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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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71話 路地裏の迷宮

「いい匂いですぅ……」

「すぐに出来るので、もうしばらく待っていてはくれまいか」

「はい、ここで待っています!」

「いや、向こうで待っていてほしいのだが……」


 夕飯の匂いにつられ、ルゥシールはテオドラの背に張りつくようにその手元を覗き込んでいる。匂いの盗み食いだ。……やりにくそうだなぁ、テオドラ。


「オイヴィは飯を食いに出て来るのか?」


 いまだ、工房からはキンキンと金属を打ちつける音が響いてきている。


「オイヴィは鼻と耳がいいからね。完成と同時に戻ってくると思うよ」


 どこの動物だ、それは。

 ギリギリまで自分の仕事に没頭していたいらしい。


「そう言えば、フランカさんとバプ…………パ…………ボ?」

「バプティストか?」

「そうです、それティストさんです!」

「いや、言えてねぇし」


 流石は四天王『最薄』の存在。名前の浸透率が低い。


「お二人はどこに行ったのでしょうか?」

「そう言えば……」


 二人の姿が見えない。

 確か、フランカが用があるとかでバプティストを連れて行ったはずだが……


「あ、た、大変……いや、助けて……あの、大変……なんだ!」


 噂をすれば、バプティストが大慌てで姿を現した。

 玄関からテオドラのいるキッチンを通過し、その奥にある、今俺が寛いでいる居間へと駆け込んでくる。


「フ、フランカさんが…………いなくなった……いや、違う……消えたとかじゃなくて…………その…………飛んでいった!」


 ………………は?


「胸筋もないのに羽ばたいたのか?」

「そうじゃなくて……魔法が…………暴走して…………あの……、下の、街の、方に……!」


 山の中腹に存在するカジャの町は、山肌に沿うように街が広がり、高低差が激しい。入り口が町の最下層にあり、そこから斜面を登るように大通りが続いている。

 標高が上がれば上がるほど、街の中でのランクが上がっていく。

 街の幹部や大商人など、権力や名誉を持つものほど高い場所に住んでいるのだ。


 オイヴィの家は、街の大通りを抜け、山頂へ向かってひたすら上った先にある。

 山の中腹に出来た平地に大きな敷地を有し、豪邸を構えているのだ。一等地と言うより、特等席と言う方がしっくりくる立地だ。

 庭からはカジャの街が見渡せる、最高に眺めのいい場所だ。


 で、その庭から、下の街へ向かって、フランカが落ちたらしい。


「魔力の暴走? お前たち、何をしていたんだ?」

「あ、あの……詳しくは……口止めされていて…………大まかに言うと、魔法の練習……ボクの知っていることを…………教えていた、色々と……」

「色々ってなんだ!?」


 知らず、語気が強まってしまった。

 バプティストは、俺の強い口調に押されるように身をすくめ、恐る恐るという感じで口を開く。


「し…………召喚、魔法…………とか」

「バカヤロウ!」


 思わず出た大声に、バプティストは首をすくめる。


 新たな魔法を習得するのは、それなりに危険が伴うのだ。

 新たな技術なら、なおのこと。

 召喚魔法や、高速詠唱など、高度な技術を下手に扱えば魔力が暴走し、とんでもない目に遭うのだ。

 最悪、肉体の崩壊や、魔力の枯渇などもあり得る、危険な行為だ。


 だから俺は、オルミクル村で子供たちに魔法を教える時は細心の注意を払っていた。

 危険の無いように簡単で危険の少ない魔法を選び、その上で万全を期し、さらに万が一の事態にも対応出来るように目を光らせていた。


 だというのに……


「だ、だって……フランカさんが、ご、強引に……教えろって……脅迫してきて……」

「言い訳なんかしてんじゃねぇ!」


 誰がどうとか、自分はこうとか、そんなもんはどうでもいいんだ!

 何があっても守らなきゃいけないもんだがあるだろうが!

 どんな状況になっても変わらない立ち位置ってのがあるだろうが!


 フランカが隣にいたんなら、それがどんな条件下であっても絶対に守りきれってんだ!


