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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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73話 最悪のフィールド

 オイヴィが指示した場所は、カジャの街から馬車で二日ほど行った場所にあった。

 俺たちは今、その場所を目指して、割と豪華な馬車に揺られているところだ。

 木製の壁と屋根が付いた立派な客室があり、意匠も凝っている。小窓にはカーテンも引かれており強い日差しを遮ってくれるし、夜は木戸を閉めて寝室代わりにすることも可能だ。……まぁ、ちょっと狭いけどな。

 二人掛けの長椅子が向かい合わせで設けられており、進行方向を向いて俺とルゥシール。俺の向かいにテオドラ、ルゥシールの向かいにフランカが座っている。

 この豪華な馬車は、オイヴィが話をつけてくれて、カジャの最長老タルコットが用意してくれたものだ。御者まで用意してくれたのは助かった。馬車の操縦は難しいからな。


 とはいえ……


「……ドラゴンになったルゥシールに乗ってくればもう少し楽だった」


 悪路続きの馬車の旅は、乗っているだけでも体力的にきつい。

 フランカは乗り物酔いをしているようだ。

 進行方向とは逆を向いているから、余計に酔うのだろう。


「……みんなで、素っ裸のルゥシールに跨ってくればよかった……」

「言い方に悪意がありますよ、フランカさん!?」

「……ただの八つ当たり……気にしないで」

「あぁ。だったら気にしな…………気にしますよ!?」


 おぉ、ノリツッコミだ。腕を上げたなルゥシール。


「……お尻が痛い」


 気持ち悪いうえに、何度も跳ねる車体に尻を打ちつけて、フランカは泣きそうな表情だ。

 せめて、痛みだけでもやわらげてやりたい。


「さすってやろうか?」

「……刺してやろうか?」


 違う。

 そんなちょっとうまい返しを求めてたわけじゃない。


 と、そんなことをしている間にも、ガタンと馬車は大きく揺れる。

 フランカは小窓にしがみつき、外の空気を必死に吸い込んでいる。


「……ルゥシールが素っ裸になりさえしていれば……っ!」

「果てしない荒野に向かって、何を叫んでいるんですかっ!?」


 フランカの言う通り、俺たちの乗った馬車は、どこまでも続いていそうな広大な荒野を走っていた。

 カジャの周りは広大な平地に囲まれているんだな。オルミクル村からカジャに行く途中も、こんな風景だった。ただ、そっちの平地は草木が生えていたが、こっちは完全に荒野だ。乾いた土がむき出しで、砂埃が酷い。

 草の有無が車輪に与える影響がどれくらいあるのかは分からんが、こうも乾いた土が続くと、尻が痛むのをその土壌のせいにしたくなるな。


「……おっしりーん!」

「フランカさん! それはご主人さんが以前言っていた言葉ですよっ!? 同レベルに堕ちないでください!」


 おいおい、ルゥシール。

 フランカが堕ちて俺と同レベルってことは、デフォルトで俺は随分低いレベルなんだな?

 表出るか、このやろう?


 騒がしいフランカとルゥシール。その隣で、テオドラはずっと静かにしている。

 そうだ。ずっとカタナを眺めているのだ。


「…………美しい」


 だから、目が怖いって。

 刃物マニアの気持ちは一生かかっても理解出来ない気がする。

 目の前に抜身のカタナがあって気が気じゃないんだよ、こっちは。


 と、またガタンと馬車が揺れる。


「おっと」

「ぅおぃっ!?」


 揺れた拍子に、カタナが傾き、俺の顔目掛けて倒れてきた。

 紙一重でよけると、俺の背後の背もたれに「とすっ」と軽い音を鳴らして突き刺さる。

 切れ味がえげつねぇよ……


「なんて乱暴な運転だ。危ないじゃないか」

「危ないのはお前だ! 馬車の中でカタナを抜くのは禁止だ!」

「そんな…………じゃあ、剣の方にする」

「そうそう。そっちなら安全……なわけあるか、ボケェ!」

「おぉ、ご主人さん! ノリツッコミですね!? 腕を上げましたね!」


 なんだか、似たようなことを言い返されてしまった。


「……もう、お尻が限界…………出る」


 と、フランカが突然馬車のドアに手をかける。


「待て待て待て! 危ないから!」

「……酔いも限界」

「進行方向に向いて座れば酔いはマシになるから!」

「……硬い座席にはうんざり」

「じゃあ、俺の膝の上にでも座るか?」

「………………………………………………………………………………いい。騒いでごめん」


 物凄くたっぷり考えた後、フランカは大人しく自分の席へと戻っていった。

 その後、窓の外を向いたまま、急に静かになった。

 ……俺の膝に座るのが、そんなに嫌だったのか?


