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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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72話 それぞれの一ヶ月

 オイヴィの家で世話になるようになり、早いもので一ヶ月の時間が経っていた。


 オイヴィが丹精込めて三本の剣を打ってくれているのだ。

 テオドラの剣とカタナ、そして、俺のミスリルソードだ。


 テオドラのカタナが一番最初に完成し、次いでテオドラの剣が出来上がっていた。

 現在は、俺のミスリルソードを鍛えてもらっている。

 ……二番目に俺のをやってくれればよかったのに。


「素晴らしい……」


 剣とカタナが出来てから、テオドラは自身の剣とカタナを眺める時間がグッと増えていた。もはや魅入られていると言っていいレベルだ。


 ……いいなぁ、俺の剣も早く出来ないかなぁ。


 オイヴィ曰く、「ヌシはテオドラほど剣を究めておらんからの。強度を少し上げておいた方がいいじゃろう? 焦らずどっしり構えて待っておれ」とのことだった。

 俺の扱い方は危なっかしいってことか?

 俺だってなぁ、この一ヶ月で相当剣の腕を上げたんだぞ。


 ……テオドラの稽古、マジきつかった。半端ない鬼畜っぷりだ。


 全力の模擬戦を行った直後に「準備運動はこれくらいでいいかな」とか言うのだ。

 あいつ、心臓がミスリル製に違いないと思っていたが……魔石製なんじゃねぇの?


 ようやく俺も、テオドラのペースについて行けるようになったと思ったら、カタナが完成して、テオドラのヤツは稽古をさっさと切り上げるようになりやがった。眺めたいのだとかで『眺めタイム』の導入だ。

 ……俺はもっと稽古をしたいんだがな。


 仕方なく、俺は有り余る体力を独自の練習メニューで発散させる毎日だ。

 ……あぁ、早く俺のミスリルソード出来ないかなぁ。


「……ただいま」


 空がすっかり暗くなってから、フランカとバプティストが揃って戻ってくる。

 この二人も、あれからずっと魔法の修業を行っている。

 あれ以降、フランカの魔力が暴走することはなく、魔力コントロールの技術が上がったのだろうと予測出来る。

 事実、フランカの体内に宿る魔力は以前に比べて随分と穏やかになっている。

 纏まりがあると言ってもいいし、もう少し良く言えば、洗練されている感じだ。

 そして、魔力の回復速度も急激に上がっている。

 夜帰ってくる頃には、いつも空っぽになっている魔力が、一晩寝ると相当量回復しているのだ。酷使して回復させる、そんな行為を繰り返しているためか、フランカの魔力量が以前より上がったような気がする。

 フル回復した状態をここ最近見ていないから、断言は出来ないけれど。おそらく、かなり魔力を上げたはずだ。

 量も質も、フランカは一ヶ月前と比べて数段レベルを上げている。


「姉さん、桶にお湯を張ってきやした! さぁ、疲れた足を浸けて癒してください!」


 まぁ、バプティストの変貌ぶりの方が驚かされるけどな。


「ん? なんすか、王子? あ、フランカ姉さんのお御足に見惚れてたんですか? ダメですよ、女性をそんな目で見ちゃあ。いくら姉さんが王子のことを……」

「……バプティスト。黙って」

「はっ! すみませんでした!」


 あの人見知りで、口を開けばもごもごしゃべっていたバプティストが、こんなにはっきりきびきびと言葉を発するようになるとは…………フランカ、お前、何したんだよ?

 バプティストは、目を覆っていた前髪を短く切り、おまけにアップにしている。おかげでおでこが全開だ。『アルド』の刺青がはっきりと見て取れる。

 ……別人だろ、これはもう。


「姉さん、お詫びにお御足を拭かせていただきます!」


 バプティストは桶の湯に足を浸けているフランカの隣に膝をつき、手拭いを構える。


「……触るな」


 が、フランカに物凄く冷たい視線を向けられ硬直していた。

 怨嗟のオーラが凄まじい。

 こんなに尽くしているのに、フランカはバプティストに冷たい。……そういうプレイなのか?


「……女性の肌に気安く触れる男は最低」

「はっ! 申し訳ありません!」


 ビシッと背筋を伸ばし立ち上がると、バプティストは直角に腰を折り頭を下げる。

 きちんと躾けられてるなぁ。


「バプティスト、お手」

「え?」


 手のひらを上向けてバプティストに差し出す。

 いや、躾が行き届いてるから、俺の言うことも聞くかと思ってな。


 と、バプティストは「ははぁ……なるほど」と、何かに納得したような笑みを浮かべる。

 そして、手に持っていた手拭いを俺の差し出した手の上に置いた。

 ……ん?