「フランカに何かあったら、テメェ……ただじゃおかないからな!」

「それよりも、ご主人さん!」

「あぁ、すぐに探しに行くぞ! 街の最下層は入り口がある場所だが、裏路地の方に入るとスラムがあるらしいからな」


 怪我やそれ以外の理由で仕事につけなくなったはみ出し者が集う無法地帯。

 街の人間が見て見ぬふりを貫く、不可侵領域。

 オイヴィの家がある一等地の真下は、そのスラム街だ。

 掃き溜めと呼ばれるスラム街が、一等地が生み出す陰に隠れるように広がっているってのは、皮肉なもんだけどな。


「待て、ヌシらよ!」


 部屋を出ようとした俺とルゥシールを、鍛冶場から出てきたオイヴィが呼び止める。

 汗とすすで汚れ、髪の毛が顔に張りついている。

 しかし、瞳は力強く輝き、普段は幼さの中に埋もれがちな妖艶さを引き立たせている。


「下へ行くのなら、庭の裏手へ回れ。直接降りられる階段があるでな」

「なぜ、スラムと繋がる階段が?」


 テオドラが驚いて問うと、オイヴィは妖しげな笑みを浮かべる。


「色々あるんじゃよ、ここの最下層と一等地を繋ぐえにしはの」


 表立っては出来ない取引や情報のやり取りがあるのかもしれない。

 スラムの住民だからこそ出来ることもあるのだろう。

 それを詮索するつもりはない。

 そんなことよりも、フランカだ。

 早く下へ降りられるのなら願ってもないことだ。


「行くぞルゥシール!」

「はい!」

「ワタシも!」

「テオドラは料理の続きを頼む。俺たちが戻ったら、すぐに食べられるようにしておいてくれ」

「しかし……」

「きっと、フランカのヤツ、クタクタで腹ペコだろうからよ」


 必ず連れ戻す。

 そういう思いを込めて、テオドラに視線を向ける。

 と、理解してくれたのか、テオドラが大きく頷いた。


「分かった。温まる料理を大至急追加しておく。無事に、見つけ出してやってほしい」

「あぁ。任せとけ!」


 バプティストは庭からここまでの全力疾走で息が上がっている。 

 恐ろしいほどに体力がない。こいつは足手まといになるな。

 大まかな方角を聞き、俺とルゥシールは家を飛び出した。


 オイヴィの言った通りに進むと、庭の裏手へ抜ける細い山道が見つかった。

 その道を進むと、岩を重ねて作った長い階段が姿を現す。

 陽が傾きかけた空は薄暗く、その階段は地の底へと続いているような、そんな錯覚に陥る。

 けれど、いや、だからこそ、早くフランカを助けなければ。

 転げ落ちそうな勢いで駆け下りていくと、街の中腹付近の路地裏へと出た。


 人一人がやっと通れるような細い路地が、何度も何度も折れ曲がりながら遠くまで続いている。

 頭と同じくらいの高さの塀に沿って走る。

 時には体を横に向けて、時には突き出している木の枝をよけるためにしゃがんで。

 俺たちは迷路のような路地裏を突き進んだ。


 オイヴィの家のものよりも造りが雑な、長い長い下り階段に出る。

 段差が均一ではなく、幅も狭い。そして、驚くほどに傾斜がきつい。この階段を造ったヤツは何を考えているんだと説教をしたくなるような、移動のしやすさを度外した『上り下り出来ればそれでいい』と言わんばかりの階段が数十メートル下まで続いている。当然、手すりなんかない。

