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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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70話 テオドラ 剣に込める想い

 オイヴィの家には、かなり広い裏庭があった。

 多種多様な樹木が植えられ、花が咲き、美味しそうな果実が生っている。

 それらが美しく調和し、まさに庭園と呼ぶに相応しい癒される空間が広がっていた。

 大きな池には石橋がかかっており、その周りには砂利が敷き詰められている。


 その砂利の上に、俺は大の字で寝転がっていた。

 脇にはさっきまで握りしめていた木刀が転がっている。

 ……テオドラ、手加減って言葉を覚えようか。


「どうしたのだ? ウォーミングアップの後に休憩しては、折角温めた体が冷えてしまうぞ?」

「バカヤロウ。既に全力を使いきったわ」

「はっはっはっ。冗談がうまいな。君の実力から言えば、こんなもの運動のウチにも入るまい」


 高く買ってもらっているようで嬉しいが、肺が痛いんですけどね、既に。

 確かに、戦闘モードに入ればもう少し無茶も出来るだろうが……

 にしてもテオドラの身体能力は異常だ。こいつの心臓は鉄で出来ているんじゃないのか? オイヴィが打った特別な鉄で出来ていると言われても信用してしまうな。


 俺たちは、木刀を使用した模擬戦形式の稽古を行っていた。

 剣には割と自信があったのだが、テオドラ相手では子供と大人くらいの差があった。

 俺が全力で打ち込んでも、テオドラは最小限の動きでそれを捌き、一瞬のトップスピードで何度も打ちこまれてしまうのだ。

 そりゃ、疲労に差が出るのも仕方ないだろう。俺が一方的にやられているのだから。


 いうなればアレだ、ルゥシールと全力疾走で競うようなものだ。

 勝てるわけがない。


「お前、剣は誰に教わったんだ?」

「父だ」

「ルゥシールか?」

「『乳』ではない、『父』だ!」

「あぁ、そっちか」

「普通、そっちしかないと思うのだが……」


 っていうか、『乳=ルゥシール』という認識はちゃんと伝わるんだな。


「親としての父はとても子煩悩で優しい人だったが、師匠としての父は厳しく、そして誰より強かった。ワタシの目標だ」


 そう語るテオドラの目は、いつにもまして透き通り、輝いていた。


「じゃあ、父親を越えるために魔界に行って、修行をするつもりなのか?」

「……いや、ワタシが魔界に行きたいのは…………父に謝りたいからだ」


 輝いていた瞳に陰りが見え、それを払拭するように視線が鋭さを増す。

 テオドラは静かに木刀を正眼に構え、俺に向かって切っ先を向ける。


「もう一本、願いたい」

「拳や剣で語り合うのは、男同士のやることだと思うがな……」


 悲鳴を上げる体に鞭打って、俺はテオドラと向き合い、木刀を構える。


「剣と剣をぶつければ、その人の心が分かると、父が言っていた。君には、ワタシの全てを知ってほしい」

「出来れば、言葉で伝えてほしいところだな」

「……言葉では伝わらない、もっと奥深くの……本当のワタシを感じてくれ」


 懇願するような目でそう言って、テオドラは砂利を踏みしめ打ち込んできた。

 木刀を横にして一太刀目を受ける。が、すぐさまテオドラの木刀が切り返され、横薙ぎに胴を狙ってくる。今度は切っ先を下に向け、刀身を立ててそれを受ける。

 受け止める度に腕に衝撃が走り、神経が痺れていく。

 なんちゅう重い太刀筋だ。

 この重さの中に、テオドラの想いが込められているというのか……


 それからまた小一時間程度打ち合い、俺は散々木刀で殴られ、滅多打ちに遭った。

 ようやくテオドラの額に汗が浮かび始めたころ、テオドラの猛攻が止まった。

 息を弾ませてテオドラが俺に問いかけてくる。


「どうだ? 伝わったか?」

「……あ、うん、やっぱ言葉で伝えてくれないか?」


 いくら剣をぶつけても、体力が削り取られるだけで何ひとつ伝わってこない。

 テオドラが相当真剣に剣の道に取り組んでいたことだけは、嫌というほど理解出来たけどな。


「そうか。……言葉で伝えるのは恥ずかしいな…………では、照れ隠しに、打ち合いながら聞いてはくれまいか?」


 まだ打ち合うのかよ……


 しかし、そうしないと話せないらしく、俺は腹を決めて木刀を正眼に構える。

 テオドラがはにかむように微笑み、嬉しそうに呟く。


「君は、本当にいいヤツだな」


 そして、打ち込む間際、視線が研ぎ澄まされ、俺を射抜く。

 だから、それが怖ぇんだって……


 今度の打ち込みは浅く、かなり手加減されている。

 俺に話を聞く余裕を与えるため……というより、自分がどう話したものかと悩んでいるために剣筋に迷いがあるといった感じだ。


「ワタシは、父を越えたいと思っていた」


 カーンと、乾いた音を響かせて木刀が衝突する。

 基本に忠実な、真っ直ぐな太刀筋だ。


「父との稽古は本当に楽しくて、ワタシは稽古をするために毎日を生きていた。大袈裟でなく、父と剣を交えることが、ワタシの人生のすべてだったのだ。あの頃はな」


 軽快に、木刀がカンカンと打ち込まれていく。

 弾むような太刀筋に、テオドラの喜びが反映されているようだ。

 なるほど、剣を交えて相手を知るということが少しだけ分かってきた気がする。


 そして、いきなり重い一太刀が降りかかってくる。

 ドンと、鈍い音を上げ、木刀を伝って俺の腕を痺れさせる重い一撃が繰り出される。


「……けれど、ある日突然その生活は終わりを告げた。父が、姿を消したのだ」


 テオドラの木刀が動きを止める。

 それでも、テオドラの鋭い視線に晒されて、俺は反撃に出られないでいた。


「十五の頃になると、ワタシはある程度父と長く打ち合えるようになっていた。一度の攻撃に、一度の防御に、一度の回避に、全ての動きの一つ一つに全力を注いでようやく追いつける程度ではあったけれど……父の動きに喰らいついていけることが本当に嬉しかった」


