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七星

結局あの後、帰る気にもなれなかったので教室に向かうことにした。やはり、入学式を終えてみんな自分達の教室にいた。さも、最初から今明日という体で席に着く。


教室を見回すと、獅子堂と七星の姿が目に入った。黒と赤を基調としたブレザーの制服に獅子堂は黒いズボンを七星はチェックのスカートを着用していた。2人ともよく似合っている。


向こうも気づいたようで、声を掛けてきた。


「同じクラスだったな」


「ああ、よかったよ」


「っていうか、あんた入学式で見かけなかったけど何処にいたの?」


「ちょっと、具合が悪くて保健室で休んでたんだ」


「え?大丈夫か?」


「へぇ」


獅子堂は、心配そうに、七星は、疑わし気に見てきた。俺って、そんなに嘘を吐く人間に見えるだろうか?


「学園に関する説明が始まるまではそれぞれ自由時間らしいよ」


事情が分からない俺に獅子堂が教えてくれる。いいやつだ。そして、イケメンだ。


「空席があるんだな」


「紫音みたいに体調がすぐれない子がいたんじゃないかな?」


そんな他愛もない話をしていると、ガラガラと教室前ドアが開く音がした。


「はい、席に着いてください。もうホームルーム始まりますよ」


喧騒がやむ。


ウェーブのかかったロングへアの美人教師がプリントの束を持って入ってきたのだ。みんな自分の席に帰り、すぐにチャイムが鳴ってホームルームが始まった。



説明が終わって、放課後になると俺は先生に呼び止められた。


「冬空君、ちょっと聞きたいことがあるから職員室に来てもらってもいいかしら?」


「はい」


何かしただろうか?サボったことがばれたとか?そんな小さなことで呼び出すだろうか?まあ、しかし、俺に選択肢はなかった。


獅子堂達には先に帰ってもらい、俺は先生についていく。放課後とはいえ校内外の所々から話声が聞こえる。


するとあるところで、先生が足を止めた。そこは理事長室であった。入りたくない・・・。というか、理事長だと?いやな予感が頭をかすめる。理事長ということは、東京を治めている七星家の現当主、七星 厳正だ。何の用だ?まさか、潜入そうそう気づかれたか?


『会議中』のプレートが掛けられた理事長室のドアをコンコンとノックする。


「失礼します」


先生は返答を待たずしてドアを開け、中に踏み入る。


「連れてきました理事長」


「ご苦労、入ってきなさい」


渋い、そんな印象を最初に受けた。ただ、声を聴いただけなのだが、体が本王が警戒しろと叫んでいる。なるほど、相応の覚悟が必要なようだ。


俺は、中に足を踏みえれた。


「失礼します」


中を見回すと、やはり最初に目につくのは隙間なく置かれた本棚だろう。几帳面なぐらいにジャンルとサイズとで区別され、かつ日差しに焼かれないよう窓からの角度も配慮されている。スライド式の本棚にはざっくりと2000冊ほどの蔵書がある。机に置かれた純銀軸の万年筆屋、ギロチン式のシガーカッターも実にセンスがあり、めちゃめちゃ仕事のできる男の仕事部屋と言っても遜色はない。


そんなことを現実逃避気味に考えていた。が、この男の声で現実に引き戻された。


「呼び出してすまないな。まあ、座りたまえ」


大人しく俺は、ソファーに身を沈めた。


「では、私はこれで」


先生は、急いで扉を閉め出て行ってしまった。


俺が理事長のほうに向きなおった瞬間・・・空気が死んだ。


無言。無音。呼吸すら止めそうになった。俺を襲ったのは、自身を覆う空気が凍結したかのような、痛いほどに冷たい感覚。平和極まりない学校に存在する事自体が不自然な、あまりにも場違いな空気。

殺される、逃げるか、抵抗しろ。本能が身体に囁き掛けて、反射で俺も殺気を返していた。


「ほう」


理事長は俺の反射的に出した手加減抜きの鋭利な殺気に、しかし臆する事無く感心と関心を覚えたように笑った。そして、瞬時に俺を守るように展開されていく氷の盾を目に入れ、目を細めた。


次第に殺気が収まっていく。それと同時に俺も我を取り戻し、殺気を収めた・・・。同時に、氷の盾も霧散する。


「悪かったね、冬空君。君を試すような真似をして」


さっきの殺気が嘘だったかのように部屋に落ち着きが取り戻されていく。まるで先ほどのことが夢だったかのようである。だが、さっきとは明らかに下がった部屋の室温がさっきのことが夢ではないことを示していた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


呼吸が思い出したように行われる。冷汗が、顎を伝ってフローリングに落ちる。


彼は、少し申し訳なさそうにこちらを見て謝罪した。今度は彼は、葉巻を取り出して先ほどの殺気が嘘のように優雅に、ゆっくりとマッチであぶって火をつける。唇に加えてからゆっくり息を吸いゆっくり吐く。煙を曇らせながら 彼はゆっくりとこちらを見た。


改めて、これの外見を見る。黒い髪の毛に青い瞳。短く切りそろえられた髪は、老いを全く感じさせないほどつやがあり、その瞳は確固たる強者の念がこもっていた。


「どうしても確かめたいことがあってな」


「確かめたいことですか?」


「君が、冬天 可憐の弟であるかどうか」


「ッ・・・」


全くの予想外な方向からの不意打ちに俺の動きは止まった。その後、後悔の念と、納得が押し寄せてきた。予想は出来ていたことだ、この男はあの事件にかかわっていたのだから。


ただ、余り思い出したくなかった・・・。


「殺気をぶつけた程度で、俺が誰か分かるんですか?」


「分かるとも、あの氷の盾は君が展開したものではない。そうでだろう」


「・・・」


「あれは、まぎれもない可憐の魔力だった。死してもなお、弟を守ろうと可憐が君にかけた守護結界だ」


「お前が、それ以上その名前を口に出すな」


自分でも底冷えする程、低い声が出たと思う。自分よりもはるかに格上によくもまあこんな態度をとるものだと、冷静な部分の俺が嗤う。


「・・・確かめたかったのはこれだけだ。非常に強引な手段い出てしまったことは謝らせてほしい。・・・すまなかった」


七星厳正は、頭を下げた。


「・・・謝罪は受け取りました。俺のことを詮索しないのを条件に今日のことは忘れることにします」


「ああ、それで構わない。すまなかった」


「・・・誰に謝っているつもりなんですか?」


「ッ・・・・・」


俺は、そのまま扉の前まで足を運んだ。


「失礼します」


振り返らずに俺は部屋を出て、扉を閉めた。





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