「姉さん。王子がどうしても姉さんのお御足を拭きたいそうなんですが、いかがいたしましょう?」

「いやいや」


 違う、そうじゃない。

 なんで俺が、こんな下働きみたいなことを率先してやらなきゃいけないんだよ。

 だいたい、フランカはさっき気安く触るなって言ってたんだし、今回もきっぱりと断られて……


「……………………」


 あれぇ?

 なんでなんも言わないの?

 で、なんで向こう向いたまま、こっち見ないの?

 微かに耳が赤くなってない?


「…………そう」


 短く呟くと、フランカは水面を波立たせないくらいにそっと、足をお湯から出して、桶の淵へと乗せた。

 温まって、白い脚が薄桃色に染まっている。


「さ、王子」


 俺の背を押すバプティスト。

 いや、……「さ」と言われても……


 背を押され、「姉さんの足が冷えてしまいます」と急かされ、俺は向こうを向いたままのフランカの前に膝をつく。

 なんだろうか、この屈辱感……

 なんだかとっても負けた気分になる。


 まぁ、風邪を引かれると困るので、拭いてやるか。

 腕を伸ばし、フランカのふくらはぎにそっと触れる。


「……ひゃぅっ」


 指が触れた途端、フランカが可愛らしい声を漏らす。

 視線を向けると、耳がさっきよりも赤く染まっていた。

 向こうを向いているので顔は見えないが、首も赤く染まっている。


 とにかく拭いてやるかと、フランカの脚を持ち上げる。と、バランスを崩したのか、フランカが椅子の背もたれに身を預けるように姿勢を崩し、背もたれにギュッと掴まった。

 背中が完全にこちらを向いている。


「……さ、【搾乳】」

「ん? なんだ?」


 背を向けて、椅子にしがみついて、脚を俺に持たれた格好で、フランカは微かに震えた声で言う。


「……な、舐めるのは……ダメ」

「拭くんだよ!」


 なぜ舐めると思ったのか。

 今は別に魔力は必要としていない。

 それに、ここで足の裏を舐めたりしたらすぐ『バイン!』しちゃうだろうが。


 まったくもって意味が分からん。

 なのに、俺の隣ではバプティストが訳知り顔でうんうんと頷いていた。

 なに、こいつ? ウゼェ。


 俺は持ち上げたフランカの足の裏をペロッと舐める。


「……ぅひゃんっ!?」


 そして、奪った魔力をそのままバプティストに向けて放つ。


「どごっぅっ!?」


 バプティストの腹に拳大の岩石がめり込み、バプティストはその場にうずくまる。

 俺の隣でドヤ顔を晒すからだ。ざまぁみろ。

 と、視線を戻すと……フランカが椅子から転げ落ち、桶の中の湯を盛大にぶちまけていた。

 イスから転げ落ちた時に、俺が脚を持っていたせいで受け身が取れなかったのだろう。

 まったく……


「何やってんだよ?」

「……誰の、せいだと思ってるの?」


 誰のせいかって?

 そりゃあ、バプティストと、バプティストの躾を怠った飼い主の責任だな。

 つまり、フランカに半分責任があるわけだ。

 お、謝る必要ないじゃん。


「とりあえず足を拭いてやるな」

「……もういい。全身びしょ濡れだから……お風呂に入ってくる」

「ん? そうか」


 拭かなくていいと言うのであればそれでいい。

 足を解放してやると、フランカは横座りの格好で両手を床につけて項垂れていた。


「……舐めるなって言ったのに…………」


 なんだか知らんが妙に疲れている。

 まぁ、仕方ないか。こう毎日魔法の修業をしていりゃあな。


「テオドラ。風呂って沸いてたか?」

「む? ああ。いつでも入れるぞ。夕飯も作ってある。だから、あと少しワタシのことは放っておいてくれまいか? 今、斜め下から見上げた時のカタナの美しさに浸っているところなのだ」

「刃物マニアかよ……」


 オルミクル村の変態武器屋を思い出して背筋がうすら寒くなるのを覚えた。

 刃物に頬擦りとかやめてくれよ?


「……じゃあ、お風呂に入ってくる」

「おぉ」

「……バプティスト」

「は………………はい……!」


 蹲りながらも、フランカの呼びかけにはきっちり返事をするバプティスト。……だから、お前らの関係はどうなってんだよ?