「これは、狙ってやっているのではないのか?」

「それが……ご主人さんはこれが素なんですよ。天然なんです。だからちょっと困るんです」

「天然なのか……度し難いな」


 俺を挟んでルゥシールとテオドラがひそひそと密談をする。丸聞こえだけどな。

 誰が天然だ。アホのルゥシールと臭フェチのテオドラめ。


 一言文句でも言ってやろうかと思ったのだが、突然車内に流れてきたメロディに、俺は言葉を発するタイミングを失った。

 音の出所へ視線を向けると……フランカが鼻歌を歌っていた。

 窓の外を眺めながら、小さな声で、弾むようなメロディを。


 なんか、物凄く機嫌がよくなっている。何があったんだよ? ……尻の痛さが快感に変わったか?

 あまり深くは突っ込めず、俺はそのメロディを聞きながら、残りの道程を眠って過ごすことにした。







 たどり着いたのは、広大な砂漠地帯だった。

 砂しかない。

 砂地と陸地の境界線があいまいで、砂漠が徐々に高野を侵食している様がうかがえる。

 ぎりぎりまでは馬車で進むことが出来たが、ここから先は徒歩になるらしい。


 オイヴィが用意してくれた荷物の中に、仰々しいまでに分厚いマントがあったからおかしいなとは思っていたのだ。

 身に纏ってみると、非常に重く、暑く、動きにくい。

 ルゥシールの巨乳でさえも覆い隠してしまうほど厚手なのだ。

 着ているのが憂鬱になる。……巨乳も隠れるしな。


 しかし、砂漠を歩く上で肌を覆い隠すマントは欠かせない。

 火傷をしたり、脱水症状を起こす危険があるからな。

 ……と、分かってはいるんだが…………重い。

 思わず愚痴も出るというものだ。


「ようやく馬車の揺れから解放されたと思ったら、ここからは砂漠を歩け歩け大会かよ」


 共感を得たくて発した愚痴だったが、返ってきたのは見当違いな楽しげな声だった。


「凄いですねぇ。わたしこんなに広い砂漠を見たのは初めてです! 砂山作り放題ですね!」

「照り返しが強ければ、一層カタナが美しく映えるな。よし、行こうじゃないか!」


 アホのルゥシールは砂漠の過酷さも知らずに大はしゃぎをしているし、刃物マニアのテオドラは……これはもう病気だな。


「……あいつら、砂漠の過酷さを分かってんのかね…………」

「……大丈夫」


 嘆息する俺の背を、フランカがぽんと叩く。


「……私たちなら、なんだって乗り越えられる」


 そんな力強い言葉と共に、希望に満ちた笑みを向けられる。

 ……こいつ、こんなキャラだったか?

 なんか、馬車の中から妙に上機嫌なんだよな。

 ……やっぱり、痛みが快感に…………


 引き続き深くは突っ込めず、俺は黙って砂漠の中へと足を踏み入れた。







 照り返しが激しく、足が砂に埋もれて歩きにくい。

 からからに乾燥した空気のせいで、汗もすぐに蒸発してしまう。

 喉が渇いて倒れそうだ……


「ルゥシール……その鉱石はどの辺りにあるんだ? 見る限り砂漠しかないが、この先に山でもあるのか?」


 持ち物が簡単な採掘道具のみだったので、簡単に手に入る物だと思っていたのだが……辿り着くまでが大変だったとは……確かに、この砂漠を大がかりな採掘道具を背負って歩くのは無謀というものだ。


 しかし、山にでも入れば、この焼けるような暑さは緩和するだろう。

 例え岩山であっても、採掘場は洞窟のはずだからな。……あぁ、日陰が恋しい。


 だというに……ルゥシールはとんでもないことを言い出した。


「いえ。山はありません」


 山は、ない?

