未来へ
鋼鉄の舞姫1周年記念
本編の後日談的な、まぁ、そんな感じです。
スズメの囀りと共に、柔らかな朝日が、カーテンの隙間からこぼれる。
私は、エプロンを首から下げ、腰の後ろでちょうちょ結びを作る。
これが、新妻としての第一歩。
シャー!
部屋のカーテンを開けると、朝日が眩しいのだろう。
ダーリンの顔がピクピクと動く。
ニヒッ!
ふふふ、可愛い寝顔だ。私がキスをしてあげましょう。
ぶちゅう。
私の濃厚なキスが、幸穣君のほっぺにくっつく。
からの~、レロレロレロ!
これでダーリンはもう私にメロメロ。
見てください、このダーリンの至福の顔…………では無さそうですね。
……なんか、怒っていますね。
しかも、もがいている。
「ふんぐふんぐ!」
あらあら、ダーリンが何か言いたげです。
仕方がないですね。
パチンっ!
私が指を鳴らすと、魔法が解除された。
「ノエルぅぅううう、どう云うつもりだ?」
「どう云うつもりとは? はて? 一体何の事でしょう?」
「とぼけるな! 何で俺の脳内にお前のモノローグが流れてくる? 何故俺は動けない? 何故俺はしゃべれない?」
あらあら、幸穣君が大興奮ですよ。質問攻めですよ。
「どうしたんですか、そんなにイライラして。もしかして、カルシウム不足ですか? やれやれ、仕方がないですねぇ。私のおっぱいでも飲みますか?」
「飲まねぇよ! つーか、出るんかい?」
「えへへ、なかなか良い、ツッコミですね」
「はぁ…………ノエル……朝から絶好調だなぁ」
「それ程でも。てへへ」
「……褒められていると、解釈できる脳がすごいよ。……って、……いや、話を戻そう。ノエル、何故俺の頭に、お前のお花畑モノローグが流れて来たんだ?」
「ふむ」
私は、シーツのシワを伸ばしながら、布団を綺麗に畳む。
「それはですね、モノローグを直接脳にぶっ込む魔法を掛けたからですね。あと、拘束されているのは、発言と行動拒否魔法を、平行して掛けたからですよ」
だが、幸穣君は、腑に落ちない顔を作る。
「脳内に伝達するって……つまりは、テレパシーって事だろう?」
「そうですね……。その方が一般的かも知れませんね。でも、テレパシーって言い方だと、色気も、面白みも無いじゃないですか」
「魔法のネーミングに、面白みを求めるな!」
「え~、『モノローグを直接脳にぶっ込む魔法』ってネーミングの方が、カッコ良く無いですか?」
「ネーミング云々よりも、取り敢えず、長い!」
「……じゃぁ、短くすれば良いんですね」
「……まぁ、そうだな」
幸穣君は納得したように、頷く。
「……そうですね……。では、改名して短く。……オッホン! 『モノを直接ぶっ込む魔法』とします!」
「おーと、なんだ……。方向性が、いつもの、危険なベクトルに向き始めたぞ」
「失礼な。私が、いつもいつも、下ネタを言っていると思うのですか?」
「思う!」
「ヒドっ!」
「じゃぁ、聞くが、モノって何だ? モノって?」
「……そっそりゃぁ、幸穣君のソーセージ?……」
ゲシィィィ!
