「痛い、痛いですよ、幸穣君! 脳みそ潰れたらどうするんですか!」
「うるせぇ! カニみそでも詰めてろ!」
「だから、カニみそは消化器官ですってばぁぁ……」
おわり
無事に小さじ一杯の魔女を、書き終えることが出来ました。
応援していただいた方、ありがとうございます。
下らない下ネタコメディーでしたが、無事に終えることが出来たのも、更新の度に読んでくれた方のお蔭と思っています。
引き続き、鋼鉄の舞姫は連載しておりますので、そちらの応援も宜しくお願いします。
では、また次回作でお会いしましょう。
CU