建築家?フェルナン
アメリアは、内心の不穏な考察を顔に出さぬよう、涼しい顔をして書類を差し出した。
「フェルナン・ド・ヴォルテ。王立建築局に努めております。」
男は書類を受け取りながら、名乗った。
次いで、アメリアの顔をまっすぐに見た。
「あなたは?」
貴族なのかしら?どちらでもアメリアは、悪くないわと思った。
「アメリア・ド・デルカノ」
「候爵令嬢の」と男は、つぶやき目を細めた。
「近寄りがたい方だと聞いておりました。見目は麗しく、頭が切れる。そうして一筋縄ではいかないと、もっぱらの評判で」
アメリアは、わずかに片眉を上げた。
お世辞でも貶すでもない、ただの感想のような言い方だった。
「愚直な物言いですね。」
「図面と数字ばかりを相手にしていると、余計な装飾をそぎ落とす癖がついてしまうのでしょうか、職業病と見逃してくださると助かるのですが…」
フェルナンは少し困ったような顔で言った。
謝罪なのか自己紹介なのか、判然としない口ぶりだった。
そう言って、フェルナンはまだ床に散らばった、調査書やらを集めるべくしゃがみ込んだ。
助手らしき者達も見られる。
貴族らしくない行動だと思ったが、アメリアは、しばらくその場から動かなかった。
子供の父親候補に、建築家というのは考えたことがなかった。
頭脳派で、かつ肉体派。
ーーーーいやいや、待て私ーー
アメリアは、自分の思考回路に、若干の呆れを覚えながら、足元のもう1枚を拾い上げ無言で差し出した。