「……お風呂に入るわ。ついてきて」

「……は、はい……」

「おい、まさか、一緒に入るのか?」

「……そんなわけないでしょ? 覗きが出ないように見張りに立たせるのよ」


『覗き』と言いながら、俺を指さしやがった。


「む? それなら、ここに置いておけばいいのではないか?」


 テオドラが、カタナ越しにフランカに進言する。


「……それもそうね」


 で、フランカは納得するわけだ。

 お前ら、酷ぇな。


「……私が出て来るまで、【搾乳】から目を離さないように」

「……りょ、了解です、姉さん!」


 言い残して、フランカは風呂場へ向かった。

 驚くほど信用されてないんだな、俺は。


「ショックだぜ。俺のことを、覗きをするような卑劣な男だと思っているなんて……」

「君、つい今しがた自分が何をしたのか、覚えていないのか?」

「バプティストの躾だが?」

「いや、その前に…………まぁ、いいか。とにかく、フランカが出て来るまではこの部屋から出ないようにな」

「じゃあ、テオドラが風呂に入るまでは大人しくしておくよ」

「や、やめてくれまいか!? 冗談でもそういうことを言うのは!」


 テオドラはガバッと身を乗り出し、危うくカタナで自分の顔を斬りそうになっていた。

 危ねぇなぁ……

 よく切れるように生まれ変わったんだから、前以上に気を付けろよ。


 と、その時。

 ずっと鳴り響いていた金属音が止んだ。

 今日の鍛冶仕事が終わったのだろう。


 汗だくのオイヴィが腕で額の汗を拭いながら俺たちのいる居間へと入ってきた。


「テオドラ、腹が減ったぞ。飯の準備をしてくりゃれ」

「はい。ただいま」


 舐めるように眺めていたカタナを鞘へとしまい、テオドラが立ち上がる。


「温めておきますから、先にお風呂に入ってきてください」

「うむ。そうするかの」


 そう言って、オイヴィは俺へと視線を向ける。


「覗くでないぞ?」

「なぜどいつもこいつも同じことを言うのか……」


 そもそも、お前もフランカも、覗くに値するような膨らみを持っていないじゃねぇか。

 ハイリスクローリターンじゃねぇか。


「ふむ。何か失礼なことを考えおったの? ヌシの剣、途中で中止してやってもよいのじゃぞ?」

「すまんかった。何が何でも覗きに行くと約束しよう!」

「それはそれで困るのじゃがの」


 じゃあどうしろと言うのだ?

 俺につるぺた信仰をしろとでもいうのか?

 どうせ覗くなら、ルゥシールくらいのダイナミックなヤツにするわ。


「ご主人さん!」


 ルゥシールのことを考えた時、タイミングよくルゥシールが居間へと飛び込んできた。


「見てください! わたしが造った玉鋼です! 筋がいいってオイヴィさんに褒められたんですよ! それから、今日は相槌も打たせてもらって! 鉄って熱いんですけど、打つたびに飛び散る火花は本当に綺麗で、向き合っていると色々語りかけてくるみたいなんですよね! わたし、今日初めて鋼の声を聞いた気がします!」


