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冒険者見習いの男の子とスミス見習いの女の子が確実に仲良くなっていくことを師匠に茶化されつつ、スミス見習いの女の子と一緒に考えた冒険者見習いの男の子の理想がはっきりとする話


「――で、そうすると……」

「おおっ! なるほど! それで強度が出るってことですね!」

 エマの説明を聞いてエリックがぱっと表情を明るして答える。

「そ、そうです……そう……」

「いやすげっ! これってここで実際に使われてるんですか!?」

「そうです、師匠が一番得意にしてます……」

「すっげぇ! すっげぇ! プロってすげぇ!」

 エマが驚くのを尻目にエリックは声を高々と上げながら興奮したように何度もすごいすごいと繰り返す。最初にやってきたときの一歩引いたような様子はどこかへと消え、まるで子供のようである。


「……そんなにすごいですか?」

 あまりにもすごいすごいと繰り返すのでエマもなんだか嬉しくなってくる。

「すっげ……あ、すごいですって! 僕こんなものが剣の中に入ってるなんて全然知りませんでしたよ!」

 エリックが称賛しているのはモンスターの素材を超高温で熱して棒状に固めたものを剣の中心に入れる『硬芯構造』という技術。残念ながら知識はあるもののエマにはまだやらせてもらったことがない方法である。

「まぁ……師匠は本当にすごい人だから……」

 褒めてくれるのはうれしいが知識を知っていても自分ではできないものを褒められるのはどこか複雑な気分になってしまう。


「何言ってるんですか、エマさんだってすごいですよ!」

 するとエリックがそれを否定するように言った。

「エマさんの教えかたすごく分かりやすかったですよ?」

「え、でも私知ってるだけで……実際にはまだやったことないですし……」

「でも知ってるってことはちゃんと分かってるってことじゃないですか、ほら人に教えられる人はちゃんと身についてるとかって言いますし」

「そう……ですかね?」

「きっとエマさんはいい鍛冶師スミスになれると思いますよ?」

 エリックが言ってくれた言葉はじんわりとエマの心に染みわたるようであった。


「それでこっちが……刀身に硬化剤を塗るっていうやり方ですね」

「はぁ……そう言うのもあるんですね……今までのと比べると変……というか変わってますね、塗ったら研ぐときに落ちちゃうんじゃないんですか?」

「私もそう思ったんですけど、骨刀だと中に沁みこむので大丈夫なんですよ、あっそうだ変わったやり方と言えば他にもですね……」

 それからすっかり意気投合して柔らかな雰囲気となった二人は並んで図面をのぞき込んでは話し合うということに夢中になった。

 エマが説明するたびにエリックは満点のリアクションで返してくれるのでエマも説明するのが楽しくなってきた。


 するとその時、扉がノックする音が室内に響いてきた。音が聞こえた瞬間、エマは慌ててぱっと席を立つと反対側、元々エリックが座っていた方へと腰を下ろした。

「やぁ待たせたね」

 エマが腰を下ろした直後にアンが室内に入って来た。

「お、お疲れまさですっ!」

 アンが急いで作った笑顔でそれに答える。

「なんでさっきと座ってるところ逆になってるの?」

 アンはさっそくその矛盾点を的確に突いてくる。


「えっと……それは……」

「ま、いーけどさ」

 どうにかうまいことを言おうとしているエマに意味深な表情を送ったのちにエリックの方へと視線を送った。

「そんで、何か煮詰まったかい?」

「……はい、エマさんにもいろいろ教えてもらいました」

「へぇ、そうなの?」

「すごい分かりやすくて、すごく参考になりました」

「だそうだよ、よかったね、エマ」

 アンのニヤニヤとした顔を受けてエマは逃げるようにそっと視線を泳がせた。

「それで? どうなった?」

「種類はやっぱり剣がいいです。小刀ナイフみたいな小さいものは好みじゃないですし、でも長すぎるのもたぶん扱いきれないと思うのでなんというか少し短めの片手剣、って感じがいいと思いました」

 アンの質問に対してエリックは自分の答えを口にしていく。


「なるほど、素材についてはどう思う? それによって重さも変わってくる、あと当然作る難易度もだ」

「重すぎても多分扱えないと思います……かといってモンスターの素材を削るような技術も僕は持ってないです。なので……基本的には金属を中心にしたシンプルなものが一番いいと思いました」

「……シンプル、ってのは逆に言えば壊れやすさをはらんでいるっていうことでもあるけれど、どうする? 長く使うんだったらやっぱり刀身にモンスターの牙あたりをつかうのは妥協できないね」