 じゃあ、俺たちはどこに向かっているんだ?


「サフラージャンバリーは、砂の中に埋まっている鉱石なんです」

「そんな鉱石があるか!」

「あるんですよ! この砂漠には特殊な魔力が宿っていて、その中で何百年もの時間をかけて小さな結晶が大きな鉱石に育つんです」

「じゃあ、この砂持って帰って火事場で固めろよ」

「ミスリルソードの完成まで百年かかりますよ?」


 それは御免被りたいな……百年先まで生きている自信はない。


「しかし、ルゥシールよ。これだけ広い砂漠の中、何か目印がないとそんな鉱石を見つけるのは不可能なのではないか?」


 テオドラの言うことはもっともだ。

 掘り返すにしても、どこを掘ればいいのかが分からんとやりようがない。


「目印はありません。砂の中の魔力が結晶化する物ですので、どこに出来るかは予測の仕様がないんです。ですが、探す方法ならあります!」


 そう言って、ルゥシールはオイヴィから預かってきたという大きなカバンからL字型の鉄の棒を二本取り出した。短い辺が15センチ程度で、長い30辺が30センチ程度だ。


「ダウジングです!」


 それは紛れもなくダウジングだった。

 地下水脈などを探り当てる際に用いられた方法で、やり方は簡単。二本のL字鉄を持ち、胸の前で平行になるように構える。で、適当に歩き続けて、L字鉄が自動的に広がった場所の下に探し物が埋まっているのだ。

 実にシンプル!

 それ故に、一切当てに出来ない、眉唾物の手法だ。


「よし。帰ろう」

「待ってください、ご主人さん! 大丈夫ですから! わたし、ちゃんと教わってきましたから!」


 ルゥシールが俺の腰にすがりつく。

 今度はトレジャーハンターにでもなるつもりなのか、こいつは?

 こんなだだっ広い砂漠を、あてもなく歩き回れというのか……冗談じゃない。


「しかし、君のミスリルソードを強化するためにはサフラージャンバリーが必要なのだろう? 根気よく探すしかあるまい?」


 テオドラは、武器に関することでは妥協をしない。

 まぁ、言っていることは正しいし、まさにその通りなのだが……砂漠を歩き回るんだぞ?