 オイヴィと同じく汗だくで、すすに汚れた黒い顔をキラキラ輝かせている。


「わたし、鍛冶師としてやっていけるかもしれません!」


 この一ヶ月で一番変わったのはこいつかもしれない。

 ……まさか、ダークドラゴンが鍛冶師の見習いになるとはなぁ。


 ルゥシールの特技に、鍛冶師が追加された。

 目にも留まらぬ速度で移動出来る鍛冶師か…………需要、ねぇなぁ。


 しかし…………


「あれ? どうかしましたか、ご主人さん?」


 鍛冶場はとにかく暑いようで、オイヴィもルゥシールも、作業中は薄いシャツ一枚になっている。その薄いシャツが汗でぺったりと体に張りつく、微かに透けて…………

 濡れた髪と相まって……何ともエロイ。


「お前、鍛冶師に向いているかもしれんな」

「でしょう!? 今日もオイヴィさんに褒められたことがあって……!」

「ルゥシールよ、こやつはヌシの思うような意味合いでは言うておらんぞ」


 オイヴィに指摘されるが、ルゥシールは理解が及ばないようで、アホみたいな顔で小首を傾げている。


「とにかく、風呂じゃ。ルゥシール、ヌシも一緒にこい」

「はい! あ、ご主人さん。覗いちゃダメですからね?」

「なぜだ?」

「説明が必要ですか!?」

 ルゥシールが驚く隣で、オイヴィは不満げに頬を膨らませる。


「ヌシよ。ワの時と反応が違うのではないか? ワの身体も、そう捨てたものではないのだぞ?」

「お前は覗かれたいのか覗かれたくないのか、どっちなんだよ?」

「ヌシのようなお子様に見られたところで、物の数には入らんわな」

「じゃあ、俺も一緒に入る!」

「ダメですよっ!?」

「え、なぜだ?」

「だから、説明が必要ですか!? 本当に必要なんですかっ!?」


 折角オイヴィがいいと言っているのに。


「今、風呂場には姉さんもいますんで、王子には自重していただきたく思います」


 いつの間にかダメージから立ち直っていたバプティストが、俺にそんなことを言う。


「なんじゃ。フランカも入っておるのかや?」

「はい。王子が姉さんの足の裏を舐めたため、桶の湯をひっくり返してしまいまして」

「……何をやっておるんじゃ、ヌシは?」

「いや、悪いのはこいつだからな?」


 呆れた視線を向けてくるオイヴィに、俺は自分の正当性を訴え、元凶であるバプティストを指さす。


「とにかく、ワ以外にルゥシールとフランカもおるでな、覗くんじゃないぞ、ヌシよ」


 何度目かになる釘を刺された。

 俺は、そんなに信用ないのか?


「日頃の行いを見ていれば分かりそうなもんだが……」

「日頃の行いを見た結果、何度も釘を刺されているんですよ、ご主人さんは……」


 非常に残念そうな顔つきでルゥシールが言う。

 解せんな。


 ルゥシールと連れだって、オイヴィが風呂場へ向かう。

 その間に、テオドラは夕飯の準備を滞りなく済ませていく。

 居間には囲炉裏と呼ばれる床に組み込まれた暖房兼調理場があり、その上に鉄鍋をかけて温めていく。盛りだくさんの野菜と獣の肉が柔らかく煮込まれていく。

 川で獲れた魚を串刺しにして囲炉裏の淵に沿って並べていく。単純な調理方法だが、こいつに塩を振って食うのが格別に美味いのだ。


 そんな、何とも言えないまったりとした空間で、バプティストはジッと俺を見つめ続けていた。…………覗かねぇつってんだろ。


 食事の準備が整う頃、ルゥシールがさっぱりとした表情で居間へと戻ってきた。

 濡れた髪をタオルで拭きながら。二つの髪留めは手首にはめられている。


「いい気分でしたぁ」


 俺は、今いい気分になっているぞ。

 濡れた髪、上気した肌、微かに水滴のついた首筋、頭を拭く際に浮かび上がる鎖骨。

 そして、いつもよりも気の緩んだ寝間着。

 最高だ。


 そして、気分上々なルゥシールからやや遅れて、オイヴィとフランカが戻ってきた。

 ……この世の終わりのような顔をして。


「…………不公平にもほどがあるのじゃ」

「…………あれは人間の規格から大きく逸脱している……比べるだけ無意味」


 何かに打ちのめされたようで、二人は言葉少なく囲炉裏の周りに腰を下ろした。

 苦しそうに胸元を押さえている。……湯あたりか?


「さぁ、たんと召し上がってください!」


 テオドラが手を広げて、みんなに食事を勧める。

 テオドラに器を渡すと、バランスよく美味しそうに盛りつけてくれるのだ。こういうところも才能なんだろうな。

 もしくは、親の教育の賜物か?

 いい親だったのかもしれないな。…………加齢臭のイメージしかないのが申し訳ないところだが。


「ところで、物は相談なんじゃがの」


 塩焼きにした魚にかぶりつきながら、オイヴィが俺を見て言う。


「ヌシの剣には、かなり強力な魔力耐性を付加させたいと思うておるんじゃが。どうせ、ヌシの魔法は微調整など出来ぬ力任せなんじゃろ?」

「そんなことは…………まぁ、そうかもな」


 フランカたちを見ていると、いかに俺の魔法は燃費が悪いかが分かる。

 どうも俺はその微調整というものが苦手なようだ。

 そういえば、剣にしても、テオドラは力の加減が絶妙で、威力は俺の何十倍もあるのに俺に比べて疲労は全然ないようだった。これも微調整の賜物か?