「そう、ですよね……」

「こっちでギフトスネークの牙の削り出しぐらいならをやってあげてもいいけれど?」


 アンが提案してきたのはやはりモンスターの素材を使うという方法。

 理論的にも物理的にもそれが一番いいことであるのは確かであった。しかしそれはエリックの中にある剣のイメージとは何か違うのだ。

 モンスターの素材、特に骨や牙、角あたりをそのまま削って刀身に使ういわゆる『骨刀』というのは武器としてはごく一般的な使い方であり、とくに珍しいものではない。

 むしろモンスターの武器として機能している部分をそのまま流用することによって素材や加工の方法によっては金属を超える切れ味や強度すらも十分に持ちえる。

 しかし性能だけが武器ではないとエリックはずっと考えていた。


 というかぶっちゃけいうと剣の魂というか本体ともいえるような刃の部分が骨とか牙で出来てるとなんかダサいのである。

 エリックの中の剣はもっとこう重厚な厚みを持った金属の刀身をきらりと光らせてモンスターを一刀両断し、戦いで汚れた刀身をぬぐうと再び輝きを取り戻すとかそういうものに憧れたからこそ剣を持ちたいと思ったのが始まりだ。

 ぜんぜん光りすらしない茶色や薄灰色の刀身を持っても正直あんまりかっこいい剣を持っている! という気分になれないような気がしていた。

 もちろんこれは完全に好みの問題なのでどう考えても自己中な考え方に他ならない、しかしそんなことを考えているうちにエリックの中にある考えも同時に浮かんできたのも事実であった。

 エリックはその浮かんできた方の考えをアンへとぶつけてみる。


「あの、ちょっと聞きたいんですけれど……『硬芯構造』ってありますよね? あれって『柄の方に入れる』ことってできるんですか?」

「柄……そりゃ、まぁ出来るさ。むしろ刃の部分に入れるより簡単だ、長さも使う量も当然少なくなるだろうしね」

 アンがいぶかしげな表情をしつつ答えるのを聞いてエリックは内心で良しと思う。

「じゃあ……刃は薄めの金属だけの構造にして、柄を出来るかぎり丈夫にする、っていうのが一番僕はいいと、思います」

「……面白いことを考えるね」

 エリックが言ったこと聞いてアンが呟く。


 硬芯構造というのは金属製の刃の中心に金属よりも強固なモンスターの素材をつかった『芯』をいれることによって強度、軽さ、手入れのしやすさなどを併せ持った刃を作り上げるという技術である。

 あらかじめ作った金属の刃を左右対称になるように縦に割り、そこに超高温の処理を行って細長い棒状に加工したモンスターの素材を入れ、再び元に戻すという工程で作られる。


 だが元々細長い刀剣の刃を縦に割らなければならないことやモンスターの素材を棒状にするということにも非常に高度な技術が必要となるので鍛冶師でもなりたての頃にはできない手法として知られている。

 その分中心に強固な素材が入っているために曲がる、折れるなどの破損が起こりにくくなり、表面は金属なので通常の方法で研ぐことができ、手入れもしやすいという特徴を持つ。


(……なんで柄に硬芯構造?)

 それゆえにエマはエリックがなにを言っているのかさっぱりわからずにただただ疑問に思うばかりであった。

 刃に強度を持たせるために芯を入れるのにどうして持ち手の部分にそれをする必要があるのだろうか。それをしたところで単にモンスターの素材の分だけ値段が高くなるだけにしかならないのではないか。

「つまり坊やは、柄に強度を持たせたいってことだね?」

「……そうです」

 エマが疑問に思う中、アンがすぐさま核心を突いた答えを返していく。


「柄に……強度?」

 しかしそれを聞いてもエマはまだ理解できない、するとその呟きを聞いたエリックが説明するように答え始める。

「確かに、柄だけを丈夫にしてもあんまり意味はないのかもしれませんけど……でもきっと今の僕じゃ、本当に望んでいるものを手にすることはできない気がするんです。だから、こう……今は今の僕に相応しいものを使うのがやっぱりいいと思うんです、変に背伸びしても、使いこなせなくて、結局中途半端になると思います」

「……妥協しちゃうんですか?」

「そ、そうじゃなくて……なんていうのかな……まずは僕が成長するほうが大事、というか、それまでは、むしろ刃の方は壊れやすい方がいいんじゃないのかな……なんて」

 たどたどしくエリックは話していく。


「剣は消耗品で、いつかは取り替えないといけなくなります、だけど丈夫な柄を作って刃の部分は取り外し可能な造りにすれば、いつまで経ってもそれは自分の剣、みたいな感じになるんじゃないか……いつか壊れても、初めて自分が持った感触っていうのを忘れずにいられるというか……何があっても自分の剣であるということは変わらない、というか……」

「よし、わかった」

 エリックの話を打ち切るようにアンが言った。

「あんたが今、何をしたいのかよく分かった、その通りにしよう、こっちでも最大限協力する」

 アンは今までで最高の顔を浮かべながら答えた。


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