 足を踏み外したら、数十メートルの高さを落下していくことだろう。

 転がり落ちるなんて甘い期待はしない方がいい。

 崖から落ちるように、二度か三度ほど段差に体をぶつけるだけで、後は真っ逆さまに違いない。こいつは階段というより梯子に近い。


「見通しの悪い細い通路に、トラップまがいの下り階段……まるで迷宮だな」


 おまけに、この下はスラム街だ。危ない連中が跋扈している点も、迷宮に通ずるものがある。

 フランカが心配だ。

 俺は移動速度を上げる。


「ご主人さん、手分けをしましょう!」

「ダメだ!」


 ルゥシールを一人にするわけにはいかない。

 人のいいルゥシールだ、襲い掛かってきた人間を返り討ちにはしないだろう。その甘さが、ここでは足を引っ張ることになる。

 群れられると厄介だ。


「一緒に行動する。その代わり、周りに最大限注意を払ってくれ」

「分かりました!」


 俺はひたすら前だけを見つめる。

 上空を見上げ、塀の上を窺い、ルゥシールにはこの近辺の『異常』を探らせる。

 どんなん小さなことでもいい、手掛かりが欲しい。


「ご主人さん、アレ!」


 ルゥシールが指さしたのは、一本の大きな木だった。

 背丈以上の高い塀の、ずっと向こうに大きく枝を伸ばす木が見えた。

 背の高い木の、かなり上の方の枝が一本折れている。剥き出しになった断面は新しく、無理矢理へし折ったようにギザギザに尖っていた。

 あの高さで、何かにぶつかって折れたのだとしたら、フランカしかいないだろう。


「どこか曲がれる場所を……」

「そんな時間はない! 跳ぶぞ!」


人ひとり分の狭い間隔で向かい合う壁を交互に蹴り、俺は塀の上に昇る。


「では、わたしも!」


 ルゥシールは両膝を目一杯曲げて、勢いをつけてジャンプする。

 ふわりと舞うように跳び上がり、塀の上へと降り立つ。……お前、すげぇジャンプ力だな。


「さぁ、行きましょう!」


 枝の折れた木を目指し、俺たちは塀の上を跳びながら移動していった。


 木の周りは大きめの空き地となっており、地面には雑草が生い茂っていた。

 悪臭が鼻を突き、辺りに散乱しているゴミの山が空気までもを淀ませているように感じる。


「フランカ、いるか!?」

「どこですか!? 返事をしてください!」


 塀の上から空き地を見渡し、声を張り上げる。

 すると、雑草の中から灰色の魔法陣が浮かび上がってきた。

 フランカのもだ。


「いたぞ!」

「フランカさん!」


 塀から跳び下り、魔法陣のもとへと駆けつける。

 腰に届くほど伸び放題の雑草をかき分けて進むと、そこにフランカが倒れていた。

 酷く汚れてはいるが、出血や骨折はしていないようだ。


「大丈夫か?」


 そっと助け起こす。

 体に力が入っていないようなので、両腕で抱きかかえるようにして雑草の中から救出する。


「……怪我は、魔法で治療した…………それで、魔力が尽きた……」


 フランカが動けないのは魔力欠乏症のせいらしい。


「無茶すんなよ。死んでてもおかしくなかったぞ」


 俺は振り返り、さっき降りてきた急な斜面を見上げる。

 何十メートルあるのか分からんが、オイヴィの家は夕闇にまぎれて見えなくなるほど、はるか頭上にある。そこから落下したら、普通は死ぬ。


「……平気。落下の瞬間魔法で衝撃を分散させた……予想外だったのは、あの木…………ろっ骨が折れた」

「頭をぶつけなくてよかったよ」


 何が平気だと、怒鳴ってやりたかったが……フランカが無事だと分かると、途端に脱力してしまった。

 ホッとしたら、怒る気力も無くなった。


「ご主人さん。誰かが向かってくる気配がします」


 俺たちからやや離れ、周りを警戒していてくれたルゥシールが声をひそめて言う。

 耳を澄ますと、確かに複数人の足音が聞こえる。

 見つかると厄介だ。


「ルゥシール。ここを離れる。悪いが、後方を警戒しつつ殿を務めてくれ」

「了解です!」

「フランカ、説教は後にして、とにかく負ぶされ。家に戻るぞ」

「…………ん。分かった」


 ルゥシールの手を借りて、俺はフランカを背負う。

 なるべく揺らさないように気を付けつつ、後は誰にも見つからないように慎重に、俺たちは気配を殺してその場を後にした。

 塀を跳び越えるのは目立ち過ぎるので、方向感覚だけを頼りに、入り組んだ路地裏を駆け抜けていく。