今日もデフォルトで、私の脳天に、チョップが突き刺さる。
「あぅ、あぅ。……何するんですか。痛いじゃないですか、酷いじゃないですか! こっちだってそろそろ限界です。いい加減に、モノを入れていただかないと」
「おぃおぃ。俺の大事なモノを、仕事の納期みたいな言い方をするな」
「仕事みたいなものじゃないですか。ほら、夜のお勤めとかって言いますし」
「あぁ……確かに言うな……って、今はその話じゃないだろう」
「……そうですか? でも、気になりません?」
「……んーまぁ、そうだな……。なんでそんな言い方をするのだろう。もしかして、大人って品がないのか?」
「どうでしょうかね。もしかして、子供に分からないように隠語として使っているのではないでしょうか?」
「……成程。大人の知恵ってやつか」
幸穣君が、手を顎に当てて納得する。
「そうですね。まっそんな事いくら考えても分かりませんし、答えも出ませんよ」
「確かにな」
幸穣君はスクッと立ち上がり、軽いストレッチをして、節々を伸ばす。
「さて、取り合えず、話が一件落着したところでなんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「……ノエル。なんでお前、まだ、ここに居るの?」
「まだ居るって、何処に?」
「ここに」
「そりゃぁ、……伴侶だから?」
「……おかしいな……俺は、神前でも、教会でも式を挙げた記憶が無いのだが……」
「何言ってんですか! ちゃんと教会で愛を誓ったじゃないですか!」
「……いゃ、記憶がない」
「幸穣君は、神父様の前でちゃんと誓いましたよ」
「……ほぅ、なんて?」
「神父様はこうおっしゃりました。『新郎、住谷幸穣よ。貴方は、健やかなる時も、病める時も、苦しい時も、夜も、布団の中でも、ノエルの体を愛すること、そして、舐め回すことを誓いますか?』『はい、誓います!』って」
「おぃおぃ、どこだ、その腐れ神父は。今すぐここに連れてこい。俺が、正しい神の言葉を教えてやる」
「そんな事をしてはダメですよ。暴力は反対です」
私は、幸穣君を落ち着かせる。
「ノエル、大体そんな神父がいたら、今頃セクハラで捕まってるわ!」
「まぁ、私たちが式を挙げたのは、太平洋の真ん中ですからね。セクシャルハラスメントなんて言葉は存在しませんよ」
「……いゃ、だから、式を挙げた記憶がないのだが……」
「そりゃぁ、今の話じゃないですからね」
幸穣君が首を捻る。
「どういうことだ?」
「あぁ、ちょっと先の未来のお話ですよ」
「……俺、お前と式を挙げるのか?」
「えぇ。そうですよ。さっきからそう言ってるじゃないですか」
「……言ってないだろう……。まぁ、この際それは置いておいて、なんで未来の事が分かるんだ?」
「えっ、そりゃぁ、未来を見る魔法、『丸見え』を使いましたから」
「『丸見え』って……なんかネーミングが卑猥だな。……まっ、そのセンスは置いておくとして。ノエル……ってことは、未来の総理大臣や、株価等も分かるって事か?」
「いえ。残念ながら」
「……? じゃぁ、なんで、俺がお前と結婚するって分かるんだ?」
「そりゃぁ、『丸見え』の魔法は、未来の私が、ジュンジュンしている場面しか見えない魔法ですから。だから、見ると、いつも最高な気持ちになれるんですよ。グヘェ」
……っと。ちょっと取り乱してしまいましたわ。
よだれも垂らしちゃったし。
そんな私を見る幸穣君の目は冷たい。
なんか、毛虫を見ている目に似ているわ……。
「つまり、だ……。ノエルは、式の間ずーと濡れてるってことか?」
「んー、そうですね。そうなりますね」
「……最低だな……お前……」
「晴れ舞台ですよ、犬だって嬉しいと、嬉ションするじゃ無いですか。それと同じです!」
「同じかなぁ……って、お前は犬と同レベルか?」
「犬と、同レベル? 良いじゃないですか、上等じゃないですか。幸穣君、犬と云う字を知っていますか?」
「犬くらい一年生でもかけるわ」
「フフフ、そうですか。では、教えてあげましょう。犬と云う字は、大きいと云う字に点を書くのです!」
「……うん、そうだね。だから、知っているよ」
「つまり! 大きな点、おてんなのです!」
「……そうだね。確かに君は汚点だ。嬉ションする汚点だ。……なんか、とてもしっくりきたよ」
……あれ? なんか思いつきで話していたら、予定とは別の方向に……。
「……あっ、いゃ、間違いました。訂正します」
「……いゃ、ノエル。間違ってないよ。……確かに君は汚点だ」
……あっ……幸穣君が、テストで0点を取った生徒に向ける先生の眼差しをしている……。
「いやぁぁああ! 訂正させて下さいぃぃいいい」
「やかましい、汚点!」
……うぅぅ、幸穣君が冷たいです。
「はぁ、はぁ、まぁ良いですよ。取り敢えず休戦としましょう」
「そうか……」
「えぇ……今から朝食にしますから、まずは、顔でも洗って来て下さい」
「おっ、おう」
そう返事をすると、幸穣君は洗面所へと向かいました。ポリポリと頭を掻きながら、何かを考えるかの様に……。
「……あれ? 俺、さっき何を話していたんだっけかな……?」
……フフフ、家を追い出そうとしていたのは、これでうやむやになったわ。
私の作戦勝ちですよ。
今はご飯を食べさせてあげてますが、いつかは、私が幸穣君を食べる番ですよ……。
その日を待っていて下さいね。
グフッ!
たまに書きたくなるこの二人。
また何かの機会に書くかもしれません。期待せずにお待ちください。
<(_ _)>