 攻撃防御回避と、動作の切り替えの度に一々全力を注げるというのは、それが既に才能だと思うのだがな。

 流されず、集中力を途切れさせず、狙いがぶれず……一つ一つの動きに全力を入れられたからこそ、テオドラは父親に喰らいついていけたのだろう。


 逆の立場から言わせてもらえば、ほんのちょっとでも気を緩めた瞬間、俺は漏れなくテオドラに一撃をもらっている。

 すべての動作に全力を注げなどというのは、相当難易度の高い要求だ。


 だが、こいつはそれをやってのけた。

 そしてはるかに格上の、目標としていた父親に、父親の実力に肉薄したのだろう。


「そして、十六の誕生日を迎えた朝、ワタシは生まれて初めて父に一太刀浴びせることが出来たのだ」


 そんな言葉と共に、上段からの振り降ろしが放たれる。

 言葉は嬉しそうに、けれど太刀筋はとても重く、そして荒々しかった。


「その翌日……父は突然姿を消した」


 木刀を弾いた音が鳴り響き、残響が消えるまで、俺は呼吸すら出来なかった。


 テオドラの父親がどれほどの腕前だったのかは分からない。

 けれど、このテオドラが憧れ目標にするほどの人物だ。相当の達人だったに違いない。

 剣に生きる達人は当然、己の剣に相当の自信を持ち、信念を持ち、プライドを持っている。

 いくら才能があるとはいえ、十六になったばかりの娘に一太刀を浴びせられたことは、剣士として、容易に許容出来るものではなかったのだろう。

 いや、才能があるからこそ、テオドラの将来に畏怖を覚えたのかもしれない。


 姿を消した父親はきっと、己を見つめ直し、剣を磨くために修行に出たのだ。

 何も告げず、一人で、そっと。


 そして、そのことがテオドラを苦しめているのか……


「……ワタシが、あんなことをしなければ…………父は、いなくならなかったかもしれない。あんな、ことを……」

「それは違うだろう」


 ここで初めて、俺はテオドラに反撃の一太刀を振るう。

 俺の一太刀はテオドラの木刀に弾かれて、小気味よい音が鳴り響く。


「お前の父親は、むしろ喜んでいたんじゃないのか?」

「何を根拠に、そんなことを……っ!」


 強めの一撃が返され、俺はそれを木刀の腹で捌く。


「根拠はお前だ」


 切り上げるように木刀を大振りし、テオドラが身を引いたところへ、斬り降ろしの一撃を見舞う。

 軽く防がれるが、木刀の芯を捉えた澄み切った音が鳴る。


「自分を越えるかもしれないつわものが現れたくらいで腐るようなド三流に、お前ほどの達人が憧れるわけがないし、そんなヤツの教えなら、お前はここまで強くなっていない」


 流れるままに突きをお見舞いするが、それは柄頭で軽くいなされる。

 木刀を寝かせ斬り込んでくるテオドラに、こちらから一歩踏み込んで、木刀を振られる前に刀身をぶつける。

 鍔迫り合いながら、テオドラに顔を近付け、息がかかりそうな距離で言ってやる。

 目を真っ直ぐに見つめ、否定の余地がないように。


「お前は間違っていない。お前の一太刀は、すでに達観していた一人の剣士に新たな道を示したんだ。まだ強くなれる余地があると、目覚めさせてやったんだ」


 だから、お前は誇ればいい。

 何も、後ろめたく思う必要などないのだ。


 しばしの間そうしてテオドラの澄んだ瞳と見つめ合う。