 砂漠を歩くのはまぁいい。水もあるし、日よけのマントも着こんでいるからな。

 ただ問題なのは、目当ての物を探す方法がダウジングだということだ。しかも、やるのはルゥシールだ。……成功する未来が見えない。


「……大丈夫。そんな古典的な方法などしなくてもいい」


 クソ熱い砂の上で、冷静な声を発したのはフランカだった。

 この暑い中、真っ黒なマントを頭からすっぽりとかぶり、UV対策はばっちりそうだ。

 涼しげな表情で、いきなり魔法陣を展開する。


「……風で、この付近の砂を吹き飛ばせば、鉱石が露出するはず」


 言うが早いか、フランカは詠唱を始める。

 詠唱速度が上がっている。修業の成果が出ているようだ。


「あ、あのっ! フランカさん、ちょっと待ってくださいっ!」


 ルゥシールが慌てた様子で止めに入るが、その直後に、フランカは魔法名を口にする。


「 ハラズーン・イアサール 」


 その直後、砂漠に巨大な竜巻が発生し、辺り一面の砂を盛大に巻き上げた。

 マントを目深にかぶり、砂が目に入らないよう顔を隠す。

 飛ばされないように四人で身を寄せる。

 舞い上がる幾万幾億の砂粒が容赦なく体に激突してくる。……と。


「痛っだっ!?」


 激痛が走った。

 砂がぶつかっただけだというのに、まるで鋭い針で突き刺されているような、ギリギリ『我慢出来ない』レベルの痛みが全身を襲う。


「いたたたたっ!? な、なんだこの砂は!?」

「……どうなっているの?」


 テオドラもフランカも、全身を襲う痛みに身もだえている。


「にゃぁぁぁあっ!? ここの砂は、魔力を帯びていますので、一粒で凶器になり得ると、オイヴィさんが……っ! にゃあぁああ、痛いですっ!」

「バッ、そういうことは、痛っでぇっ! さ、先に言えっ!」

「言う暇が、みゅ~っ! 痛いですぅっ! なかったじゃないですかっ!?」

「フ、フランカッ、魔法を……いたたたたたっ! 止めてはくれまいかっ!?」

「……無理。修業で威力が上がったから、まだまだ吹き荒れる…………痛っ……」


 その後、全方位から鋭い砂粒が襲いかかるという地獄のような責め苦をたっぷり数十分間味わわされ、俺たちは全員砂漠の上にぶっ倒れていた。

 ちなみに、倒れる時も、砂にぶつかった箇所がハンマーで殴られたような痛みに襲われた。


 なるほど……

 特定の痛みではなく、その場面場面に応じて様々な痛みを与えてくるわけか。

 砂粒の状態なら針のように鋭く、平らに均した砂なら鈍器のような殴打に。おそらく、銃弾や剣のように使うことも可能だろう。

 砂の持つ魔力が状況に応じて変質しているのだ。


 結論。

 この砂漠、ムカつく!


「……しかしだ、諸君。これだけ凶悪な魔力を寄せ集めて生まれた結晶であるならば、武器にした際の威力は相当なものになるだろう。これは価値のある仕事だぞ」


 武器マニアが嬉しそうな声で呟く。

 俺の武器に使う鉱石なのだが……俺の心が折れそうだ。


「テオドラの分も採れたら採って帰るか?」

「よいのかっ!?」

「トレジャーハンター・ルゥシールに頼んでおけば見つけてくれるだろうよ」

「うむ! 頼むぞ、トレジャーハンター・ルゥシール!」

「あの、お二人とも……わたしはトレジャーハンターではなく、鍛冶師見習いですよ?」

「……鍛冶師見習いでもないでしょ」


 フランカが的確なツッコミをする。

 そして、「……修行の成果が裏目に出るなんて……」と、悲しそうに呟いた。

 俺はその呟きを、瞼を閉じて聞いていた。


 ジッと寝転がっていると、砂の魔力が微かだが体力を回復させてくれた。ベッドに敷き詰めておけば、怪我や疲れを癒してくれるかもしれん。

 もっとも、寝返りを打つたびに激痛に襲われるのだろうが……


 ちなみに、砂から魔力を吸い取ろうとしたのだが……粒が小さ過ぎてうまくいかなかった。まとめて手のひらに乗せても、砂漠に手を置いてみても、一粒一粒が小さいせいか、うまくいかなかった。


 だだっ広い砂漠の上で、俺たちは思い思いの格好で体を投げ出し、その後小一時間ほど、その場に倒れ込んでいた。

 今回のミッションは相当に骨が折れるぞ……それでオイヴィは俺たちに採りに越させたのかもしれん。ちょっと多めに採って帰って、二度と頼まれないようにした方がいいだろうな。


 そんなことを思いながら、俺は照りつける太陽から逃れるように、マントの中に顔を隠した。









ご来訪ありがとうございます。



裏路地に続いて、

異国っぽい環境――砂漠でマントです。

日本ではまぁ、お目にかかれない風景ですからね。


砂漠の月というものを、一度見てみたいものです。


暑いのも寒いのも御免ですけども。



今回、最悪のフィールドを最悪たらしめているのは、

一面に広がる魔力を帯びた砂です。


ご主人さんが魔力を吸収するには、粒が小さ過ぎて出来ず、

まとめても上手く吸収出来ません。


何より厄介なのが、この砂に衝撃を与えると内包された魔力が放出され、

触れた者にダメージを与えることです。

一度に多くの砂に衝撃を与えると、魔力が一塊となって巨大なダメージを喰らってしまうというわけです。


砂粒が一粒ぶつかると、ギリギリ『我慢出来ない』痛みが走ります。


さぁ、そんな場所での鉱石探しです。

普通に終わるはずがありません。

一体何が起こるのか………………ヒントは、巨乳!



……あぁ、この作品に関して言えば、それは何のヒントにもなりえない……



砂漠編はサクサク終わらせて、早く町に戻りたいと思います。

一秒でも早くマントを脱ぎ捨てて、ルゥシールの巨乳を堪能したいものです。


というわけで、ちょっとした何かが起こります!



次回もよろしくお願いいたします。



とまと

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