 少し不安になるな、これだけ圧迫感のある路地は。

 知らない場所で迷子になった子供のように、得体の知れない焦燥感が襲ってくる。

 早く帰りたいもんだ。よく見知った場所へ。

 見知った連中の待つ場所へ。


「フランカ」

「…………なに?」

「迷惑はかけてくれてもいいんだけどな」

「……ん」

「心配はさせんな」

「…………」

「分かったな」

「…………うん。…………ごめんなさい」


 それ以降、俺たちは口を利かぬまま、オイヴィの家へと続く急な階段へとたどり着いた。

 ……そうか、これを昇らなきゃいけないのか…………


「……歩く」

「いや、お前は負ぶさってろ」

「……けど」

「そんなふらついた足でこの階段は無理だろう?」

「…………うん。ありがと」


 弱っているせいか、今日のフランカは随分と素直だ。

 元気づける意味も込めて、頭でも撫でてやりたいところだが、生憎今はおんぶ中だ。手が離せない。

 仕方ないので、手の届く範囲で撫でやすいところを撫でておこう。


 ふにふに。


 ――と。

 ぐぃんっ! と、フランカの腕が俺の首に食い込んできた。


「……なぜ今、私のお尻を揉んだの?」

「ち、ちが……いいこいいこって撫でてやろうかと……」

「……なぜ、揉んだの?」

「も……揉んだのは…………む、無意識で…………」

「……このまま意識をなくす?」

「や、やめろ……この階段でそういう冗談は……シャレに…………なら…………ちょ、苦しいんだけど……」


 ふと、フランカの腕から力が抜ける。

 ……マジでオチるところだった。


「……お尻を触ってもいいのは、テオドラだけ」

「それがなぁ、物価が高騰したらしくてなぁ……」


 もう、テオドラのお尻は触り放題ではないのだ。


「……じゃあ、今現在触り放題なのはルゥシールのお尻だけ」

「わたしのお尻も触り放題ではないですよっ!?」


 フランカの落下を防ぐように俺たちの後ろから、階段を上ってくるルゥシール。

 お前のお尻も価格高騰したのか?

 じゃあお尻枕はどうなる?

 俺はこれから何を楽しみに生きていけばいいんだ?


「……階段上る元気がなくなった」

「頑張ってください、ご主人さん! 皆さん心配しているはずですから!」

「じゃあ帰ったらお尻枕してくれるか?」

「ぅぇえっ!? そ、それは……ま、まだダメですっ!」


 ……ちっ。


「………………お尻枕?」

「フ、フランカさん! それに関しては、何も言わないでください……お願いします、色々事情があったんです……」


 ルゥシールの元気もなくなっていく。

 まぁ、俺ほどではないだろうがな!


 うなだれながら、長い長い階段を上っていく。

 ……あぁ、本当にメンドクサイ。


「なぁ、何か話をしてくれないか? 気を紛らわせたい」

「……私が?」

「なんでもいいんだ。頼むよ」

「……そう」


 しばらく考えたあとで、フランカはゆっくりと語り始めた。


「昔々、あるところに、乳ばかりが育って、おつむがちょっと残念なダークドラゴンがいました」

「フランカさん、それわたしのことじゃないですか!? ……って、誰のおつむが残念ですか!? 酷いですよっ!?」


 ルゥシールはなんだか元気そうだ。

 フランカ、まさかこれを狙って? ……策士だな。


「……そのダークドラゴンは、ある日、こんなことを言いました。『わたしは可愛娘ちゃん』」

「にゃぁぁあーっ!? フランカさん、わたし何かしましたか!? 何か怒ってますか!?」

「……私は、あなたが羨ましいのよ」

「え……?」


 思いがけず、フランカが真面目な声を出したので、ルゥシールが戸惑ったような声を漏らす。

 俺も、意識をそちらに向ける。


「……あなたは強い。そして、【搾乳】に必要とされている……」


 俺の肩を掴むフランカの手に力がこもる。


「……オイヴィの話を聞いて……みんな、本気で魔界へ行くつもりなんだって……今更気が付いた。私には、覚悟が無かった」


 フランカの白く細い指に込められた力は、自分自身に対する怒りによるものなのだろうか。

 微かに震えているのは、不安だから、なのだろうか。


「……【搾乳】は、きっと魔界へ到達する。その隣には、ルゥシール……あなたがいる。そして、テオドラも……彼女は強い。それに、彼女の剣にはなにか……決意めいた重い想いが込められている気がする」