 が、不意にテオドラの眉がひしゃげて、困ったような表情を見せる。


「……何を言っているのだ、君は?」

「え?」


 あれ、俺の言葉、届かなかった?

 結構いいこと言ったつもりなんだけど?


「父がいなくなったのは、ワタシが酷いことをしたからだ」

「だから、一太刀浴びせたのは酷いことじゃないだろう? そりゃ、お前の父親がプライドの高い人だったのかは知らんが……」

「父はお調子者でひょうきんな、どちらかといえばもう少し人としてのプライドを持ってほしいくらいの人物だったぞ」


 え、そうなの!?


「まぁ、ある種のプライドは……あったのかも知れない。それをワタシが傷付けたのだ……」

「お前……何をしたんだ?」


 そう問うと、テオドラは唇を噛み、神妙な面持ちで、ゆっくりと一言ずつ、言葉を発していった。


「模擬戦で勝てば、父はワタシの願いを何でもひとつ聞いてくれると、そんな約束をしてくれていたんだ」


 父が娘の願いを聞く。

 それ自体は特別おかしなことでないと思うが……


「それでワタシは。予てよりずっと心に思っていたことを父にお願いしたのだ」


 一体、何を願ったというのか……

 その内容が、テオドラの口からもたらされる。


「父に、『自分の下着は自分で洗ってほしい』と」


 ………………ん?


「それまではワタシがまとめて洗っていたのだが……その…………父は加齢臭がキツイ人で……一太刀浴びせたワタシは、その時の興奮も手伝って、はっきりきっぱり言ってしまったのだ……『父は臭いから下着を洗うのはキツイのだ』と……っ!」


 ……………………うん。それは、キツイな。父親の方が。

 愛する娘に言われたら、俺ならその場で泣き叫ぶ。

 加齢臭…………俺、大丈夫かな? いや、大丈夫だとは思うが……そう言われると気になってしまうな……すんすん…………大丈夫だよな?


「翌朝、父は姿を消してしまった。しかも…………下着を穿いて!」

「いや、下着は穿いていくだろう、普通に……」

「脱ぎ捨てていってくれれば、罪滅ぼしに洗っておけたものを……っ! 父は、それすら許してはくれなかった……っ!」

「いや、だから……父親がノーパンで旅に出る方が嫌だろって」

「ワタシはもう、二度と父の下着を洗うことは出来ないのかっ!」

「洗わなくてもいいだろ、それは別に」

「父のパンツが洗いたい!」

「とんだ変態娘だな、お前は!?」


 ちょっとビックリな発言だった。

 テオドラは少し取り乱しているようだ。


「……で、それでなんで魔界を目指しているんだ? 加齢臭と魔界は関係ないだろう」

「そうでもない」


 落ち着きを取り戻し、テオドラは空を見上げる。

 次元の結界が存在する方角、はるか遠い魔界へと視線を向ける。


「魔界は結界により密封されていると聞く」

「まぁ、そうだな」

「なら、とてつもない加齢臭を放つ魔物がいたら、魔族は死滅してしまうのではないか?」

「そんなんことはねぇよ」

「いいや、死滅するさ、だって臭いのだから! ……けれど、魔法は使える。魔法が使えるということは、魔物は生きている。つまり、魔界には、密封された空間でも加齢臭が気にならなくなる方法があるに違いない。それは何か? そう考えてワタシと父はある答えにたどり着いた! きっと、魔界には、自分の体臭を抑える薬があるに違いないとっ!」