「いい剣を打っても、すぐに壊れてしまったのでは意味がないからの。ミスリルに少し違う鉱石を混ぜたいと思うんじゃが……その鉱石は貴重での、ある場所まで行かねば手に入らんのじゃ」

「つまり、それを取ってこいってことか?」

「うむ。話が早くて助かるの」


 満面の笑みを浮かべるオイヴィ。

 まんまとお遣いを頼まれてしまった。


 まぁ、ここ最近は稽古不足で体力を持て余していたから丁度いいか。

 それに、俺の剣がより頑丈になるのなら、申し分なしだ。


「サフラージャンバリーという鉱石なんじゃがの」

「あぁ、この前見せてもらった、あの深い藍色の石ですね?」

「うむ、そうじゃ」


 どうやら、ルゥシールは以前に見たことがあるらしい。……お前、どこまで鍛冶師に近付いてるんだよ?


「ワはついて行けんので、ルゥシールに判断してもらうといい」

「任せてください! 鉱石のことなら、そこらの鍛冶師より詳しいです!」


 どんと胸を叩き、ぽよんと乳を揺らすルゥシール。

 ……いや、そこらの鍛冶師を追い抜いてんじゃねぇよ。


「ワタシもお供しよう」

「……私も」


 テオドラとフランカが供に名乗り出てくれる。


「そうじゃの。少々厄介な魔獣が出るでの。その方が安全じゃろう」

「魔獣が出るのか?」

「この世界で、魔獣が出ん場所などなかろうに」


 それもそうか。


 じゃあ、バプティストもつれて行こうか。と、思ったのだが……


「バプティストはワの手伝いじゃ。本来であれば、ルゥシールではなくヌシに基礎を教えておくはずだったのじゃがの」


 フランカにつきっきりで、バプティストは鍛冶の基礎ではなく、騎士団や軍隊の基礎を身に着けていた。つまりは『上司の言うことは絶対』の精神だ。


「サフラージャンバリーが手に入れば、完成もすぐそこじゃ。頑張ってくりゃれや?」

「分かった。明日の朝一で出かけよう。みんな準備をしておけよ」


 俺の言葉に、ルゥシールとフランカ、テオドラは同時に頷く。


「生まれ変わったワタシの剣とカタナの試し切りが出来そうだ」

「……日頃の成果を試す、絶好のチャンス」


 こいつらには、それぞれ思惑があるようだ。

 かくいう俺も、稽古でどれだけ強くなれたのかを試してみたい。やっぱり、実戦は練習とは違うからな。良いところも悪いところも、身をもって体感出来る。


「わたしも!」


 ルゥシールが握り拳を作って、高らかに宣言する。


「鍛冶師として、一流の鉱石を見つけ出してみせますっ!」


 ――明後日の方向へ。


「アホのルゥシール。おかわりを頼む」

「……私にもお願い、アホのルゥシール」

「アホのルゥシール。この魚が焼けているぞ。食わぬか?」

「これ、皆の衆。アホのルゥシールが可哀相ではないか」

「姉さんがそう言っているので、自分も! アホのルゥシール!」

「なんですか、みなさん!? わたし、アホじゃないですよっ!?」


 影響されやすいのはアホの証拠だ。

 俺は、俺のミスリルソードが完成したら、可及的速やかにこの町を離れようと、ひそかに誓ったのだった。








ご来訪ありがとうございます。


今回ルゥシールが造ったと言っていた『玉鋼』とは、

砂鉄を物凄い高温で溶かして鉄の塊にしたものです。

え? ……あぁ、違います。カッチカチになったホッカイロとは別物です。

あれも砂鉄が高温になって固まりますけども。それとは別です。


たたら吹きで製図された和鋼のことです。


たたらと言えば、もうずいぶん昔の映画になりますが、もののけ姫の舞台になっていたのがたたら場でしたね。

巨大なふいごを大人数の女衆が踏みしめ鉄を溶かすシーンは印象的でした。


で、このたたら吹き、三日三晩火を途絶えさせることなく焚き続ける必要があるんですが……ルゥシールはやってのけたんでしょうか?


だとしたら、凄い根性です。

まぁ、ドワーフ的な超技術があるのでしょう。


なんにしても、鍛冶師ルゥシールは新人ながら末恐ろしい才能の持ち主かもしれません。


『揺れる鍛冶師』爆誕か!?





バプティストも訓令兵……というか、組の若い衆みたいに変貌を遂げました。

モンスターを育成して進化させる系でたまにある、

「これじゃない」的な進化ですかね?

「なんで、元のこれが、こう進化するんだ!?」みたいなことはよくあることです。

そして、えてして、元には戻せない……


バプティストはフランカにべったりですが、決して恋愛感情は抱いていません。

あくまで、「かっこいい姉さん」なのです。


横恋慕は許しまへん。あきまへんえ!





次回もよろしくお願いいたします!!



とまと

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