 まぁ、その重い想いは、父親の加齢臭が原因なんだけどな。


「……それで、ふと思ったの。…………『じゃあ、私は?』」


 フランカの喉が小さな音を漏らす。

 呼吸する音が、耳元ではっきりと聞こえる。……微かに、震えている。


「……私は、ある程度の魔法が使えるだけの、ただの魔導士……その魔法にしても、【搾乳】はもちろん、バスコ・トロイにも、バプティストにも通用しない……遠く、及ばない」


 バスコ・トロイにバプティスト、まぁ俺も含めてもいいが、そいつらはみんな高位の魔導士だ。最高位と言ってもいい。

 魔導士の中で群を抜いて優れた者はエリートと呼ばれ、魔導ギルドの重要機密研究に参加させられる。バプティストがそんな高位魔導士の一人だ。

 バスコ・トロイに至っては、その高位魔導士を束ねる存在だ。

 一冒険者である魔導士が敵うはずがない。相手が悪いのだ。


 とはいえ……今後相手にするのは、そのレベルの魔導士……もしくは、それ以上のとびっきり危険な連中になるだろう。

 確かに、今のフランカのレベルでは付いてこられないかもしれない。


「……だから、力が欲しかった。私がまだ知らない、強大な力が」

「それで、バプティストを連れ出して修行をしようとしたのか」

「……そう。出来る事なら【魔界蟲】を使役して……それが無理でも、最低限召喚魔法でも使えるようになればと、思った」


 最低限って……

 国を挙げて研究しているトップクラス技術だぞ。

 それも、決まった施設で、時間と労力と金と人材をつぎ込んで完成させた特殊な魔法陣を使用して、やっと実現出来るレベルだ。

 召喚魔法なんか、旅先でちょちょいと出来るような代物じゃない。


「にしても、バプティストはやめといた方がいいんじゃないか?」


 あの口下手が教え上手とはとても思えない

 今日だって、魔力を暴走させてあわや大惨事になるところだったのだ。

 向き不向きで言えば、完全に不向きだ。

 だというのに、フランカはきっぱりとした口調でそれを否定した。


「……イヤ。私は、バプティストに教えてもらう」


 揺るがない、強い意志が声に込められている。


「……彼を見て思ったわ。この人しかいないって」


 フランカの声には自信めいたものを感じる。

 そこまでバプティストを信用しているのか?

 ……それとも、もしかしてフランカはバプティストのことを…………


「……初めてなのよ…………」


 ためらいがちに呟かれた言葉。そして続いて発せられた言葉は、明確に、揺るぎなく、はっきりとした声で発せられた。


「……アゴで使える、自分より高位の魔導士に出会ったのは」


 バプティスト、がんばれ。

 お前、『利用価値』はあるみたいだぞ。

 決して尊敬はされていないようだが。


 どこか、妙に安心して、俺は長い上り階段を進む。

 傾斜も勾配も急で、中盤以降は歩くことに一生懸命になっていた。


 だから、気が付かなかったのだ。背中で呟かれた小さな小さなその一言に……



「……強くなって、ずっとあなたと…………」



 ようやく、オイヴィの家が見え始めた頃には、すっかり日が落ちていた。

 早く飯が食いたい。

 俺の頭の中は、そんなことでいっぱいだった。







ご来訪ありがとうございます。


高地と低地の落差が激しい町とか、高い塀に囲まれた狭い路地とか、

そういう景色に『異国』を感じます。

賑わう表通りの喧騒も聞こえない寂しい路地裏。

そこで迷子になる心細さ。


たまに、あえてそんな場所で迷子になりたい気になる時があったりして。

一人になって考え事をしたい時とか、

逆に、何も考えたくないほど心がすり減っている時とかに……


フランカはそんな気分だったのかもしれません。

おそらく、この少しの時間一人で見も知らない場所に放り込まれたことが、

今後の彼女に大きな変化をもたらせることでしょう。


キャラクターをえがくのももちろん、

街の雰囲気や、風景の匂いみたいなものもちゃんと書いていきたいなぁと思います。


……キャラクターの匂いに関しては前回書きましたしね。

いや、そういうことではないんですが……



今後とも、よろしくお願いいたします。


とまと

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