「頭の悪さは父親譲りなのか、お前?」

「失敬な! 父は臭いだけで決してバカではない!」

「お前、反省してないだろ、本当は!?」


 思いっきり臭いって言いやがった。

 こいつ、ダメだ。いつか再会して、感動的に抱き合った瞬間に「臭っ!」とか言いそうだ。


「だから、ワタシは魔界に行かなければいけないのだ! どうしても! そして、加齢臭を抑える薬を手に入れて、父ともう一度、剣の道を共に歩きたいのだ!」


 拳を握り、熱く語るテオドラ。

 正直、ここまでくだらない理由で魔界を目指しているヤツは、まぁいないだろう。


 しかし、自分のせいで父親が姿を消したというのは、話で聞くよりも相当辛いことかもしれないな。

 こいつは、それからずっと一人っきりなわけだし……だから、オイヴィにあそこまで懐いているのかもしれないな。

 オイヴィは、なんだかんだで包容力があるからな。


「ワタシの剣には、想いが宿っているのだ……ワタシのすべてが……」


 木刀を構え、その切っ先を見つめる。テオドラの目は真剣そのものだ。


「ワタシは、必ず魔界に行ってみせる! 父の加齢臭のために!」

「父のためにって言ってくれるかな、今後!?」


 加齢臭のためにこいつに協力するのはなんかヤダ。


 とはいえ、親娘が一緒に暮らすのはいいことだからな。むしろ、それこそがあるべき姿なのだ。

 そのためになら、力を貸してやってもいいかもしれんな。ついででもあるし。


「それにしても、随分とファザコンだったんだな」

「ワタシがか? いやぁ、それはどうだろう。仲が良かったとは思うが…………一度、ワタシの入浴を覗こうとした父を半殺しにしたことがある」


 父親ヤバイな!?

 なに実の娘の入浴覗こうとしてんの!?

 父が乳を覗いていいと思ってんの!?

 一緒にいない方がいいんじゃないのか?


「あのぉ……」


 俺が、テオドラ親娘のあり方を真剣に憂慮していると、背後から声がかけられた。

 振り返るとルゥシールがいた。

 なんとも険しい顔をしている。ちょっと泣きそうでもある。


「先ほどから『乳の匂い』の話をされているようですが…………やめてもらえませんか? なんというか、心が痛いです」

「違うぞ、ルゥシール。ワタシの父の加齢臭の話だ」

「それもやめませんか?」


 ルゥシールの表情がさらに険しくなる。

 と、その背後に広がる空を見て気が付く。

 もう夕方になっていた。空が真っ赤だ。いや、もうすぐ日が沈む時間か。


 随分と長い時間、俺はテオドラと剣の稽古をしていたんだな。

 どうりでクタクタになるはずだ。

 今日の飯はうまそうだ。


 と、そんなことよりもだ。


「ルゥシール。お前、オイヴィの手伝いはどうした?」

「これからしばらくは、わたしがいない方がはかどるということで追い出されてしまいました。知識がないと足手まといになるのでしょうね」


 なるほど。それで手持ち無沙汰になったわけか。


「オイヴィさんからの伝言で、『テオドラに飯の準備をよろしく頼むと伝えてくりゃれ』とのことでした」

「うむ。承知した。腕によりをかけて、ご馳走を振舞おう」


 テオドラが腕まくりをして気合いを入れる。


「と、オイヴィさんの伝言を伝えるためにこちらに来たのですが……そうしたら、裏庭からお二人の声が聞こえてきて……『乳』がどうとか、『匂い』がどうとか……それで、これは止めないとと思いまして……」


 盛大な勘違いをしていたわけだな。

 そのせいか、ルゥシールは少しだけ頬が赤い。


「そ、それで、あの…………」


 もじもじとして、すすすと、テオドラににじり寄る。

 ん? 何をする気だ?


「変なことを聞いてもいいでしょうか?」

「鼻をほじる時に何指を使うかか?」

「そんな変なことに興味なんかありませんよ!?」

「どうだろうか…………小指……いや、でも深追いをしたい時は……」

「答えなくていいですよ、テオドラさん! 女子なんですから、恥じらいを持ってください!」

「おぉ、そうか。ワタシも女子だったな」


 こいつはちょいちょい自分の性別を忘れているのだろうか……


「そうではなくてですね……確認というか…………」


 少し躊躇した後で、ルゥシールはテオドラの手を取り、目を見つめて問いかけた。


「テオドラさん、『処女』って、正しく理解してますか?」

「なんだ、そんなことか? 当然だろう」


 さも当然なことのように、テオドラが胸を張る。


「子供が生まれるような行いをしていない女子のことだろう」

「……あ。あってますね」

「つまり、膝枕未経験者だ!」

「………………やっぱりでしたか。いや、初めてお会いした時に不穏な発言が相次いでいたもので……確認しておいてよかったです。今後は、ご主人さんと同じ扱いをさせていただきます」


 ルゥシールが、どこか失礼な雰囲気の籠ったため息を漏らす。

 俺にもテオドラにも失礼な気がするのだが……


 でも、それよりも…………マズいかもしれないな……知らなかったとはいえ…………


「どうしよう、ルゥシール……」

「え? ど、どうかしましたか?」

「俺…………」

「はい」

「…………………………処女じゃないっ!」

「……はい。当然です」

「そして、お前もっ!」

「わたしは処…………違うことはないです!」

「え? 処女なの?」

「そのように呼ばれるものです!」

「なんで自分のこと処女って言わないの?」

「恥ずかしいからです!」

「「えっ!? 処女って恥ずかしい言葉だったの!?」」


 俺とテオドラの声が重なる。

 マジか、やっべぇー! 超連呼しちゃった……


「……これから、ちょっとしんどくなりそうな気がします…………」


 なぜか、ルゥシールがぐったりとしている。

 っていうか、なんで膝枕したのに違うんだろう? ………………分からん。


「あ、そういえば。出会った時って、テオドラのお尻触り放題だったんだよな?」

「いえ。そのような過去はありませんでしたよ? ご主人さんの妄想です」

「いや、『尻は触っていい』って、テオドラが。なぁ? 言ってたよな?」

「ぅえっ!?」


 話を振ると、テオドラは変な声を出した。

 あれ?

 言ってたよな?


「た、確かに……あの頃は、その…………尻くらいいくら触られても、何も感じないと思っていたのだが…………き、君が、あんな……足の裏とか……あんなことをするから…………」


 身を屈め、俺を警戒するように二歩三歩と後退していく。

 尻を後ろに突き出し、少しでも俺から遠ざけようとしているようだ。


「今度一揉み、よろしく頼むよ」

「ダ、ダメだっ!」

「…………物価が上がった……」

「物価ではなくて…………ワ、ワタシに価値があると言ったのは、き、君だろう!? 価値があるものは、おいそれと差し出すわけにはいかない! 特に、君には………………羞恥心に押し潰されて死んでしまう……」


 くっそぉ……あの時に触っておくべきだった!

 俺、たまにあるんだよなぁ……「あ、これいいな」と思いながらも「今はいらないや」ってスルーしたものの、後からすげぇ欲しくなって急いで買いに行ったら売り切れてたとか……やっぱり、手に入る時に手にしておかなきゃいけないってことか……


 俺はまた、ひとつ大人になったよ……



 その後、西の空に太陽が姿を消したところで稽古は終了し、俺たちは家の中へと戻ることにした。


 室内へ入る直前、ルゥシールが俺を呼び止め、俯き加減に視線を向けてくる。

 そして……


「……ダメですからね。二人っきりになったからって…………そういうことしちゃ」


 ふくれたようにそう言って、俺を残して先に室内へと入っていってしまった。


 取り残された俺。

 なんだったんだ、今のは?

 釘を刺された? けど、何に?


 ルゥシールのすることは、たまによく分からない。

 よく分からないのに……心臓はやかましいほどに暴れ狂っている。


 あの上目遣いはダメだ。苦手だ。

 見てるだけでドキドキしてしまう…………

 アレルギーじゃないだろうな?

 上目遣いアレルギー。……呼吸は苦しいし、動悸はするし、ちょっと頭もクラクラする。

 しばらく禁止するか…………………………いや、やめておこう。


 あの顔を見られなくなるのは、惜しいからな。



 呼吸を整えるために大きく深呼吸をすると、盛大に腹が鳴り、俺は家の中へと入っていった。







ご来訪ありがとうございます。


本物の剣士なら、剣を重ねることで思いが伝わるはず……



無理だったようです。


そりゃそうです。

拳で語り合うとか、無茶ってもんです。

口で言ってくれなきゃ分かんないです。


女「私の事好き?」

男「言わなくても分かるだろ」

女「言ってくれなきゃ分かんない~ぃ!」


みたいなことです。



女「私の事好き?」

漢「よし、拳で語り合おうぜ!」


これはあり得ない……

うん。やはり気持ちは口で伝えましょう。



そして後半、いいタイミングで登場したルゥシールですが、

これはきっと、オイヴィが気を利かせてくれたんでしょうね。


ご主人さんとテオドラが二人きりでどこかに行ってしまって、

ちょっとそわそわ、心ここにあらずな感じだったのでしょう。

で、気の利くオイヴィは「ここからはプロの仕事だから」と、ルゥシールをご主人さんのもとへ……


くぅ~!

さすが、見た目はロリでも中身は大人!


抱っこして寝たい!




次回もまたよろしくお願いいたします。


とまと

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